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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
断頭台の朝

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閑話 城塞の夜 ルシアン視点

 包囲八日目。


 東の塔の窓は高い位置にある。外を見るには椅子に立たなければならない。


 ルシアンは立っていなかった。ベッドの縁に座ったまま、天井を見ていた。


 腹が減っていた。三日前から食事の量が減っている。マティアスは「供給が一時的に滞っている」と言ったが、嘘だ。包囲されているから入らないだけだ。


 壁の外から、遠く、兵士たちが動く音がする。夜でも消えない音だった。



 最初の三日は歓迎された。


 「殿下のご到着を心よりお待ちしていました」とマティアスが言った。兵士たちが整列した。「正統な王位継承者のために戦う」という言葉が飛んだ。


 浮かれていた。


 城を出て行くとき、ルシアンは何かを期待していた。ここに来れば、「お前が必要だ」と言ってくれる人間がいると思った。宰相が言ってくれた言葉を、別の誰かが言ってくれると。


 だが四日目から会議に呼ばれなくなった。


 「詳細は複雑なため、殿下にはご負担をお掛けしたくない」とマティアスは言った。丁寧だった。だが部屋の扉が閉まった後、廊下から声が漏れた。


 「余計なことを言わないよう、情報は絞れ」


 壁は薄かった。


 食事を運んでくる兵士の目が変わった。彼らはルシアンを「殿下」と呼んだ。だがその目は、旗を見る目だった。翻るべき場所に立ってさえいれば良い、というような。


 母に「あなたは間違っている」と言われた夜から逃げてきた。


 だが逃げた先でも、一人だった。



 六日目。マティアスが部屋を訪ねた。


 「ルシアン殿下。我々はこの戦いに勝ちます。殿下には玉座に就いていただく。全ては殿下のために」


 ルシアンは聞いた。


 「マティアス。あなたは本当に、僕のために戦っているの」


 マティアスが少し止まった。


 「もちろんです」


 「なら、会議に呼んで。難しくても聞きたい」


 「また機会を。殿下には休んでいただきたい」


 扉が閉まった。


 その目が、どんな目だったか、ルシアンはずっと考えていた。


 「殿下」と呼ぶ目。使える道具を確認する目。


 宰相も、同じ目をしていた。



 七日目の夜。


 扉を叩く音がした。三回。間隔が一定。夜番の兵士とは違うリズム。


 「誰」


 「手紙を届けに来ました。アルヴェイン公爵家からです」


 扉の隙間から封筒が差し込まれた。


 王太子の印璽があった。


 ルシアンは封筒を見つめた。しばらく動けなかった。開ければ、罵倒かもしれない。「戻ってこい」という命令かもしれない。「お前のしたことが分かっているのか」かもしれない。


 それでも開けた。



 短い手紙だった。


 『ルシアンへ。

  お前は必要だ。

  家族として。

  僕の家族として。

  帰ってこい。


  アレクシス』


 それだけだった。


 罵倒はなかった。「お前は間違っていた」という言葉もなかった。条件もなかった。


 ただ、五行。



 宰相は言った。「お前には価値がある」と。


 あの言葉が嬉しかった。


 マティアスも言った。「正統な王位継承者のために戦う」と。だが、会議に呼ばれなかった。扉の向こうから、声が漏れた。「余計なことを言わないよう」と。


 アレクシスは書いた。「家族として」と。



 目が熱くなった。


 泣くつもりはなかった。でも手紙を握りしめたまま、少しだけ泣いた。


 誰にも見えない場所で。東の塔の、高い窓の下で。



 明け方。


 天井の近くに明かりが差し始めていた。


 手紙を畳んで、服の胸元に入れた。


 見つかるかもしれない。それでも手放せなかった。


 いつか誰かが来るかもしれない。来ないかもしれない。帰れるかどうかも分からない。


 でも——帰りたい。


 兄が待っている。



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