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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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暗殺計画の全容

 翌日から二つの班が動き始めた。


 第一班。魔法陣の捜索。


 フェリクスとグレーテルが王宮の大広間に入った。表向きは「祭典前の魔術的安全点検」という名目。ジークフリート騎士団長が許可を出した。


 フェリクスが壇上に手をかざした。


 「……微弱だが、ある」


 「何が」


 グレーテルが隣で魔力探知の術式を展開していた。銀縁の眼鏡の奥で、目が鋭くなっている。


 「残留魔力。闇系統。壇上の、ここ。床板の裏に」


 フェリクスが床板を指差した。大理石のタイル。一見普通だが、魔力で透視すると、裏面に複雑な文様が刻まれている。


 「魔法陣だ。まだ起動していない。魔力を込める前の、空の陣」


 「つまり、祭典の直前に、誰かがここに魔力を注入する」


 「注入すれば陣が起動する。時限式。壇上に立った人間に向けて、闇系統の攻撃魔術が発動する」


 「殺傷力は」


 フェリクスが陣の構造を分析した。しばらく無言で魔力を読み取る。


 「……致死級。直撃すれば——即死」


 グレーテルの顔が険しくなった。


 「無効化できる?」


 「できる。だが、今無効化すると、犯人に気づかれる。陣が消えたことが分かれば、別の手段に切り替える可能性がある」


 「では?」


 「陣をそのままにして、起動を阻止する。魔力注入の瞬間を押さえる」


 「注入する人物を現行犯で」


 「そうだ。陣の構造は記録した。グレーテル先生、この陣の魔力特性を分析できますか」


 「任せなさい。三十年の教師生活で、こんな高度な闇魔術陣は初めて見るけれど」


 二人は壇上の調査を終え、陣の位置を正確に記録した。床板には手を触れなかった。犯人に悟られないように。


 ◇


 第二班。マティアスの証拠収集。


 ナターシャがニコラスとの連絡を密にしている。


 三日後。ニコラスからの報告。


 『暗殺者の特定に成功。名はルドルフ・リンツ。元王国軍の魔術兵。五年前に軍を不名誉除隊。以降、闇市場で暗殺稼業。闇系統の魔術に特化。


  ルドルフとマティアスの接触記録は三件。すべて王都の酒場「銀の角杯」にて。接触日時は一ヶ月前、二十日前、十日前。


  資金の流れも追跡中。マティアスの私的な会計係バルドゥルを通じて、ルドルフに金が渡っている。


  ニコラス記す』


 「ナターシャ。ルドルフの行動パターンは」


 「ニコラスが尾行を続けています。ルドルフは現在、王都南区の宿に滞在。祭典の前日に王宮に入る可能性が高い」


 「王宮にどうやって」


 「マティアスが入館許可を手配していると思われます。副宰相の権限で」


 「入館許可。でもマティアスは警備配置の管轄を取り上げられたはず」


 「はい。ですが、入館許可は別の権限です。来賓リストへの追加は副宰相の裁量で可能です」


 「来賓として暗殺者を入れる」


 「表向きは『南区の商人』として。祭典には多くの商人が招待されますから、紛れ込める」


 「完璧な計画だね」


 「はい。マティアスは緻密です。宰相の教育を受けた男ですから」


 「でも、穴がある」


 「穴?」


 「ルドルフは魔法陣に魔力を注入しなければならない。注入するには壇上に近づく必要がある。祭典の前日か当日、壇上に不審者が近づく瞬間を押さえれば、現行犯で逮捕できる」


 「ジークフリート騎士団長に」


 「うん。騎士団長と連携する。壇上の警備を強化しつつ、ルドルフを泳がせて注入の瞬間を捕まえる」


 ◇


 その夜。セレスティアはアレクシスに会った。


 全てを話す必要はない。だが、殿下の命に関わることだ。知らせなければ。


 アレクシスの私室。蝋燭の灯り。


 「殿下。お話があります」


 「顔が硬いな。何があった」


 「祭典の日、殿下を狙った暗殺計画が進行しています」


 アレクシスの表情が——変わった。だが、パニックにはならなかった。拳を握った。それだけ。


 「また、か」


 「はい。今度は魔術的手段です。壇上に仕掛けられた魔法陣から」


 「壇上。僕が立つ場所に」


 「はい。でも対策は打っています。フェリクスおにいさまが魔法陣を特定しました。ジークフリート騎士団長と連携して、実行犯を現行犯で捕まえます」


 「犯人は」


 「マティアスが雇った暗殺者です。宰相は関与していません」


 「マティアス。あの男は、父上も狙った」


 「はい」


 アレクシスが立ち上がった。窓辺に歩いた。月を見上げた。


 「セレスティア。僕に何かできることは」


 「殿下は祭典に出てください。いつも通りに。壇上に立ってください。でも、わたしの合図があったら、すぐに壇上を離れてください」


 「合図?」


 「わたしが殿下の名前を呼びます。『アレクシス』と。殿下の名前を呼びます」


 「名前。いつもは『殿下』と呼ぶだろう」


 「だから、名前で呼んだら、それが合図。すぐに壇上を離れて」


 アレクシスが振り返った。


 「分かった。名前で呼ばれたら、逃げる」


 「逃げるんじゃない。退避」


 「同じだろう」


 「違う。退避は戦略。逃げは敗北」


 アレクシスの口元が緩んだ。


 「お前はこんな時でも言葉遣いにうるさいな」


 「正確な言葉が正確な行動を生むの。——殿下、約束して。わたしの声が聞こえたら動いて」


 「約束する。お前の声は、どんな雑踏の中でも聞こえる」


 「なぜ」


 「分からない。ただ、聞こえるんだ。昔から」


 アレクシスの耳が赤かった。蝋燭の灯りのせいかもしれない。


 セレスティアの胸が——じわりと温かくなった。暗殺計画の話をしているのに。


 「殿下。祭典が終わったら」


 「ん?」


 「石段でお昼を食べよう。フリーデリケのパンを」


 「石段。僕が学園の石段に行くのは目立つが」


 「目立っていい。王太子が石段でパンを食べる。いいでしょう」


 「……いいのか?」


 「いい。祭典が終わったら。約束」


 「約束する」


 「じゃあ、おやすみ、殿下」


 「おやすみ。セレスティア」


 「なに?」


 「名前で呼ぶ練習をしておけ。本番で噛むなよ」


 「噛まないよ。——アレクシス」


 言った。名前を。練習として。


 アレクシスの目が揺れた。


 「……うん。聞こえた」


 二人の間に沈黙。温かい沈黙。


 蝋燭の灯りが、二人の影を壁に映していた。


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