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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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211/222

王妃の決断

 廃嫡請願が否決された翌日。


 王宮。摂政王妃エレオノーラの私室。


 セレスティアは招かれていた。


 王妃の部屋は質素だった。豪華な調度品はあるが、花が多い。窓辺に。テーブルに。棚の上に。白い百合。赤い薔薇。紫の菫。


 母リリアーナと同じだ。花が好きな人。


 「セレスティア嬢。座りなさい」


 エレオノーラが微笑んだ。金髪。翡翠色の目。アレクシスの面影がある。だがアレクシスより鋭い。摂政として国政を動かしてきた女性の鋭さ。


 「お呼びいただきありがとうございます」


 「堅い挨拶はいい。昨日の貴族院、見事だった」


 「わたしは何もしていません。殿下が自分で」


 「自分で。そう。アレクシスが自分で立った。それが何よりも嬉しい」


 エレオノーラが紅茶を注いだ。自分の手で。侍女には任せず。


 「セレスティア嬢。ルシアンのことを話さなければ」


 「はい」


 「ルシアンは、わたしの息子だ。アレクシスと同じく。血を分けた子だ」


 王妃の声が少しだけ揺れた。


 「ルシアンが廃嫡を請願した時、わたしは摂政として、息子を叱らなければならなかった。公式に。公の場で」


 「王妃様」


 「母親が息子を——公の場で叱責する。これがどれほど辛いか、あなたには分かるかしら」


 セレスティアは黙って頷いた。


 「でもしなければならなかった。摂政としての責任だ。王太子はアレクシスである。それを揺るがすことは、この国を揺るがすこと」


 エレオノーラが紅茶のカップを両手で包んだ。


 「ルシアンへの叱責は、今朝、非公開で行った。『王太子の廃嫡を請願することは、王家の秩序を乱す行為である。第二王子には謹慎を命じる』」


 「謹慎」


 「一ヶ月の宮殿内謹慎。外出禁止。面会制限。マティアスとの接触を断つためでもある」


 「マティアスとの接触」


 「ええ。ルシアンとマティアスの同盟は危険すぎる。十五歳の少年が副宰相に利用されている。母親として、止めなければ」


 「ルシアン殿下は、どう反応されましたか」


 エレオノーラが目を閉じた。


 「泣いた」


 「泣いた」


 「十五歳の子供だ。母親に叱られたら泣く。当たり前のことだ。だがルシアンは、泣いた後で言った。『母上はアレクシスの味方なのですね。いつも。僕のことは——見てくれないのですね』と」


 セレスティアの胸が痛んだ。


 十五歳の少年の叫び。


 「王妃様。ルシアン殿下は」


 「分かっている。ルシアンが寂しかったことも。わたしがアレクシスばかりを見ていたことも。王妃として、摂政として、王太子を優先せざるを得なかった。でもそれは、ルシアンへの言い訳にはならない」


 エレオノーラの目に——涙が光った。だが流さなかった。


 「わたしはルシアンにも向き合う。謹慎の間に。母親として。だが今は」


 「今は」


 「宰相を倒すことが先だ。宰相がいる限り、ルシアンを操る者がいなくならない。根を断たなければ」


 エレオノーラがセレスティアを見た。


 「セレスティア嬢。あなたが宰相を告発する準備をしていることは知っている」


 「どこから」


 「ジークフリートからだ。騎士団長はわたしに全てを報告する」


 セレスティアは頷いた。


 「はい。宰相を告発します。証拠は揃いました」


 「証拠。どの程度の」


 「宰相自身の手で書かれた不正の記録。三十年分。母への毒殺指示書。わたしの排除計画書。横領の記録。全て」


 エレオノーラの目が見開かれた。


 「それは決定的だ」


 「はい。ですが、裁判を開くには貴族院の同意が必要です。そして」


 「王族の支持があれば、重みが違う」


 「はい。王妃様のお力を貸していただきたい」


 エレオノーラが立ち上がった。窓辺に歩いた。百合の花に触れた。


 「セレスティア嬢。あなたがアレクシスを支えてくれているから、わたしは戦える」


 「わたしは」


 「あなたが五歳の時から、アレクシスの隣にいてくれた。あの子が自分で立てるようになったのは、あなたのおかげだ」


 「わたし一人の力では」


 「知っている。多くの人の力だ。公爵家の。騎士団の。仲間たちの。でもあなたが始めたことだ。三歳で」


 エレオノーラが振り返った。


 「力を貸す。——摂政として。そして母として」


 「母として」


 「ルシアンを守るためにも。宰相がいなくなれば、ルシアンを操る者がいなくなる。あの子は元の優しい子に戻れるかもしれない」


 「王妃様」


 「エレオノーラでいい。リリアーナの娘なら、わたしにとっても娘のようなものだ」


 セレスティアの目が熱くなった。


 「ありがとうございます。エレオノーラ様」


 「礼は宰相を倒してから言いなさい」


 エレオノーラが微笑んだ。温かい笑み。母の笑み。


 ◇


 帰り道。馬車の中。


 「ナターシャ。王妃の支持を得た」


 「大きいです。摂政王妃が宰相の告発を支持すれば、貴族院も動かざるを得ない」


 「うん。これで、告発に必要な全ての条件が揃った」


 公爵家の告発。王妃の支持。証拠。証人。法的根拠。


 全ての準備が整いつつある。


 「ナターシャ。お母様に報告しなきゃ」


 「リリアーナ様に」


 「エレオノーラ様が力を貸してくれるって。お母様、喜ぶと思う」


 「はい。きっと」


 馬車が王都別邸に着いた。


 リリアーナが庭で花の手入れをしていた。冬に咲く花。パンジー。紫色。


 「お母様」


 「おかえり、セレスティア。顔色がいいわね。良いことがあったの?」


 「うん。エレオノーラ様が、力を貸してくれるって」


 リリアーナの目が輝いた。


 「エレオノーラが。あの人は昔から、約束を守る人だったわ」


 「お母様と仲良しだもんね」


 「仲良し。十五歳からの友人よ。もう二十年以上。あの人がいなかったら、わたしは公爵家に嫁ぐ勇気がなかったわ」


 「勇気?」


 「田舎の男爵家の娘が、公爵家に嫁ぐの。怖かったのよ。でもエレオノーラが言ったの。『あなたなら大丈夫。花を育てられる人は、家も育てられる』って」


 「花を育てられる人は」


 セレスティアは母を見た。花に囲まれた母。パンジーの紫がラベンダーの紫に似ている。


 「お母様。わたしも、育てられるかな」


 「何を?」


 「未来を」


 リリアーナが微笑んだ。


 「育てられるわ。あなたは、わたしの娘だもの」


 「お母様。宰相を倒す」


 「ええ。でもその前に、お昼を食べましょう。ナターシャ、パンケーキを焼いてもらえる?」


 「蜂蜜のパンケーキですね。承知いたしました」


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