表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

206/224

イザベラの情報

 翌朝。王都別邸の書斎。


 出席者は六人。公爵ライナルト。セレスティア。イザベラ。ナターシャ。ヘルマン。フェリクス。


 イザベラは昨夜とは別人のように落ち着いていた。目の腫れはまだ残っている。でも背筋は真っ直ぐだった。


 「お話しします。わたしが知っている、宰相家の全て」


 公爵が頷いた。


 「イザベラ嬢。無理はしなくていい。話せる範囲で」


 「いいえ。全て話します。覚悟はできています」


 イザベラが話し始めた。


 「まず、お父様の書斎について。宰相邸の三階、東端の部屋。鍵は魔術式の封印錠。通常の鍵では開きません。お父様の魔力紋でのみ解錠されます」


 フェリクスがメモを取った。


 「魔術式の封印錠か。解析できるか?」


 「仕組みは分かっています。お父様の魔力紋をベースにした認証系。ですが、わたしの魔力紋でも開くように、副鍵が設定されていた時期がありました」


 「副鍵」


 「つい最近までは。わたしが十四歳の頃まで、お父様は書斎の出入りを許していました。娘を信頼していたから。家を出る少し前に副鍵は取り消されましたが、封印錠の構造は変わっていないはずです」


 フェリクスが眼鏡を直した。


 「構造が同じなら解析は可能だ。時間はかかるが」


 「どれくらい?」


 「実物を見て、十分。封印錠の魔力パターンを読み取れれば」


 イザベラが続けた。


 「書斎の奥に隠し金庫があります。本棚の裏。三段目の右から四冊目の本が偽装です。本を引けば金庫の扉が現れます」


 「本棚の裏か。典型的だが……」


 ヘルマンが呟いた。


 「典型的だからこそ、誰も疑わないのです。お父様は目立たないことを好みます。複雑な仕掛けより、単純な隠蔽を」


 「金庫の中身は?」


 セレスティアが聞いた。


 イザベラの表情が硬くなった。


 「わたしは十四歳の時に、一度だけ金庫の中を見ました。お父様が開けたまま席を外した時に」


 沈黙。


 「中には書類が。大量の。年代順に整理されていました。お父様は全てを記録していたんです」


 「全て」


 「暗殺の指示書。買収の記録。脅迫の文面。過去三十年分の不正の記録が、そこにあります」


 書斎が静まり返った。


 「なぜ記録していたの?」


 セレスティアが聞いた。


 イザベラが少しだけ目を伏せた。


 「お父様は全てを記録していたわ。証拠として使うためではなく、自分が正しいと確認するために」


 「正しいと、確認?」


 「はい。お父様は自分のしていることに迷いがあったのだと思います。だから記録した。全てを書き留めて、読み返して、『これは国のために必要だった』と自分に言い聞かせていた」


