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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第10章 十六歳、国の仕組みを書き換える

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婚礼の準備

 翌春三月、十八歳の誕生日の翌日に行われる婚礼まで、あと一年。いよいよ準備が始まった。


 ◇


 最初に始まったのは、ドレスの仮縫いだった。王宮の仕立て部屋には白い布が広げられ、仕立て師たちが忙しく動いている。


 セレスティアは白い下地のドレスをまとい、台の上に立っていた。仮縫いの針が刺さっているため、動けない。


 「お嬢様。腕を上げてください」


 仕立て師が声を上げた。


 「上げてる」


 「もう少し」


 「これ以上上げたら肩が外れる」


 「大丈夫です。外れません」


 リリアーナが椅子に座って見ていた。目が潤んでいた。


 「お母様。泣かないで」


 リリアーナは返事の代わりに、仕立て布の端をそっと撫でた。


 「……この布、あなたによく似合うわ」


 「うん」


 「お母様」


 「だって、こんなに大きくなって。白いドレスを着て。お母様、幸せよ」


 母はもう、隠しようもなく泣いていた。つられて、セレスティアの目も潤んだ。


 「お母様。泣いたらわたしも泣くから。やめて」


 「泣きなさい。嬉しい涙は、流していいの」


 仕立て部屋で母娘そろって泣き、仕立て師を困らせた。


 ◇


 マルガレーテが仕立てを手伝っていた。


 「マルガレーテ。ドレスの仕立ては専門外でしょう」


 「わたくしは何でもできます。侍女長ですから」


 「侍女長だからって裁縫は」


 「昔、リリアーナ様のお母上のドレスも、わたくしが手伝いました」


 「昔。マルガレーテ、何歳から侍女をしているの」


 「年齢は侍女の秘密です」


 マルガレーテの手つきは確かだった。針の運びが正確で、布の扱いが丁寧で。


 ◇


 次は花の選定だった。ナターシャが候補の一覧を持ってきた。


 「婚礼の花です。薔薇、百合、ジャスミン、蘭」


 「ラベンダー」


 「はい。最初に書いてあります」


 「ラベンダーがいい。メインの花はラベンダー」


 「王族の婚礼でラベンダーをメインにするのは、前例がありません」


 「前例は作る」


 ナターシャが微笑んだ。


 「承知しました。フリーデリケさまに、大量注文を出します」


 「フリーデリケ、喜ぶだろうね」


 「喜びすぎて畑を全部刈り取りかねません。加減を伝えておきます」


 ◇


 招待客リストは、ヴィオレッタが管理していた。


 「セレスティア。招待客が三千人を超えたわ」


 「三千。多すぎない?」


 「王族の婚礼よ。少ない方。でも、あなたの婚礼には特殊な事情がある」


 「特殊?」


 「平民の招待。初めてよ。王族の婚礼に平民が招かれるのは」


 「平民」


 「ナターシャさんの情報局の人たち。フリーデリケさんの領地の人たち。魔力教育で学んでいる平民の生徒たち。あなたの改革に関わった人たちよ」


 「呼びたい。全員」


 「全員は無理よ。でも、代表者を。百名ほど」


 「お願い、ヴィオレッタ」


 「任せて。リスト作りは得意よ。扇で仕分けるわ」


 ◇


 一方、式典の行政手続きは、イザベラが担当していた。


 「婚礼の行政手続き。王族婚姻届。領地統合の書類。王妃就任に伴う権限移譲の法的整備。全部で百二十七件」


 「百二十七」


 「段取りは完璧よ。三ヶ月前に準備を始めてある」


 「三ヶ月前。婚礼の日程が決まる前に?」


 「決まると分かっていたもの。あなたとアレクシス陛下を見ていれば」


 セレスティアの顔が赤くなった。


 「イザベラ」


 「何?」


 「分かってたの」


 「行政官の仕事は先を読むことよ。あなたに教わったわ」


 イザベラが笑った。


 「それと、もう一つ」


 「何?」


 「婚礼のスピーチ。わたしが書いてもいい?」


 「スピーチ。イザベラが?」


 「行政官としてではなく。友人として」


 セレスティアの胸が温かくなった。


 「もちろん。お願い」


 「任せて。棘のない言葉で書くわ。一回くらいは」


 二人で笑った。


 ◇


 神殿の祝福については、アネリーゼが準備を進めていた。


 「婚礼の祝福の儀式。大神官猊下と相談して、特別な形式にしました」


 「特別?」


 「光の祝福。聖魔力の持ち主の婚礼ですから。通常の祝福に加えて光の祝福を。わたしが担当します」


 「アネリーゼが」


 「はい。わたしの光で、セレスティアさまとアレクシス陛下を祝福します。これがわたしにできる、最高の贈り物です」


 アネリーゼの目は、比喩ではなく本当に光っていた。治癒の光が瞳の奥で輝いている。


 「ありがとう、アネリーゼ」


 「いいえ。セレスティアさまに出会えなければ、わたしは今もまだ怯えていた少女のままでした。この光をお返しする日が来て、嬉しいです」


 ◇


 南方の祝福については、リディアが手紙で提案していた。


 『セレスティアさま。婚礼おめでとうございます。


 南方には「花嫁の道」という風習があります。花嫁が歩く道に、花びらを敷く。その花びらが多いほど、祝福が多い。


 わたしの故国の花びらを送ります。白い花です。名前は「月の涙」。故国では最も高貴な花とされています。


 セレスティアさまの道に月の涙を敷かせてください。故国を失ってからも守ってきた、わたしの大切な宝物です。


 リディアより。』


 手紙を読み終えると、また涙がこぼれた。


 「リディア。ありがとう」


 ◇


 夜になると、ベッドに座って日記帳を開いた。


 『婚礼の準備が始まった。


 みんなが動いてくれている。おかあさまが泣いた。マルガレーテが針を持った。ナターシャが花を選んだ。ヴィオレッタがリストを作った。イザベラが書類を揃えた。アネリーゼが光を準備した。リディアが花を送った。


 全部、わたし一人ではできないこと。』


 ペンを置くと、日記帳の横にリディアから届いた白い花びらを一枚置いた。遠い故国で守られてきた花も、母の涙も、友人たちの仕事も、すでに同じ婚礼へ向かっている。


 自分一人では作れない道を、皆がそれぞれの場所から少しずつ敷いてくれていた。


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