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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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223/238

証拠と証言(二)

 裁判第三日。


 四番目の証人。カール・ヴェンデル元財務卿。


 カールが証言台に立った。二ヶ月前、公爵邸で会った時より、顔色が良くなっていた。目の下の隈は残っているが、背筋が伸びている。


 「わたくしは、元財務卿として、宰相閣下との共謀による国庫資金の不正移動に関与しました」


 議場がしんと静まった。


 自ら罪を認めた。


 「不正移動の総額は、過去十五年間で、銀貨にして約三十二万枚。現在の価値で、国家予算の約八パーセントに相当します」


 どよめき。


 「手口を説明いたします。宰相閣下から口頭で指示を受け、国庫から特別予算として支出を計上しました。名目は『国防機密費』『外交特別費』『治安維持費』。いずれも実態のない架空の項目です」


 「資金の行き先は」


 「三つに分かれます。第一に、宰相の個人資産。海外の銀行に口座を持っています。第二に、政治工作資金。貴族への買収、票の購入に使われました。第三に、副宰相マティアスへの活動資金」


 「マティアスへの」


 「はい。マティアスが暗殺者を雇う際の資金は国庫から出ています。つまり——国王暗殺未遂の資金も、王太子暗殺計画の資金も、元は国民の税金です」


 議場が騒然となった。


 「静粛に!」議長が槌を打った。


 宰相が立ち上がった。今日は微笑んでいなかった。


 「カール・ヴェンデルは横領の実行犯です。自らの罪を軽くするために、わたくしに責任を転嫁しようとしている。共謀などなかった。カールが独断で横領したのです」


 「独断ではありません」


 カールの声が硬くなった。


 「宰相閣下。あなたは毎月、わたくしの執務室に来ました。口頭で金額を指示しました。三万枚。五万枚。わたくしは帳簿を二重につけていました。一つは公式帳簿。もう一つは、閣下の指示を記録した裏帳簿です」


 「裏帳簿」


 「はい。宰相閣下がいつ、いくらの支出を指示したか。全て記録してあります。閣下はわたくしを信用しすぎた。わたくしが記録を残していないと思い込んでいた」


 カールが——懐から帳簿を取り出した。


 小さな手帳。革表紙。年季が入っている。


 「十五年分の記録です。日付、金額、宰相閣下の指示内容。全て」


 法廷に提出された。


 宰相の顔が——初めて、強張った。


 「偽造だ」


 「筆跡鑑定をどうぞ。わたくしの筆跡は公式帳簿の筆跡と一致します。裏帳簿が本物であることは、わたくし自身の筆跡で証明されます」


 宰相が言葉を失った。


 一瞬。ほんの一瞬。


 だがすぐに微笑みを取り戻した。


 「カールの帳簿が本物だとしても、わたくしが口頭で指示した証拠にはならない。カールが勝手に記録しただけかもしれない」


 「では、金庫の横領記録と照合してください。金庫から複写した文書には同じ日付、同じ金額が記載されています。宰相閣下の直筆で。二つの記録が一致する以上、口頭指示があったと推定するのが合理的です」


 ヴァルトシュタイン子爵が二つの書類を並べた。


 カールの裏帳簿。金庫から複写した横領記録。


 議場が静まった。


 宰相は何も言わなかった。


 微笑みは維持していた。だが、指先が白くなっていた。肘掛けを握る力が。


 ◇


 五番目の証人。テオドール。


 痩せた中年の男。元使用人。かつて宰相の命令で、聖魔力に関する偽の報告書を作成させられた。


 「宰相閣下から命じられました。聖魔力の危険性を強調するように報告書を編集しろ、と。原稿にはない内容を追加しました」


 「原稿にはないデータを追加した」


 「はい。魔力暴走の被害予測。聖魔力の攻撃的運用の可能性。全て、宰相閣下の指示で捏造しました。わたくしは恐怖で従いました。逆らえば、家族が」


 「家族」


 「カスパルと同じです。宰相閣下は部下の家族を掌握して、忠誠を強制しました」


 議場の空気が冷えた。


 宰相は反論した。


 「テオドールは二ヶ月以上前から公爵家に保護されています。二ヶ月以上、公爵家の影響下にあった人間の証言が、どこまで信用できるでしょうか」


 テオドールが声を上げた。


 「わたくしは自分の意志で証言しています。公爵家に強制されたのではなく、自分で決めました。もう嘘をつきたくない。宰相閣下の指示で嘘をつき続けた人生を終わりにしたい」


