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死者たちの国14

 目を凝らして確認する。

 ギリースーツが輪郭を隠しているが、人間の目というものは案外侮れない。

 そこにいる、と認識した状態では巧妙に偽装していてもその存在を見破る事が出来る。

 ――もっとも、これが裏目に出ることもあるので過信は出来ないが。


 その背後で角田さんとシロが動く。

 ハンドシグナルでこちらへ指示=手前の奴は任せる。奥はこちらでやる。

 やはり敵は二人だ。改めて自分でやる事になる手前側=斜面のすぐ下の茂みの中に目を向ける。

 角田さん達は大きく迂回するように動きつつ奥に移動していて、もう一人の背後を取るつもりなのだろう。

 こちら側はやや高くなっている地形の関係で、盛り上がった地面と木々の根を盾にすれば下から見上げるのは難しい。


 インカムが着信を告げ、しかし何も言葉を伝えずに再び着信する。

 声を発する訳にはいかない状態での連絡方法で、この着信の回数や時間に予め意味を持たせておくことで一言も発せずとも連絡を取り合うことができる。

 そして今回ももちろんの事、意味も発信者も分かっている。到着した、の合図だ。


 「「……」」

 クロと目を合わせ、互いに音もなくナイフを抜く。

 勝負は一瞬だ。音を立てず、抵抗させずに仕留める――奇しくも連中が本来得意としていた戦術だ。

 音を立てずに斜面を藪に近づいていく。

 奴に一番近い木の根元に動く、クロもそれに続き、茂みの中に伏せる。

 「ッ!」

 その瞬間、視界の隅で何かが動いた。

 いや、何なのかは分かっている。

 見つかった――ただし角田さん達の方の奴に。

 茂みが僅かに揺れ、ほんの僅かに地面から隆起した。

 ――そしてその上に覆いかぶさるようにして二つの影が舞い降りた。


 「……ッ!!」

 それを合図に俺たちも同じように動く。

 真下の奴が突然の襲撃を受けた相棒の方にほんの一瞬だけ意識を向けたのは、俺たちがまさに飛び掛かろうとする直前だった。

 「!!?」

 そしてすぐ自らに迫る危機に気づいたそいつが振り向きざまに立ち上がろうとして、そこに俺が飛び掛かって地面に引きずり倒した。

 どさりと二人同時に地面に落下。

 恐らくだが、格闘の技術では互角か向こうが勝っているだろう。ギリースーツの上からでも分かる逞しい肉体は身体能力ではほぼ確実に向こうに分がある事を示している。

 だが、それをひっくり返しうる代物=ナイフは俺たちの手の中にあって、奴のそれより先んじている。


 「ぐっ……」

 有利な体勢に持っていこうとする奴に引き離されないように体を絡めて寝技に持ち込むべく抵抗する。

 ナイフを持った状態での寝技。柔術のように技を掛け合うのではなく、組み伏せると同時に刃を突き立てる、さながら戦国時代の組討ち。

 「シィッ!」

 そして奴がそれに応じようとした瞬間、そのドーランで迷彩が施された顔面をクロが踏み砕いた。

 びくん、と奴の体が跳ねる。

 念のためギリースーツの下に着込んでいたプレートキャリアの隙間に刃を滑り込ませて脇の下と首の血管を寸断。これでもう動きだすことは無い。


 「よし、そちらも片付きましたね」

 起き上がると同時にインカムを介さずに聞こえた声は、静かなシロのそれだった。

 声の方を見る。俺たちと同じように、しかしよりスマートに仕留めた後の光景=片方が固め技で封じ込め、もう片方が同時にとどめを刺す連係プレーの仕上げを終えて、動かなくなった相手を隠しているところだった。


 こちらもそれに倣って死体を草むらに放り込む。

 その際に初めて連中の装備を確認。

 先程も感じた事だが、こいつらは通常の公社兵よりも体格がいい。

 まあ山や森の中に孤立無援で戦い続ける必要がある連中なのだ、その上コマンド個体と同程度のスペックとなれば、当然これだけの肉体になるのだろう。

 装備品には意外にも銃火器の類が存在しない。もっとも、これはあくまで今回は不要と判断して装備していないだけの可能性はある。使えないのではなく、今回は持っていなかったと考えるべきだろう。

 その代わりという訳ではないのだろうが、ご丁寧にギリースーツとの境界線が分からない程の迷彩が施されたクロスボウを装備していたので、矢ごと失敬してクロに渡した。銃声のしないこいつはかなり便利だ。


 ギリースーツも剥ぎ取って使おうと思ったが、しっかりと巻き付けるように体にまとっていて簡単には脱がせる事が出来ない。

 それに戦闘で血液やその他がこびりついていて、それもかなり目立つ部位だ。

 結局ギリースーツは諦めてクロスボウと無線だけを回収して死体を隠すと、同じ判断を下した角田さん達と合流。改めて茶色のビルへと行動を再開する。


 ビルの一階部分は既に崩壊――というか周囲に取り込まれて入り込めなくなっており、侵入には木の幹をよじ登って二階の窓からという方法しかない。

 まずは角田さんが先頭に立ち、木と瓦礫を足場に二階へ。

 その後にシロ、そしてクロと続く。全員が中へ入ったことを確認してから俺も後に続き、柱と大樹が共存する内部へ。

 元々何があったのかすらもう分からないフロアは、所々コンクリートがはがれて鉄骨がむき出しになっており、その鉄骨も部分的に千切れているところがあるなど、とてもではないが安心していられる場所ではない。

 そのボロボロのフロアの端、輪をかけて劣化した階段を上って同じぐらいにひどい有様の三階へ。

 そこから先への階段はなくなっており、外付けされた非常階段で屋上まで上がることとなった。


 「ターゲットを発見」

 その屋上への入口でシロが前方の人影を見て告げる。

 雑草だらけになっているタイルの上に伏せて下の様子を見ているスナイパーの尻がここからでも見えた。

 「静かに素早く」

 「了解」

 仕留めに向かうのはそのシロとクロ、どちらも先程手に入れたクロスボウを構えて近づいていく。

 彼女らの後に俺たちも続き、スナイパーの背後からじりじりと距離を詰めていく。

階段から離れてすぐ――まだ気づかない。

 少しずつ奴の方向へと歩みを進める――まだ気づかない。

 先頭を進むシロの足が屋上の中央辺り=奴との距離が当初の半分ぐらいに達した時、不意にそれは起こった。


 「!」

 感づいたか、奴が振り返る。

 いや、ただ振り返ったのではない。その場で寝返りを打ち、仰向けになりながらこちらを見た。

 その腹の上には寝返りの瞬間に抜いたのだろう拳銃が両手で支えられていた。


 「!!」

 勝負は一瞬。

 俺がその姿を認めてライフルを構えなおし、サイトの中に捉えた時には、そのU字型の世界の中で、スナイパーの頭に深々と矢が突き立てられていた。

 「タンゴダウン」

 奴が崩れ、一発も火を噴くこともなく拳銃が腹の上から滑り落ちる。

 それと同時に静かにシロがそう宣言した。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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