死者たちの国15
「ナイスキル」
シロにそう告げて、その対象=さっきまでビルの下に広がる廃墟を監視していたスナイパーの死体を着剣して突き刺す。
本当に死んでいるのかを確認。それから奴のライフルを使って周囲を確認する。
対岸の監視塔にいたスナイパーはまだ気づいていない。
恐らく正面からの隠匿ためだろう、朽ち果てながらも残っていた看板や配管に隠れるようにして陣取っていたことがこちらに有利に働いた。監視塔のスナイパーからは、こちらのスナイパーの正確な位置は見えていなかったのだろう。
「よし、スナイパーは排除したな。先に進もう」
死体を元の位置=他からは見えない位置に戻してから、先頭に立った角田さんの後に続いて登ってきた道を戻る。
ビルから出ると、監視塔から見えないように潜入時とは反対側に出て茂みの中に身を伏せる。ここから地下への入口まではほぼ一直線だ――と言っても、これまで同様木々と茂みの中の獣道みたいなところを進み続けるのだが。
「移動します」
ポイントマンをシロに交代。彼女の後を一定間隔で一列になって移動する。
それまでより木々は密になり、地面を覆う草はこれまで以上に背が高くなってきていた。
身を隠すには良いが、歩きづらい事は歩きづらい。
まあ、仕方ないだろう。隠れるのに好都合なところというのは、往々にして人が近寄りたがらない所だ。安全と快適はトレードオフになる。
その安全な小道を進む事数分。自分たちの足音と、草木と擦れる音、そして平和そのもののような鳥のさえずる声に混じってそれらよりも馴染みがあるような気がする音が高速で近づいてきた。
「伏せて!ヘリだ!」
同時に察知したシロが鋭く発し、同時に全員が身近な障害物の陰に伏せる。
その飛び込んだ音は、一瞬のうちに距離を詰めてきたその叩きつけるような爆音のローターがかき消してくれた。
「……」
一瞬だけその姿を目にする。木々の上にぬっと現れた巨大な影は、一瞬のうちに飛び去ったもののシルエットの判別はその一瞬だけで十分だった。
そして先程レンジャー個体から回収した無線機の着信がインカム内に響く。
「ゲイザー1よりベースプレート、アンノウン目撃情報のあった空域に到着した。これより対地支援を開始する」
「ベースプレートよりゲイザー1、了解した。対象は2名。連絡のあった場所から徒歩で北西に向かい移動中だ。発見し次第無力化せよ」
「ベースプレート、こちらヴァイパー6-1、6-2と共にリマ小隊のピックアップを完了。これよりアンノウン追跡に向かう。座標を送れ」
「ベースプレート了解。転送した座標にリマを降下させろ」
やにわに慌ただしくなりつつある連中の無線。
どうやらアンノウン=所属不明の存在≒敵を発見したという騒ぎだ。
数は2人。今すぐ思いつく2人組。
そしてその2人組から状況を伝えられたのは、まさに今ここにいる全員が同じ顔を思い描いていたその瞬間だった。
「オールアルファ、聞こえるか」
「こちらアルファ6。良好」
「こちらは現在連中に発見され板橋方面に向かって逃走中だ。通信可能になるまで無線を封止する。そちらは予定通り任務を遂行しろ」
どうやら思っていた通りの事態が発生しているらしい。
だが、その声は決して不安を感じさせない毅然としたものだった。
――ただそう思いたいというだけなのかもしれないが。
「アルファ了解。連中アンノウンがどうこう騒いでいます。それとヘリが歩兵一個小隊を乗せて移動中。ご武運を」
角田さんがそう言って通信を終える。
件のヘリは既に飛び去っていた。
後は向こうの事は向こうを信じてただ進むしかない。
再び静かになった森の中を俺たちは進み続けた。
「……止まって」
再びシロの指示が出るのは、それから少し後。勢いよく流れる小川のような場所に出くわした時だった。
「池袋の周辺にこんな川あったのか……?」
そこまで地理に詳しいわけではないが、何度か電車で通りかかった時には見かけなかった――もっとも、それは俺たちの世界での話だ。いくらか地形も異なるこちらの世界ではそうではないのかもしれないが。
「これ……本当に川なんでしょうか?」
クロがそう言って水面の辺りを指さす。
日の光を受けてキラキラ光っている水面は、しかし時折その下、恐らく足首の辺りまでしかないだろう水の更に下にある川底を覗かせる。
泥に覆われているはずの底は、しかし部分的にはアスファルトと思わしきものが露出していた。
1mもないような川幅とその浅さ、そして川底に見えるアスファルト。
恐らくだが、ここ最近に出来た川だろう。少なくとも、俺たちの知っている川ではない。仮に俺たちの世界で同じ場所を探しても同じ川は見つからないだろうというのは直感的に分かった。
「どっかから流れてきた雨水か地下水か……、とにかく俺たちの世界とはだいぶ変わってきているな」
幸いにして付近に敵の気配はない。
川を飛び越えて更に先へ進むと、探していた地下への入口はすぐに見つかった。
「これって……」
「おいおいおい……」
シロと角田さんが声を揃える。
実物を見て、俺も同じような声を上げそうになる
地下プロムナードへと至る入口は確かにあった。あったにはあったのだ。
先程のそれより大きな川がその前に流れ、雨水だが地下水だかが、その入り口から勢いよく流れ込んでいるという状態で、だが。
「アルファ6よりエド」
「こちらエド。どうした?」
「地下プロムナードへの入口に到着。しかし川と接していて、中に水が流れ込んでいる。中は進める状態なのか?」
「中の様子はこちらからは分からないが、川?そんなところにか?……ああ、ちょっと待て」
それから一秒か二秒して再びエドの声が帰ってくる。
「どうやら雨水のようだ。数日前その辺りに雨が降っている。雨が降った時だけその辺りは川が出来るらしい」
「で、地下まで流れ込んでいる、と」
「そういう事だ。降水量から考えて、そこまで深くはなっていないはずだ。……まあ、実際のところは入って確かめてみるまで分からないが」
「……了解。中の地形データをくれ」
「了解。今送った。まだそこが稼働していた頃のものだが、それが手に入る最新だ」
返事と共に着信する地下プロムナードのデータ。
恐らくショッピングモールとして機能していたのだろうそこの見取り図がデバイスに表示される。
「了解、確認した。これより侵入する」
通信を終え、角田さんが今度はポイントマンに立った。
そうだ、どの道進むしかない。安全と快適はトレードオフだ。
――もっとも、浸水している地下道が安全である保障なんかないのだが。
(つづく)
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今日は短め
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