 声が震えていた。だが、真実の震えだった。


 ◇


 六番目の証人。医師ローレンツ。


 白衣を着た中年の医師。額に汗をかいている。怯えている。だが、証言台に立った。


 「毒の処方箋についてお話しします」


 「公爵夫人リリアーナ様に使用された毒は遅効性の砒素混合物でした。わたくしは、この毒の処方箋を、宰相の管轄下にある薬師に発注した記録を確認しています」


 「処方箋を発注した薬師の名前は」


 「オットー・フィッシャー。宰相邸の専属薬師です。わたくしは医師として、オットーの処方箋を監査する立場にありました。その際に、通常の薬事記録にない特殊な処方を発見しました」


 「特殊な処方」


 「砒素を含む遅効性毒物。少量ずつ投与すれば、数ヶ月かけて体を蝕む。急性症状が出ないため、毒殺と気づかれにくい」


 リリアーナの顔が——青ざめた。エドヴァルトが母の手を握った。


 「この処方箋はオットーが独自に作成したものですか」


 「いいえ。処方箋の裏書に指示者のイニシャルがありました。『V.G.』。ヴィクトール・ガルニエ、宰相閣下のイニシャルです」


 宰相が立ち上がった。


 「イニシャルだけで指示者を特定するのは不可能です。V.G.は他にもいるでしょう」


 「金庫から複写した毒殺指示書と処方箋の内容が完全に一致します。毒の種類。投与方法。対象者。二つの独立した記録が同じ犯罪を指し示しています」


 宰相の微笑みが薄くなった。


 ◇


 最後に、三百年前の記録が提出された。


 フェリクスが専門家証人として証言台に立った。


 「三百年前の聖魔力保有者エステルの事件は、歴史書では『反乱』とされています。しかし、原典の分析により、エステルは反乱を起こしていないことが判明しました」


 「エステルは王家を守ろうとしていた。守ろうとして殺された。歴史は勝者によって書き換えられた」


 「そして、魔力暴走の手法。三百年前のエステルの『暴走』と、五歳のセレスティアの魔力炉暴走は同じ手法で誘発されています。外部からの魔力干渉。金庫から複写した暴走誘発記録と一致します」


