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死者たちの国18

 尻の左側と左の二の腕から先を地面につけ、その姿勢で水面すれすれまで顔を近づけて正面の車に向けて移動を開始。

 この所謂第二匍匐の姿勢で弾が当たらないぎりぎりの高さを維持するのと同時に時折水を被るぐらいに顔を近づけて、進行方向に穴がないかを確認する。

 幸い飛んでくる弾にも待ち受けている穴にもあたらずに車までたどり着くと、ボンネットを盾にするようにして身を隠す。エンジンルームは金属の塊だ。銃弾を防げる可能性は高い。


 「っし……」

 身を守る手段を手に入れたところで反撃開始。向こうの銃撃の切れ目に視界を確保する最低限だけ頭と銃を出して射撃を試みる。

 「ッ!!ちぃ……」

 だが一、二発だけ発砲して再度頭を下げた。

 目ざとくこちらの動きを見て攻撃された――それもあるが、一番は連中の後ろでこちらを煌々と照らしている大型のライトだ。

 どこから電源をとっているのか分からないが、かなり強い光を発しているそれは、その前を移動している公社兵の姿をしっかりと隠してしまっている。

 その上向こうからしてみれば俺たちの、穴に怯えてもたもた動く間抜けな姿ははっきりと浮かび上がっている訳で、あれが健在な以上は碌な抵抗は出来ない。

 「まずは消すか……!」

 再度銃撃の切れ目に顔を出す。

 光の最も強い辺りを狙ってセミオートで数発撃ち込んでみるが、中々に当てるのは難しい。

 的としては決して小さくないのだろうが、それでもまともに見ることが出来ないと言うのは大きなハンデだ。何しろその小さくないライトより大きい公社兵の輪郭すらまともに見えないのだから。


 数発の反撃の後、再度モグラ叩きのように頭を引っ込めると、その数cm上を鋭い音を立てて曳光弾が飛び越えていく。

 他の三人の銃声が断続的に聞こえ、水面にそのマズルファイアがチカチカと照らし出されている。


 「よし、一基やった!」

 角田さんの声。

 こちらを照らしている光の帯に、明確に欠けが出来たのが分かる。

 それに続け自分に言い聞かせて俺も三度目の正直。先程撃った場所の見当をつけてその周囲に再度の銃撃。

 ガン、と鈍い音を立てて光の照らしている世界が一区画消滅し、ただのデカい眼鏡になっていた暗視装置が仕事を再開する。


 「よし、こっちも一基!」

 宣言が聞こえたという訳ではないのだろうが、ほぼ同時に別のライトがこちらにスイングしてきて、反射的にそれから逃れるようにボンネットに隠れる。

 「……?」

 だが、撃ってこない。

 リロード中か?いや、敵の数は複数いた。全員が同時にリロードする可能性もなくはないが、そこまで高くはないし、他の所には集中的に撃っている。

 つまり、俺の存在に気付いているし、ライトアップして晒しておきながら、何故か攻撃はしてこないという事。

 公社兵には他の他律生体と同様にCOSが組み込まれている。そしてCOSはそんな無駄な行動はとらない。


 よって、必ずそこには意味がある。


 「ッ!!」

 そこまで思考がたどり着くと、今度はそれが第六感を呼び出した。

 車両の後部=すぐ右隣に目をやる。

 今カバーに使用しているこの車両のすぐ後ろ、落下防止フェンスが数mに渡って無くなっており、目を凝らすとその向こうには水底の代わりに闇が広がっている。

 その闇の中、それが質量を持ったかのように何かの塊が急浮上。

 ――いや、浮上だけではない。その勢いのまま飛び出してこちらに突っ込んでくる。


 「くぅっ!!」

 距離が近すぎ、そして突然すぎる。ライフルを構えていては間に合わない。

 それを狙っていたのだろうその塊は、俺を地面に仰向けに押し付けながら覆いかぶさってくる。

 「!!」

 その塊が人型をしているという事。右手には逆手にしたナイフを握っていて、振り下ろしてきているという事。それを間一髪で受け止めた左腕に刃が食い込んでいた事――それら全てが一瞬のうちに頭に流れ込んでくる。

