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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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宰相の計算

 宰相は動いた。


 セレスティアの訪問から二日後。ナターシャの報告。


 「宰相がマティアスを執務室に呼び出しました。一時間。出てきたマティアスの顔色は、前回以上に悪かったそうです」


 「蒼白?」


 「蒼白を通り越して灰色だったと。コンラートが目撃しています」


 「暗殺者ルドルフは?」


 「動きが止まりました。宿から出ていません。命令待ちの状態と思われます」


 「宰相が止めさせた、と」


 「はい。マティアス経由で、ルドルフに中止命令が出たと推測されます」


 だが、セレスティアは安心しなかった。


 「壇上の魔法陣は」


 「フェリクス様が確認しました。まだ残っています。無効化はされていません」


 「残してある。なぜ」


 「宰相が意図的に残している可能性があります」


 セレスティアの目が鋭くなった。


 「宰相は暗殺を止めた。でも魔法陣は残した。それは」


 「証拠として残したのかもしれません」


 「誰の証拠として」


 「マティアスの。あるいは」


 ナターシャが言い淀んだ。


 「あるいは——お嬢様の」


 空気が冷えた。


 「わたしの——」


 「宰相は、お嬢様がマティアスの計画を知っていたことを利用する可能性があります。『なぜ公爵令嬢がマティアスの暗殺計画を事前に知っていたのか』。この問いを武器にする」


 「……あの暗殺未遂と同じだ」


 「宰相はマティアスを切る代わりに、わたしを疑わせる材料を手に入れた」


 「はい。宰相の計算です。マティアスを制御し、同時にお嬢様の情報力の異常さを貴族院に印象付ける」


 「……やっぱりあの男は、底が見えない」


 セレスティアは椅子に深く座った。


 「ナターシャ。対策を考える。『なぜ知っていたか』の答えを先に用意しなければ」


 「フェリクス様の論文、知覚拡張理論は」


 「暗殺未遂の時に使った。二度目は通用しにくい。別の説明が必要」


 「別の?」


 「ニコラスの存在を——部分的に公開する」


 ナターシャの目が見開かれた。


 「ニコラスを?」


 「闇商人ギルドの情報網を持っていることを、一部の信頼できる人間に開示する。情報の出所を明かすことで、『超自然的な予知ではなく、情報収集の結果だ』と証明する」


 「ですが、ニコラスを公開すれば、情報源が潰されます」


 「全ては公開しない。ニコラスの名前も出さない。『闇市場に独自の情報源がある』という事実だけをジークフリート騎士団長と、エレオノーラ王妃に伝える。二人の信頼を得れば、貴族院で疑いをかけられても反論できる」


 ナターシャは考え込んだ。


 「リスクはありますが、必要な手です」


 「うん。宰相が魔法陣を残した以上、祭典後に何かを仕掛けてくる。その前に防御を固める」


 ◇


 翌日。セレスティアはジークフリート騎士団長に面会した。


 「騎士団長。お話があります。わたしの情報源について」


 ジークフリートは黙って聞いた。鉄のような顔で。


 「わたしには闇市場に独自の情報網があります。名前は明かせませんが、信頼できる情報源です。暗殺未遂の毒の流通ルートも、マティアスの動きも、この情報網を通じて把握しました」


 「闇市場、か。十三歳の少女が」


 「はい。信じていただけますか」


 ジークフリートが腕を組んだ。しばらく沈黙した。


 「セレスティア嬢。あなたは何度も殿下の命を救ってきた。その事実は揺るがない」


 「ありがとうございます」


 「だが、闇市場との繋がりは、表沙汰になれば問題になる。貴族院で攻撃材料にされる」


 「はい。ですから騎士団長とエレオノーラ様だけに。二人が知っていてくだされば、わたしの情報の信頼性が担保されます」


 「……分かった。王妃陛下にも伝えよう。だが、情報源の保護はお前の責任だ。漏れた場合は」


 「漏れません。ナターシャが管理しています」


 「あの侍女か。大した女だ」


 ジークフリートが微笑んだ。珍しく。


 「セレスティア嬢。一つ聞いていいか」


 「どうぞ」


 「祭典の当日、壇上の魔法陣はどうする」


 「フェリクスおにいさまが無効化します。祭典の直前に。犯人の逮捕は諦めます」


 「諦める?」


 「ルドルフは宰相が止めました。現行犯の機会は失われた。だから、魔法陣を無効化して殿下を守ることだけに集中します。証拠は別の方法で」


 「別の方法、か」


 「はい。それはもう少し時間をください」


 ジークフリートが頷いた。


 「分かった。祭典の警備は最高レベルに引き上げる。殿下の安全は、私が保障する」


 「ありがとうございます、騎士団長」


 「礼はいい。お嬢さん、体は大丈夫か。顔色が悪い」


 「大丈夫です。少し疲れているだけ」


 「無理をするな。お前が倒れたら殿下が一番困る」


 ◇


 公爵邸に戻った。


 ナターシャが温かい紅茶を用意してくれていた。蜂蜜入り。


 「お嬢様。少し休んでください」


 「休む暇がない」


 「休む暇がない時ほど、休むべきです。お母様との約束を忘れましたか」


 「走った後は帰ってくる」


 「はい。今は帰る時間です」


 セレスティアは紅茶を受け取った。両手で包んだ。温かい。


 「ナターシャ。宰相はわたしと似ていると言った」


 「聞きました」


 「似てるかな」


 「似ていません」


 「即答」


 「お嬢様は紅茶に蜂蜜を入れます。宰相は入れないでしょう」


 「それは関係ないでしょう」


 「関係あります。甘いものを必要とする人は、心が温かい人です。宰相に甘さはありません」


 ナターシャが微笑んだ。


 「お嬢様は宰相と同じ手法を使います。でも、使う理由が違う。宰相は支配するために。お嬢様は守るために。手法が同じでも心が違えば、別の人間です」


 「……ナターシャ」


 「はい」


 「ありがとう。いつも、正しいことを言ってくれて」


 「正しいかどうかは分かりません。ただ、お嬢様に必要な言葉を探しているだけです」


 紅茶を飲んだ。甘かった。蜂蜜の甘さ。


 祭典まであと八日。


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