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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第10章 十六歳、国の仕組みを書き換える

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コンラートの答え

 春になり、桜に似た白い花が王宮の中庭に咲いていた。


 昼。セレスティアは執務の合間の休憩に、石段へ座っていた。


 かじっていたのは、フリーデリケが送ってくれた、りんごと蜂蜜とシナモンのパンだ。冬向けの味だが、春になっても十分おいしい。足音に顔を上げると、コンラートが来ていた。


 「よう。一人か」


 「一人。フリーデリケが来るはずだったんだけど。まだ領地から戻ってない」


 「あいつはのんびりしてるからな」


 「のんびりじゃないよ。雪解けの道が悪くて、馬車が遅れてるの」


 「同じだろ」


 「同じじゃないよ」


 コンラートは、いつもの石段の、フリーデリケが座る席とは反対側に腰を下ろした。


 「パン、食べる?」


 「いいの? フリーデリケのパン」


 「フリーデリケは怒らないよ。分け合うのが好きだから」


 パンを半分に割って渡すと、コンラートがかじった。


 「……うまいな」


 「でしょう」


 「甘すぎるが。うまい」


 春風の通る石段で、二人はパンを食べた。言葉はなかったが、居心地のよい沈黙だった。


 「セレスティア」


 「ん」


 「話がある」


 声がいつもと違った。低く、真剣だった。セレスティアはパンを膝に置いた。


 「何?」


 コンラートは、中庭に咲く白い花を見ていた。


 「俺はずっと、お前に借りを返しているつもりだった」


 「借り?」


 「七歳の時。額の血を止めてもらった。傷を治してもらったのは、学園の保健室が初めてだ。でも、あの日から、お前を守ると決めた」


 春の風が吹いた。


 「でも、戦場で分かった。借りを返すためだけなら、とっくに終わってる」


 「コンラート」


 「俺は、自分で選んでここにいる。陛下が治める国を守りたい。お前や殿下や、石段に集まっていたみんなが笑える場所を守りたい」


 コンラートがセレスティアの方を見た。迷いのない目だった。


 「俺は陛下の剣だ。そして、お前の仲間だ。傷を治してもらった借りがなくても、それは変わらない」


 セレスティアの目が熱くなった。


 「コンラートは、わたしにとってもかけがえのない仲間だよ。コンラートがいなかったら、わたしは何度も折れてた」


 「折れてないだろ。お前は強い」


 「強くない。コンラートがいたから、強くいられた。石段でも、廊下でも、戦場でも、いつも近くにいてくれた」


 コンラートが頭を掻いた。


 「そういうことを真顔で言うな。気恥ずかしい」


 「本当のことだもの」


 「……俺の剣は変わらない」


 コンラートが立ち上がった。石段の上で、春の風を正面から受けている。


 「陛下を支える。お前たちを守る。この国の剣であり続ける。それが、俺の答えだ」


 コンラートの目が真っ直ぐだった。


 「うん。これからもよろしく、コンラート」


 「おう」


 「……パン、もう一切れくれ」


 「え? さっき半分あげたのに」


 「腹が減った。長い話をしたら腹が減るんだ」


 「何それ」


 「知らん。体の仕組みだろ」


 セレスティアが残り四分の一のパンを渡すと、コンラートがかじった。


 「やっぱりうまい。フリーデリケのパンは」


 「おいしいでしょ」


 「甘すぎるが」


 「それ、褒めてるの?」


 「褒めてる。俺なりに」


 春風の中、二人は肩を並べたままパンを食べた。


 「コンラート」


 「ん」


 「これからも隣に座って。石段で」


 「座るよ。ここは俺の席だ」


 「フリーデリケの席は反対側だから、コンラートは、こっち側ね」


 「指定席か。騎士団にも席順があるが、石段にもあるのか」


 「ある。わたしが決めた」


 「お前が決めたなら従う」


 コンラートが笑った。


 「じゃあ、俺は戻る。訓練がある」


 「行ってらっしゃい」


 「ああ。パン、うまかった。フリーデリケに伝えてくれ」


 「伝える」


 コンラートは石段を三段下りたところで、振り返った。


 「セレスティア」


 「なに」


 「陛下と一緒に、この国を頼む」


 それだけ言って歩いていった。


 ◇


 一人になった石段で、セレスティアは空を見上げた。青空を、白い花びらが舞っている。


 「コンラート。ありがとう」


 コンラートが去った扉を見つめたまま、セレスティアは小さく息を吐いた。


 ポケットの中では、アレクシスからもらった銀のラベンダーの髪飾りが光っていた。


 春の昼下がり、石段には白い花びらが静かに積もっていた。


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