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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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12歳の誓い

 仲間が帰った後。


 ライナルトが扉をノックした。


 「入ってもいいか」


 「はい」


 父が入ってきた。銀髪。古傷。いつもの無表情。だが目が少し違った。


 「……楽しそうだったな」


 「はい。とても」


 父は部屋を見渡した。七つのカップ。空になった皿。


 「仲間が多い」


 「前世では、一人もいませんでした」


 言ってから、少し驚いた。そんなことを父に言ったのは初めてだ。


 父も驚いたようだった。だがそれ以上は聞かなかった。ただ、手をセレスティアの頭に置いた。重い手。温かい手。


 「…十二になった」


 「はい」


 「あと何年、守らせてくれるか」


 「ずっと守ってください。わたしも守りますから」


 父が小さく息を吐いた。呆れたのか、笑ったのか、分からない表情だった。手が離れた。


 「おやすみ」


 「おやすみなさい、お父様」


 父が出ていった。


 セレスティアは一人、窓辺に立っていた。


 月が出ている。満月に近い。銀色の光が部屋に差し込んでいる。


 テーブルの上には空になった紅茶のカップが七つ。クッキーの皿は空。干し果物の袋もからっぽ。ナターシャが全部持ち帰ると言ったが、皿だけ後にすると言っておいた。まだ名残りがある。


 さっきまでの温もりが、まだ部屋に残っている。


 笑い声の余韻。コンラートの大きな声が廊下まで響いていた。リディアが即興の諺を作るたびに「それは本当に南方の諺ですか」とアネリーゼが聞いていた。ヴィオレッタが「何よ急に」と言いながら参加していた。フェリクスが眼鏡を拭きながら何かを記録していた。ナターシャが全員の紅茶を把握していた。


 七人。


 ◇


 藤色のドレスで踊った。アレクシスに「似合っている」と言われた。フリーデリケが遠くから全力で手を振ってくれた。六人の仲間が夜に集まって、夕食の後に話し続けた。


 コンラートが「誕生日なんだから何か特別なことを!」と言ってすごろくを持ってきた。リディアが「南方では誕生日は滝に飛び込む」と言って全員に「嘘でしょ」と突っ込まれた。アネリーゼが「お誕生日の方のために」と祈りの言葉を唱えた。フェリクスが「記念日を記録しておく」と言ってノートを開いた。


 ヴィオレッタは何も言わなかった。でも最後まで残っていた。それでよかった。


 ◇


 「守るべきものが増えた」


 呟いた。月に向かって。


 三歳から始めて、九年が経った。友人が増えた。仲間が増えた。守りたいものが増えた。


 失うのが怖い。


 ◇


 日記帳を開いた。ペンを取った。暗号ではなく、普通の文字で。今夜は普通の文字で書く。


 『12歳の誓い。


  守るべきものが増えた。

  失うのが怖い。


  でも。


  一人で全てを抱えるより、

  みんなで少しずつ分け合う方が、

  きっと遠くまで歩ける。


  コンラートの剣がある。

  リディアの外交がある。

  ヴィオレッタの情報戦がある。

  アネリーゼの光がある。

  おにいさまの知識がある。

  ナターシャの影がある。

  ヴォルフの忠誠がある。

  辺境伯の軍がある。

  侯爵の証言がある。

  テオドールの誠実がある。

  ヘルマンの経験がある。

  エレオノーラ様の権威がある。

  お父様の信頼がある。

  お母様の愛がある。


  そして——フリーデリケの丸いパンがある。


  これだけあれば。

  きっと。


  処刑の時計を——止められる。』


 ペンを置いた。


 書きながら、一人ひとりの顔が浮かんだ。コンラートの豪快な笑顔。リディアの落ち着いた目。ヴィオレッタの横顔。アネリーゼの手を組む仕草。フェリクスの眼鏡越しの目。ナターシャの静かな立ち姿。ヴォルフの後ろ姿。


 ◇


 棚の上にフリーデリケからの手紙が積んである。何通も。全部取ってある。


 一番最初の手紙を引き出した。


 『セレスティアさまへ。石段で待ってます。いつまでも。——フリーデリケ』


 他の手紙よりずっと短い。内容はそれだけだ。住所も日付も署名も、「フリーデリケ」の一文字だけだ。


 でもずっと持っている。


 この手紙をもらった時、胸が詰まった。いつまでも、という言葉が。フリーデリケがどれほどその言葉の重さを分かって書いたのか知らないが、いつまでも、と書いてくれた。


 「明日は学園に戻ろう」


 石段で昼食を食べよう。フリーデリケと。リディアと。アネリーゼと。歪んだパンをかじって。春の風を感じて。


 ◇


 月が窓の真ん中に来た。真夜中。


 十二歳が終わろうとしている。


 十三歳が来る。


 (みんなと——走る)


 月に向かって、誓った。


 月は聞いていたかもしれない。月は聞いていないかもしれない。どちらでもいい。


 セレスティアは日記帳を閉じた。


 ベッドに入った。毛布を引き上げた。


 今夜は悪夢を見ない気がした。


 仲間の温もりが、まだ体に残っている。紅茶の温かさ。クッキーの甘さ。笑い声。コンラートの大きな声がまだ耳に残っている。


 目を閉じた。


 明日は石段に帰る。



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