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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第10章 十六歳、国の仕組みを書き換える

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閑話 断頭台を作った男

 俺の名はクルト。王都の処刑執行人だ。いや、昨日までそうだった。


 ◇


 親父も処刑人だった。爺さんもそうだ。三代続いた家業だった。


 誰も俺に近づかなかった。酒場で隣に座れば席を立たれ、市場では釣り銭を台の上へ置かれた。直接この手に触れたくないのだ。


 嫁をもらおうとしたこともある。三度断られ、四度目は申し込む前に諦めた。


 それでも、法が処刑を定める限り、誰かがやらなければならない。俺が七歳の時、親父は斧の握り方を教えた。


 「刃は研いでおけ。鈍い刃は苦しみを長引かせる。せめて一撃で終わらせる。それが俺たちにできる情けだ」


 人を殺す仕事に、情けなどあるのか。そう聞けないまま、三十年が過ぎた。


 ◇


 処刑の日は、夜が明ける前に広場へ行く。台の板を調べ、緩んだ釘を打ち直す。首を置く窪みにささくれがあれば削り、斧の柄にひびがないか確かめる。


 爺さんの代から同じ台だと言われていたが、板も金具も何度も取り替えた。俺が直した部分ばかりになった頃、酒場の連中は陰で俺を「断頭台を作った男」と呼ぶようになった。


 台の上では考えない。考えれば手が止まる。手が止まれば狙いがずれる。狙いがずれれば、親父の言った情けさえ失う。


 だから、罪状も名前も頭に残さないようにした。それでも、忘れきれないものはある。


 何度も結婚指輪へ口づけた男。処刑台へ上がる直前まで、母親に謝り続けた若者。誰にも聞こえないほどの声で、子供の名を呼んだ女。


 顔はもう思い出せない。だが夜になると、声だけが聞こえることがある。


 誰が本当に罪を犯したのか、裁判が正しかったのか。俺には確かめる手段がなかった。判決文に印があれば、斧を振る。それが仕事だった。


 もし間違っていたとしても、翌朝になれば取り返しはつかない。


 そのことだけは、考えないようにしても消えなかった。


 ◇


 昨日、貴族院で死刑制度の廃止が決まった。酒場の隣の卓で、誰かが大声で読み上げた。


 「死刑を廃止し、終身幽閉を最高刑とする。重大犯は王国直轄の区画へ収容する」


 反対の声も上がった。


 「人殺しを税金で養うのか」


 「脱獄したらどうする」


 別の客が、議場で同じ問いが出たらしいと話した。牢を直し、警備を増やし、間違いがあれば裁判をやり直す。その責任を国が負うのだという。俺には、政治の正しさはわからない。


 ただ一つわかる。判決が間違っていた時、斧では直せない。牢の扉なら、まだ開けられる。


 ◇


 今朝、いつもの時刻に目が覚めた。体は勝手に砥石のある物置へ向かい、斧へ手を伸ばした。そこでようやく、研がなくてよいことを思い出した。安心した、とはすぐに思えなかった。


 三代続いた仕事がなくなった。五十を過ぎた男が、明日から何をして食べていくのかもわからない。台の修繕ならできる。釘も打てる。木材の歪みも見分けられる。だが、処刑人だった俺を雇う大工がいるだろうか。怖かった。


 それでも、斧を研ぐ手が止まらなかった朝よりは、この怖さのほうがいい。


 俺は刃へ油を塗り、布で包んだ。捨てることはできなかった。親父と爺さんが使い、自分も三十年握った道具だ。けれど、壁には戻さなかった。


 物置のいちばん奥にある木箱へ入れ、蓋を閉めた。


 外へ出ると、朝の市場が開き始めていた。材木屋の前に、荷下ろしを待つ板が積まれている。俺はしばらくそれを眺めた。


 人を載せる台ではないものを、同じ手で作れるだろうか。まだ、わからない。


 わからないから、まずは材木屋の主人に、仕事がないか聞いてみることにした。


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