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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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219/222

告発の日

 その日は晴れていた。


 冬の空。透き通るような青。雲が一つもない。


 セレスティアは朝早く起きた。着替えを済ませた。藤色のドレスではなく、白いドレス。清潔な白。


 「白、ですか」


 ナターシャが言った。


 「うん。告発する側は白がいい。潔白の色」


 「お嬢様。似合っています」


 髪を結い上げた。ラベンダーの髪飾り。イザベラからもらった星のブローチを胸元に。


 鏡の中の自分を見た。


 十四歳の少女。銀色の髪。碧い瞳。


 前世の十四歳は、どんな顔をしていただろう。


 覚えていない。鏡を見る余裕もなかったから。


 「行こう」


 ◇


 貴族院。議場。


 五十二の議席。全てが埋まっている。傍聴席も満員。


 大議会以上の緊張感が議場に漂っていた。


 今日の議題は一つ。


 公爵ライナルト・フォン・アルヴェインによる、宰相ヴィクトール・ド・ガルニエの正式告発。


 セレスティアは傍聴席の最前列に座った。ナターシャ。イザベラ。ヴォルフ。カタリナ。


 向かい側の傍聴席には母リリアーナ。エドヴァルト。


 王族席には摂政王妃エレオノーラ。アレクシス。コンラートが後方に。


 そして議場の中央。


 宰相ヴィクトール・ド・ガルニエが座っていた。


 白髪。穏やかな微笑み。いつもの顔。


 議長ベッカー伯爵が槌を打った。


 「開会を宣言する。本日の議題。公爵ライナルト・フォン・アルヴェインによる、宰相ヴィクトール・ド・ガルニエ閣下への正式告発。公爵、壇上へ」


 父が立ち上がった。


 公爵ライナルト。五十代。銀色の髪、セレスティアと同じ色。広い肩。まっすぐな背筋。


 壇上に歩いた。一歩一歩、重く、確かに。


 「議長。議員諸君。わたくし、公爵ライナルト・フォン・アルヴェインは、宰相ヴィクトール・ド・ガルニエ閣下を——正式に告発いたします」


 議場が静まった。


 「罪状は以下の通り」


 父が書類を広げた。


 「第一。職権乱用罪。三十年にわたる宰相権限の私的利用。政敵の排除、議会工作、人事介入を、宰相の職権を超えて行った」


 「第二。国庫横領幇助罪。元財務卿カール・ヴェンデルとの共謀による、国庫資金の不正な移動。具体的な金額は裁判にて立証いたします」


 「第三。公爵夫人リリアーナ・フォン・アルヴェインに対する毒殺未遂の教唆」


 議場がざわめいた。


 「第四。王太子アレクシス殿下の暗殺計画への間接的関与。副宰相マティアスを通じた関与」


 「第五。聖魔力保有者、わたくしの娘セレスティアに対する迫害計画の立案と部分的実行」


 五つの罪状が議場に響いた。


 父の声は揺れていなかった。


 宰相は微笑んでいた。


 「公爵。お話は終わりましたか」


 宰相が立ち上がった。穏やかに。


 「三十年間、この国に仕えてきた私を告発するとは。大胆なことだ」


 「大胆ではなく、必要な行為です」


 「必要。ふむ。では聞きましょう。証拠は」


 「証拠は裁判にて提出いたします。本日は告発の受理と、正式裁判の開廷を貴族院に要請いたします」


 議長が槌を打った。


 「宰相閣下。告発に対する意見を」


 宰相が議場を見回した。


 五十二人の議員。全ての顔を。


 「面白い」


 微笑んだ。


 「全くの虚偽ですが、受けて立ちましょう。わたくしには三十年間の実績がある。事実が明らかになれば、告発は根拠のない中傷だったと判明するでしょう」


 「弁護士は」


 「つけません。わたくし自身が弁論いたします。三十年間この国を動かしてきた男を、弁護士に語らせるわけにはいかない」


 議場がどよめいた。


 弁護士なしの自己弁護。


 自信の表れか。あるいは、計算か。


 セレスティアは拳を握った。


 宰相は手強い。最後まで。


 議長が採決を求めた。


 「宰相ヴィクトール・ド・ガルニエ閣下に対する正式裁判の開廷を認めるか否か。賛成の方」


 公爵派。全員起立。中立派、過半が起立。宰相派からも数名が立った。


 「賛成三十五」


 圧倒的多数。


 「正式裁判の開廷を認める。裁判期日は二週間後」


 槌が打たれた。


 決まった。


 裁判が開かれる。


 宰相は微笑んだまま議場を出た。最後にセレスティアの方を見た。


 目が合った。


 「面白い子だ」


 口がそう動いた。声は聞こえなかった。だが唇の動きで分かった。


 四度目。同じ台詞。


 だが——セレスティアは今度は目を逸らさなかった。


 まっすぐに宰相の目を見返した。


 「面白い、ではなく。怖い、でしょう」


 口の中で呟いた。


 宰相の微笑みが——ほんの一瞬、揺れたように見えた。


 ◇


 議場の外。廊下。


 セレスティアは父の前に立った。


 「お父様。ありがとうございます」


 「礼はまだ早い。告発が受理されただけだ。本番は裁判」


 「はい」


 「セレスティア。二週間後、お前は傍聴席にいるか。それとも」


 「証言台に立ちます。わたし自身が」


 公爵の目が少し揺れた。


 「お前が証言台に」


 「はい。わたしは被害者の一人です。排除計画の対象。五歳の魔力暴走の被害者。わたしの証言が必要です」


 「……分かった。——だが、無理はするな。前世の裁判の記憶が——」


 「フラッシュバックする可能性はあります。でも、やります」


 父がセレスティアの頭に手を置いた。


 「お前は強い子だ。いつから、こんなに強くなった」


 「お父様が育ててくれたから」


 「母もだ」


 「うん。お母様も。おにいさまたちも。ナターシャも。全員」


 公爵が微笑んだ。穏やかに。


 「行こう。準備がまだある」


 「はい」


 廊下を歩いた。冬の光が窓から差し込んでいる。


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