 「つまり、聖魔力脅威論は、三百年前から続く捏造です。聖魔力が危険なのではなく、聖魔力を暴走させる者たちが危険なのです」


 フェリクスの声は冷静だった。学者の声。だが、その言葉の重みは、議場を揺るがした。


 宰相は反論しなかった。


 初めて。


 「状況証拠の山だ。直接的な証拠はどこにある」


 小さく呟いた。だが、声に力がなかった。


 議長が槌を打った。


 「本日の審理を終了する。次回、告発側の最終証人を聴取する。閉廷」


 ◇


 廊下。


 セレスティアは壁にもたれていた。


 「ナターシャ」


 「はい」


 「宰相が反論しなかった。最後。三百年前の記録の時」


 「はい。初めてです」


 「崩れ始めてる」


 「はい。ですが、宰相は最後まで戦います。次回が勝負です」


 「次回」


 「イザベラの証言。そして、お嬢様の証言」


 セレスティアの手が震えた。


 次は自分が証言台に立つ。


 「怖い」


 「はい。でも、お嬢様は立てます」


 「立てるかな」


 「立てます。マルガレーテが背中を押すと言っていました。物理的に」


 セレスティアが笑った。震える手で。


 「物理的に。頼もしいね」


 「頼もしいです。さ、帰りましょう。蜂蜜入りの紅茶が待っています」

 裁判第三日。


 四番目の証人。カール・ヴェンデル元財務卿。


 カールが証言台に立った。二ヶ月前、公爵邸で会った時より、顔色が良くなっていた。目の下の隈は残っているが、背筋が伸びている。


 「わたくしは、元財務卿として、宰相閣下との共謀による国庫資金の不正移動に関与しました」


 議場がしんと静まった。


 自ら罪を認めた。


 「不正移動の総額は、過去十五年間で、銀貨にして約三十二万枚。現在の価値で、国家予算の約八パーセントに相当します」


 どよめき。


 「手口を説明いたします。宰相閣下から口頭で指示を受け、国庫から特別予算として支出を計上しました。名目は『国防機密費』『外交特別費』『治安維持費』。いずれも実態のない架空の項目です」


 「資金の行き先は」


 「三つに分かれます。第一に、宰相の個人資産。海外の銀行に口座を持っています。第二に、政治工作資金。貴族への買収、票の購入に使われました。第三に、副宰相マティアスへの活動資金」


 「マティアスへの」


 「はい。マティアスが暗殺者を雇う際の資金は国庫から出ています。つまり——国王暗殺未遂の資金も、王太子暗殺計画の資金も、元は国民の税金です」


 議場が騒然となった。


 「静粛に!」議長が槌を打った。


 宰相が立ち上がった。今日は微笑んでいなかった。


 「カール・ヴェンデルは横領の実行犯です。自らの罪を軽くするために、わたくしに責任を転嫁しようとしている。共謀などなかった。カールが独断で横領したのです」


 「独断ではありません」


 カールの声が硬くなった。


 「宰相閣下。あなたは毎月、わたくしの執務室に来ました。口頭で金額を指示しました。三万枚。五万枚。わたくしは帳簿を二重につけていました。一つは公式帳簿。もう一つは、閣下の指示を記録した裏帳簿です」


 「裏帳簿」


 「はい。宰相閣下がいつ、いくらの支出を指示したか。全て記録してあります。閣下はわたくしを信用しすぎた。わたくしが記録を残していないと思い込んでいた」


 カールが——懐から帳簿を取り出した。


 小さな手帳。革表紙。年季が入っている。


 「十五年分の記録です。日付、金額、宰相閣下の指示内容。全て」


 法廷に提出された。


 宰相の顔が——初めて、強張った。


 「偽造だ」


 「筆跡鑑定をどうぞ。わたくしの筆跡は公式帳簿の筆跡と一致します。裏帳簿が本物であることは、わたくし自身の筆跡で証明されます」


 宰相が言葉を失った。


 一瞬。ほんの一瞬。


 だがすぐに微笑みを取り戻した。


 「カールの帳簿が本物だとしても、わたくしが口頭で指示した証拠にはならない。カールが勝手に記録しただけかもしれない」


 「では、金庫の横領記録と照合してください。金庫から複写した文書には同じ日付、同じ金額が記載されています。宰相閣下の直筆で。二つの記録が一致する以上、口頭指示があったと推定するのが合理的です」


 ヴァルトシュタイン子爵が二つの書類を並べた。


 カールの裏帳簿。金庫から複写した横領記録。


 議場が静まった。


 宰相は何も言わなかった。


 微笑みは維持していた。だが、指先が白くなっていた。肘掛けを握る力が。


 ◇


 五番目の証人。テオドール。


 痩せた中年の男。元使用人。かつて宰相の命令で、聖魔力に関する偽の報告書を作成させられた。


 「宰相閣下から命じられました。聖魔力の危険性を強調するように報告書を編集しろ、と。原稿にはない内容を追加しました」


 「原稿にはないデータを追加した」


 「はい。魔力暴走の被害予測。聖魔力の攻撃的運用の可能性。全て、宰相閣下の指示で捏造しました。わたくしは恐怖で従いました。逆らえば、家族が」


 「家族」


 「カスパルと同じです。宰相閣下は部下の家族を掌握して、忠誠を強制しました」


 議場の空気が冷えた。


 宰相は反論した。


 「テオドールは二ヶ月以上前から公爵家に保護されています。二ヶ月以上、公爵家の影響下にあった人間の証言が、どこまで信用できるでしょうか」


 テオドールが声を上げた。


 「わたくしは自分の意志で証言しています。公爵家に強制されたのではなく、自分で決めました。もう嘘をつきたくない。宰相閣下の指示で嘘をつき続けた人生を終わりにしたい」