 セレスティアの胸が痛んだ。


 「イザベラ。その金庫の中に、最も重要なものは何があった?」


 イザベラがセレスティアを真っ直ぐ見た。


 「あなたの名前が書かれた書類があったわ」


 空気が凍った。


 「わたしの——」


 「『アルヴェイン公爵令嬢の排除計画』。セレスティア、あなたの名前が明記された、処刑への筋書きが。あの金庫の中にある」


 セレスティアの手が震えた。


 「それはいつの日付のものだった?」


 「わたしが見た時点で三年前の日付でした。お嬢様が十歳の頃に作成されたもの。つまり」


 「わたしが十歳の時から——処刑が計画されていた」


 十歳。前世の暗殺未遂より前。魔力暴走事件の後。


 宰相はセレスティアが五歳で聖魔力を暴走させられた時から、排除計画を練っていた。八年前から。


 「……八年も前から」


 声が小さくなった。


 ナターシャがセレスティアの肩に手を置いた。無言で。


 「お嬢様。大丈夫ですか」


 「大丈夫。大丈夫。続けて、イザベラ」


 イザベラが頷いた。


 「他にも。お母様、リリアーナ様への毒殺指示書。暗殺未遂事件の計画書。貴族への脅迫文の下書き。ディートリヒへの工作指示」


 「母への毒殺指示書」


 公爵の声が低くなった。穏やかな父の声が。鉄のような重さを帯びた。


 「はい。公爵夫人を毒殺する計画の指示書です。実行者の名前。毒の種類。時期。全て記録されています」


 書斎の空気が重くなった。


 公爵ライナルトは目を閉じた。しばらく。


 「……イザベラ嬢。ありがとう。これは、決定的な証拠になる」


 「公爵様。わたしはお父様を売ったのではありません。正しくないことを正そうとしているだけです」


 「分かっている。君の勇気に、敬意を表する」


 公爵の声は穏やかに戻っていた。だが目の奥に、鉄の光があった。


 ヘルマンが整理した。


 「つまり、宰相邸の金庫を押さえれば、宰相を告発するための決定的証拠が手に入る」


 「はい。ですが」


 「ですが?」


 「お父様は愚かではありません。イザベラが家を出た以上、金庫の中身を処分する可能性があります。急がなければ」


 セレスティアが立ち上がった。


 「潜入する。宰相邸に」


 書斎が再び静まった。


 「セレスティア。それは」


 公爵が言いかけた。


 「分かってる。法に触れる。貴族の邸宅への不法侵入。でもお父様、あの金庫の中身がなければ、宰相を倒せない」


 「セレス。お前が行く必要はない。人を出す」


 「わたしは行かない。指揮だけ取る。潜入チームは、ヴォルフ、ナターシャ、フェリクスおにいさま」


 フェリクスが眼鏡を上げた。


 「俺か」


 「封印錠の解除にはおにいさまの魔術が必要。他に誰がいるの」


 「……確かに。だが潜入は得意じゃない」


 「錠前を開けてくれるだけでいい。中に入るのはヴォルフとナターシャ」


 ナターシャが右腕の包帯に触れた。


 「ナターシャ。腕は」


 「大丈夫です。左手で十分動けます。それに、金庫の書類を識別するにはわたしの目が必要です」


 「でも」


 「お嬢様。わたしの選択です」


 同じ言葉。昨日と同じ。ナターシャの決意は揺るがない。


 「カタリナが外周を警戒する。ニコラスに宰相邸の見取り図を手配させて」


 「承知いたしました」


 ヘルマンが言った。


 「時期は?」


 セレスティアは考えた。


 祭典まであと二日。祭典の前日が最適。宰相は祭典の準備で王宮にいる。邸宅の警備が手薄になる。


 「祭典の前夜。明日の夜」


 「明日か。急だな」


 「急がないと証拠が消される。イザベラが出た以上、宰相は金庫の存在が漏れたことを想定する。処分する前に」


 公爵が沈黙した。


 長い沈黙。


 「……セレスティア。法に触れる行為だ」


 「はい」


 「だが」


 公爵は目を閉じた。


 妻を毒殺されかけた。娘を処刑しようとする計画書がある。それを書いた男が、今もこの国の宰相として、のうのうと笑っている。


 「……生き残るためだ」


 公爵の声は低かった。


 セレスティアは頷いた。


 「ありがとう、お父様」


 「礼は成功してから言え」


 ◇


 会議の後。


 イザベラとセレスティアが庭を歩いていた。午前の光。ラベンダーの香り。


 「セレスティア。大丈夫?」


 「何が」


 「処刑の計画書。あなたの名前が書かれた。ショックだったでしょう」


 セレスティアは少し立ち止まった。


 「ショックだった。でも、知ってた」


 「知ってた?」


 「わたしは前から知ってた。宰相がわたしを殺そうとしていることは。でも、文書として存在するのを聞くと」


 手を見た。指先が微かに震えている。


 「実感が違うね。知っていることと、証拠があることは」


 イザベラがセレスティアの手を握った。


 「冷たい。あなたの手、冷たいわ」


 「緊張してるの。明日の夜のことを考えると」


 「わたしも行きたい。邸の構造は誰よりも知ってるから」


 「ダメ。イザベラが宰相邸に戻ったら、お父様の部下に見つかるかもしれない」


 「でも」


 「ここで待ってて。わたしたちが証拠を持って帰るから」


 イザベラがセレスティアの手を強く握った。


 「絶対に——帰ってきてね。全員」


 「帰ってくる。約束」


 ラベンダーの花が風に揺れた。


 「怖い」


 小さく呟いた。


 「怖くていい。怖いまま、やるの。わたしのやり方」


 イザベラが隣で微笑んだ。


 「あなたって本当に変わった人ね」


 「よく言われる」


 二人でラベンダーの庭を歩いた。明日の夜を前にして。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