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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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イザベラの証言

 裁判第四日。


 七番目の証人。


 イザベラ・ド・ガルニエ。


 宰相の実の娘。


 イザベラが傍聴席を立った。セレスティアの手を一瞬だけ握った。


 「行ってくる」


 「行ってらっしゃい」


 イザベラが証言台に向かって歩いた。


 深い紺色のドレス。母の形見。黒い髪が背中に流れている。


 議場が静まった。


 宰相の娘が、父を告発する。全員が、その重みを分かっている。


 証言台に立った。


 宰相と目が合った。


 宰相の顔から微笑みが消えていた。今日は最初から。


 「イザベラ・ド・ガルニエ。宣誓してください」


 議長の声。


 「わたくしは真実のみを述べることを誓います」


 声は澄んでいた。震えていない。


 大議会の時は壇上で声が震えなかった代わりに、足が震えた。


 今日は何も震えていない。


 「イザベラ嬢。証言を」


 ヴァルトシュタイン子爵が促した。


 「わたくしは、父の書斎で公爵令嬢の排除計画書を見ました」


 議場が静まった。


 「十四歳の時です。父の書斎に出入りが許されていた頃。父が席を外した隙に金庫が開いているのを見ました」


 「金庫の中に何がありましたか」


 「書類の束。年代順に整理されていました。わたくしは一通だけ、読みました」


 「どの書類を」


 「『アルヴェイン公爵令嬢の排除計画書』。セレスティアの名前が明記された、処刑への筋書き」


 議場がざわめいた。


 「内容をお話しください」


 「排除の方法が三つ列挙されていました。暗殺。冤罪。追放。父は二番目の方法、冤罪による処刑に丸印をつけていました」


 「冤罪」


 「はい。王太子暗殺の罪をセレスティアに着せ、裁判で処刑する。そう書かれていました」


 静寂。


 「イザベラ嬢。なぜ、その時に声を上げなかったのですか」


 イザベラが一瞬、目を伏せた。


 「怖かったからです。——父が怖かった。あの計画書を見た時、父がどんな人間なのか、初めて分かりました。でも父は、わたくしの父です。告発する勇気がなかった」


 「では、なぜ今、証言を」


 「五年かかりました」


 イザベラの声が静かに響いた。


 「五年前。わたくしはパーティの庭で一人の少女と向き合いました。セレスティア・フォン・アルヴェイン。九歳の少女がわたくしに言いました。『星が綺麗ですね』と」


 五年前のあの夜。


 セレスティアの目が熱くなった。


 「あの夜、わたくしは、星が美しいと思いました。生まれて初めて。父の屋敷では、星を見上げる暇もなかった。政治の道具として育てられて。正しいことと間違ったことの区別を考える余裕もなかった」


 「セレスティアと向き合って考えるようになりました。父のしていることは正しいのか。人を排除する計画は正しいのか」


 「五年間考えました。答えはずっと分かっていました。正しくない、と。でも声を上げる勇気がなかった」


 「大議会の日、ようやく、立てました。五年間分の勇気をあの壇上で使いました」


 「今日は残りの勇気を使います。全部」


 イザベラの目に涙が光った。だが流れなかった。


 「父は——悪い人です。多くの人を傷つけた。殺そうとした。計画した。実行した。わたくしの父は、そういう人です」


 声が震え始めた。ここで初めて。


 「でも」


 「父は毎晩、書斎で記録をつけていました。自分がしたことの全てを。なぜだと思いますか。証拠として使うためではないんです。自分が正しいと確認するためです」


 「父は迷っていました。自分のしていることに。だから記録した。読み返して、『これは国のためだった』と自分に言い聞かせなければならなかった」


 「迷っていた人が、それでも実行した。それは許されることではありません」


 イザベラの涙がついに流れた。


 「わたくしは——父を愛しています。父を告発します。両方が本当です。矛盾しています。でも人間は矛盾していいと、セレスティアが教えてくれました」


 傍聴席でセレスティアが手を口に当てた。


 自分の言葉がイザベラの口から、法廷で響いている。


 「わたくしの証言は以上です。父の書斎の金庫に、三十年分の不正の記録がありました。わたくしはそれを見ました。場所も知っています。構造も知っています。全て、真実です」


 議場が静まり返った。


 宰相ヴィクトール・ド・ガルニエは被告席に座ったまま、動かなかった。


 微笑みはなかった。


 怒りもなかった。


 ただ、娘を見ていた。


 娘が泣いている。自分を告発しながら。愛していると言いながら。


 宰相の表情から全ての感情が消えた。


 初めて。完全に。


 「宰相閣下。反論はございますか」


 議長が聞いた。


 長い沈黙。


 「……ない」


 一言。


 議場がざわめいた。


 反論できなかったのか。しなかったのか。


 セレスティアには分からなかった。


 だが、宰相の手が、被告席の下で拳になっていたのを、見逃さなかった。


 白くなるほど握りしめていた。


 ◇


 イザベラが証言台を降りた。


 傍聴席に戻る途中、足がもつれた。


 セレスティアが駆け寄った。


 「イザベラ」


 「大丈夫。足が」


 支えた。肩を貸した。


 「すごかった。イザベラ、すごかった」


 「すごくない。泣いちゃった」


 「泣いていい。——泣いてよかった」


 二人で傍聴席に戻った。


 イザベラがセレスティアの肩に顔を埋めた。


 「お父様、反論しなかった」


 「うん」


 「なぜだろう。反論すればよかったのに。いつもみたいに」


 「イザベラ」


 「反論してくれたら、まだ戦えた。でも黙られると」


 イザベラの声が途切れた。


 「黙られると、お父様がわたしを見てたのが分かって。あの目。あの目が」


 泣いた。声を殺して。


 セレスティアはイザベラの肩を抱いた。


 「イザベラ。ありがとう。本当に」


 「感謝しないでって言ったでしょう」


 「言った。でもする。何度でも」


 イザベラが泣きながら笑った。


 「あなたって本当に、頑固」


 「頑固は褒め言葉」


 次はセレスティアの番だ。


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