 二の腕だけでは致命傷にならない。俺を組み伏せて止めを刺すべく、そいつは俺の右腕を押さえながらマウントを取りに来る。


 「があっ……!!」

 COSがフル稼働で生き残るための知恵を絞り出す。

 奴がマウントをとるほんの一瞬前――或いはほぼ同時、奴の股ぐらの下を潜り抜けて引き寄せた右足の底で、思い切り奴の股間を蹴り飛ばす。

 「……ッ!」

 痛みを感じている様子はない。

 痛覚制御か、或いは使用することがなく戦闘時に弱点となり得る器官は初めから無いのか、精々が軽い衝撃を受けたぐらいだ。

 だが、その一瞬がこの距離では生死を分ける。


 「……ッ!!」

 奴が再び飛び掛かってくるより前に右足のホルスターからセカンダリーを引き抜く。

 奴が動き出す。それに合わせて股間の上で銃口を奴に向けながら引き金を連続して引いた。

 「!!」

 三発の45ACPが飛び、うち一発が奴の太ももに突き刺さる。

 と言ってもこれも致命傷にはならない。初めから被弾を予期していたように巻きつけられていた流体装甲パッドが受け止めている。

 「クッソが……!!」

 精々足止めされただけという状態の奴に改めて銃弾を浴びせていく。

 一体何発目が有効だったのかは分からない。

 恐らく下腹部から入ったのだろう銃弾は、しっかりと奴に膝をつかせるだけの傷を負わせていた。


 両膝と左手を地面に突き、それでもまだ動こうとするそいつから尻をこするようにして距離をとると、まだ諦めていないと言うように二つの目がこちらに向けられた。

 「このっ」

 その目をめがけて一発。

 ホールドオープンしたセカンダリーの向こうで、はじけ飛んだ奴が崩れ落ちる。


 「レンジャーがいる!潜っている!!」

 怒鳴りながら他の三人の方へ。

 公社兵=J1614型のカタログスペックは不明だが、一般公社兵と同様のボディーアーマーを着込んだまま、この暗闇を泳ぎ渡る事が出来る個体などいない。

 そして何より組み付かれた時の有無を言わさない速さと力による抑え込みは、先程連中にやられた時のそれを覚えていた体が同じものだと判断している。

 その判断で振り返ってすぐに、俺は自分のライフルを再度構えなおした。


 「シロ!!」

 「ぐぅっ……!!?」

 つい先ほどの俺を見ているような状況。

 同じように飛び掛かってきたのだろう相手に組み伏せられ、今まさに首に刃が突き立てられようとしている。

 「ちっ――」

 反射的に銃を向け、同時に引き金から指を離す。

 俺の場所からはシロの頭の向こうに奴がいる。

 そして当然ながら、俺の継の動きを待っていてくれるはずもない。

 奴のナイフが組み伏せられたシロの首に突っ込んでいく。


 「……ッ!!」

 息を止める。目の前で何が起きるのかを脳が理解するよりも、奴の突き下ろしの方が速い。

 ――そしてそれよりも、奴の頭が横から吹き飛ばされる方がなお早い。


 「シロッ!!」

 クロが叫びながら駆け寄り、今射殺したその敵を蹴り剥がす。

 その向こうに見えた敵は、俺にも撃つことができる場所にいる。

 「クロ!頭下げろ!」

 叫び、同時に撃つ。

 光の帯から外れたその公社兵が、暗視装置の中で水の中に崩れ落ちていった。


 どうやら飛び出してきたレンジャー個体は今の二体だけだったようだ。

 正面の敵部隊との戦闘を再開――と思った矢先に連中が後退を始める。

 「なんだ?……ッ!」

 数名の公社兵がこちらに弾幕を張り、その中を装備の異なる黒い影が複数駆け抜けていく。飛び出してきたのが二人だっただけで、レンジャー自体は正面の部隊に紛れて相当数隠れていたようだ。

 反射的にその影を追いかけて銃撃を浴びせるが、滑るように移動するそいつらを捉えることは叶わなかった。

 なら、弾幕を張っている連中の殿を相手にするだけだ。


 「CPよりキロ及びヴィクター、スクラップ、スクラップだ」

 鹵獲品の無線が音を立てる。

 それが何の意味なのかは分からない。

 その間も頑として抵抗を続ける殿――と言うよりキロの生き残りに攻撃を加え、遂に全軍が後退していった。

 そしてその瞬間、轟音と衝撃が辺りを包み、俺たちの下から床が消滅した。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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