 声が震えていた。だが、真実の震えだった。


 ◇


 六番目の証人。医師ローレンツ。


 白衣を着た中年の医師。額に汗をかいている。怯えている。だが、証言台に立った。


 「毒の処方箋についてお話しします」


 「公爵夫人リリアーナ様に使用された毒は遅効性の砒素混合物でした。わたくしは、この毒の処方箋を、宰相の管轄下にある薬師に発注した記録を確認しています」


 「処方箋を発注した薬師の名前は」


 「オットー・フィッシャー。宰相邸の専属薬師です。わたくしは医師として、オットーの処方箋を監査する立場にありました。その際に、通常の薬事記録にない特殊な処方を発見しました」


 「特殊な処方」


 「砒素を含む遅効性毒物。少量ずつ投与すれば、数ヶ月かけて体を蝕む。急性症状が出ないため、毒殺と気づかれにくい」


 リリアーナの顔が——青ざめた。エドヴァルトが母の手を握った。


 「この処方箋はオットーが独自に作成したものですか」


 「いいえ。処方箋の裏書に指示者のイニシャルがありました。『V.G.』。ヴィクトール・ガルニエ、宰相閣下のイニシャルです」


 宰相が立ち上がった。


 「イニシャルだけで指示者を特定するのは不可能です。V.G.は他にもいるでしょう」


 「金庫から複写した毒殺指示書と処方箋の内容が完全に一致します。毒の種類。投与方法。対象者。二つの独立した記録が同じ犯罪を指し示しています」


 宰相の微笑みが薄くなった。


 ◇


 最後に、三百年前の記録が提出された。


 フェリクスが専門家証人として証言台に立った。


 「三百年前の聖魔力保有者エステルの事件は、歴史書では『反乱』とされています。しかし、原典の分析により、エステルは反乱を起こしていないことが判明しました」


 「エステルは王家を守ろうとしていた。守ろうとして殺された。歴史は勝者によって書き換えられた」


 「そして、魔力暴走の手法。三百年前のエステルの『暴走』と、五歳のセレスティアの魔力炉暴走は同じ手法で誘発されています。外部からの魔力干渉。金庫から複写した暴走誘発記録と一致します」


 「つまり、聖魔力脅威論は、三百年前から続く捏造です。聖魔力が危険なのではなく、聖魔力を暴走させる者たちが危険なのです」


 フェリクスの声は冷静だった。学者の声。だが、その言葉の重みは、議場を揺るがした。


 宰相は反論しなかった。


 初めて。


 「状況証拠の山だ。直接的な証拠はどこにある」


 小さく呟いた。だが、声に力がなかった。


 議長が槌を打った。


 「本日の審理を終了する。次回、告発側の最終証人を聴取する。閉廷」


 ◇


 廊下。


 セレスティアは壁にもたれていた。


 「ナターシャ」


 「はい」


 「宰相が反論しなかった。最後。三百年前の記録の時」


 「はい。初めてです」


 「崩れ始めてる」


 「はい。ですが、宰相は最後まで戦います。次回が勝負です」


 「次回」


 「イザベラの証言。そして、お嬢様の証言」


 セレスティアの手が震えた。


 次は自分が証言台に立つ。


 「怖い」


 「はい。でも、お嬢様は立てます」


 「立てるかな」


 「立てます。マルガレーテが背中を押すと言っていました。物理的に」


 セレスティアが笑った。震える手で。


 「物理的に。頼もしいね」


 「頼もしいです。さ、帰りましょう。蜂蜜入りの紅茶が待っています」


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