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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN


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運命の加速

 それは堰が切れたように始まった。


 貴族院本会議。春の最終議会。


 セレスティアは傍聴席にいた。王太子の婚約者として傍聴が許されている。ナターシャが隣で速記を取っている。


 議場の空気が重い。


 最初の一撃は、宰相派のクルト・シュタインバッハ議員だった。


 「王太子の婚約者セレスティア・フォン・アルヴェイン嬢について、問題を提起する」


 傍聴席の空気が張り詰めた。セレスティアは表情を動かさなかった。来ると分かっていた。


 「公爵令嬢は王太子を誘惑している。十一歳にして婚約を取り付けたのは、公爵家の政治的野心に他ならない。さらに」


 クルトが書類を掲げた。


 「セレスティア嬢は聖魔力の保有者である。三百年前の聖魔力者は王家に反旗を翻した。聖魔力は、この国にとっての脅威である」


 ざわめきが広がった。


 宰相が議場の隅で微笑んでいた。台本通り。テオドールの報告書をベースにした「聖魔力脅威論」が、ついに公式の場で口にされた。


 二人目。東部選出のハンス・ゲルトナー議員。


 「聖魔力者が王太子の傍にいることは国家安全保障上の問題だ。公爵家は私欲のために王家を危険に晒している」


 三人目。北部選出のフリードリヒ・ケスラー議員。


 「公爵令嬢の聡明さは異常である。十二歳の少女が暗殺未遂を見抜いたのは、事前に情報を持っていたからではないのか」


 「議長。反論の発言を求めます」


 声が上がった。澄んだ声。若い女性の声。


 ヴィオレッタ・フォン・モンテヴェルデ。


 十二歳。傍聴席からではなく、父ロベルト侯爵の代理として、議場に立っていた。侯爵家の嫡子には代理出席の権限がある。


 「クルト議員の発言は事実誤認を含んでいます。まず、『誘惑』という表現は根拠がありません。婚約は貴族院の推挙によるもので、王太子府の承認を経ています。手続きは完全に正当です」


 ヴィオレッタの声は冷静で、明瞭で、一切の震えがなかった。


 「次に、聖魔力の脅威論について。この主張の根拠は三百年前の事件ですが、三百年前の公式記録には複数の疑義があり、現在、学術的な再検証が進行中です」


 「最後に、暗殺未遂の発見について。セレスティア嬢が毒を見抜いたのは、聖魔力保有者の知覚拡張効果によるものです。フェリクス・フォン・アルヴェインの論文『聖魔力と知覚の相関に関する予備的考察』をご参照ください」


 ヴィオレッタが着席した。一瞬、傍聴席のセレスティアと目が合った。小さく頷き合った。


 次に立ったのは近衛騎士見習いコンラート・フォン・ヴァイスハウプト。


 コンラートは議場に立つ資格がない。だが証言者として呼ばれていた。辺境伯が手配した。


 「発言の許可を。暗殺未遂事件の証人として」


 「許可する」


 コンラートが前に出た。大きな体。堂々とした態度。だが声は少しだけ緊張していた。政治の場は慣れない。


 「俺は暗殺未遂の夜、王宮の護衛任務に就いていました。セレスティア嬢は誰よりも早く危険を察知し、殿下の命を救いました。あれは事前情報ではありません。あの場で瞬時の判断でした」


 コンラートの声は剣と同じだった。真っ直ぐで、飾りがない。


 「聖魔力が脅威だと言うなら——その脅威が殿下の命を救ったのです。セレスティア嬢の力は、この国を守る力です」


 議場が静まった。


 そして三人目の援護が来た。


 白い法衣の少女。アネリーゼ。神殿の代表として。


 「議長。神殿の立場から発言いたします」


 アネリーゼの声は柔らかかった。だが、神殿の権威を背負っていた。


 「聖魔力は神殿の教義において『神の祝福』とされています。脅威ではありません。祝福です。大神官シルヴェストル猊下の見解も同様です」


 神殿の権威。大神官の名前。これは政治家の言葉よりも重い。民の信仰に根ざした権威だから。


 「神殿は聖魔力保有者セレスティア嬢を、祝福の体現者として認めています」


 宰相の微笑みが一瞬、消えた。


 ◇


 議会が終わった後。


 セレスティアは傍聴席の廊下で三人を待った。


 ヴィオレッタが最初に来た。


 「どうだった? わたしの演説」


 「完璧。ヴィオレッタ、すごかった」


 「当然よ。これくらいできなくて、何のためにマナーと政治学を学んだのかしら」


 得意げな笑顔。でも手が少し震えていた。緊張していたのだ。


 セレスティアはその手をそっと握った。ヴィオレッタは振り払わなかった。


 コンラートが来た。


 「疲れた。政治の場は剣より疲れる」


 「ありがとう、コンラート。あなたの言葉が一番響いた」


 「マジか。俺は何を言ったか半分覚えてねえぞ」


 「それがいいの。原稿がない言葉が一番強い」


 アネリーゼが来た。


 「セレスティア様、わたし、震えてましたか?」


 「全然。堂々としてた」


 「本当ですか? 足ががくがくでした」


 「見えなかったよ。法衣が長いから」


 「法衣の丈に助けられました……」


 四人で笑った。廊下で。議会の後の緊張が解けて。


 「みんな、ありがとう」


 「お礼はまだ早いわ」ヴィオレッタが言った。「まだ始まったばかりよ」


 「そうだね。始まったばかり」


 廊下の窓から、春の光が差し込んでいた。四人の影が並んでいた。



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