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死者たちの国12

 「さて、それでどうやって進むかだ……」

 角田さんが再度双眼鏡を覗き込む。

 「ここから確認できるスナイパーは二人。一人は捕虜の集められたガソリンスタンドの北、茶色の壁のビルの屋上。もう一人が南側、森と市街地の境界線上にある監視塔。クロ?」

 「はい。見えています。どちらもガソリンスタンドを監視している」

 やり取りの後、俺たちも受け取った双眼鏡でそれぞれの場所を確認した。

 言われた通りの場所に一人ずつ。置物のようにじっと伏せて動かない。


 「恐らくだがその近くにレンジャーも配備されているはずだ。で、それを踏まえての移動ルートだが――」

 全員が彼の目線と指の先=眼下に広がる広大な廃墟に注目する。

 俺たちが現在いるこの丘の頂上のすぐ下で道は大きく右に曲がっていて、申し訳程度のフェンスが設けられたそのすぐ下は崖になっている。

 曲がった先の道は緩やかな下り坂になって下の廃墟の中に続いているようだが、ここからは木々の陰に隠れてしまって全容は見えなくなっており、その直前でフェンスが崩れ、その外に広がる背の高い草に覆われたなだらかな下り坂が見えた。


 そしてその下り坂のたどり着いた先。正面の崖の下には、かつての民家が数軒、忘れ去られたようにコンクリートと草木の間に取り残されていた。

 その西=池袋駅の方向に向かう途中に位置するのが例のガソリンスタンドで、更に言うとそこを監視している茶色のビルにも民家の立ち並ぶエリアから繋がっている。


 「まずは道沿いに降りていき、フェンスの切れ目から民家のある辺りへ。そこを抜けて茶色いビルのスナイパーを排除。それから池袋駅へ向かう。エド」

 ビルの向こうの地形を確認するために呼び出す。

 「こちらエド。どうした?」

 「現在池袋駅の東の森の中にいる。駅周辺の地形は分かるか?」

 「了解。ちょっと待っていろ」

 恐らくこの展開は予想していたのだろう。デバイスがデータを受信したのは待っていろという彼の言葉の直後だった。

 「今送った通りだ。地上はかなり荒廃している上に、主要な道路は警戒が厳重で、駅ビルに近づくにつれて警備の兵も増えている」

 言葉を耳で聞き取りながら、目はデバイスに表示された地形と実際のそれを見比べている。

 流石にここから肉眼で警備部隊を確認することは出来ないが、先程確認したロータリーの状況からして他の警備状況も想像はついた。まさかあそこだけたまたま集まっているという事は考えられない。


 だが、だとするとどうやって駅に近づけばいいのか。

 そして近づいたとしてどうやって新宿に向かえばいいのか。

 池袋から新宿まで、荒廃して俺たちの知るそれとは様変わりしてしまった道路を使うよりも線路沿い――或いは線路の上――を進むのが一番確実だろう。

 しかしそのためには当然ながら駅に近づく必要がある。この辺りで最も警備が厳重な駅に、だ。


 「成程、別ルートが必要か……」

 もしかしたらそれがサラリーマン経験の長さの差なのかもしれない――次に角田さんの発した言葉はそれを思わせた。

 「なら乗り換えしよう。エド、この辺りの地下鉄の状況は分かるか?」

 「地下鉄?地下の線路を使う気か?」

 同じ言葉を俺も頭の中で発していた。

 考えてみれば当たり前の方法だ。予定していた路線が使えなければ別のルートでの振り替え輸送――こんな状況にならずとも、日常的に行われている行為だ。


 だが、文言こそ俺の頭の中と同じだったエドの声はどこか警戒心を持ったものだった。

 「副都心線……あー、俺たちの世界での名前だが、とにかく地下鉄を使えば池袋から新宿まで出られるはずだ」

 「了解だ……えーと副都心線だな。ちょっと待て……」

 エドが再び通信を切る。今度はさっきよりも長い。

 とはいえ、実際には数秒だったのだろう、再び戻ってきた彼の声は先程の警戒心が若干薄らいだように思えた。

 「よし、乗り入れられる場所を送った。それと、念のため忠告しておくが首都環状地下鉄はまだ連中が部隊輸送用に活用している。路線図を添付したから、そこには近づかないようにしてくれ」

 首都環状地下鉄。こちらの世界ではそういう名前だったらしい大江戸線の路線図が書き込まれた東京23区の図を受信する。

 そう言えば俺たちの世界でも、大江戸線は有事の際に活用することを念頭に置いているという話を聞いたことがあったが、こちらでも同じコンセプトがあったらしい。

 その日本を滅ぼした黒幕が保身のためにそれを活用するなどとは皮肉なものだが。


 「それと、13号線……副都心線……だっけ?そのホームへの侵入ルートを探したが、地上からは連中の警備の中に突っ込むしかなさそうだ。ただ……」

 映像に映る光点が一つ。

 その場所を実際の地形に当てはめていくが、これと言ったランドマークはない。

 「まだ倒壊していなければの話だが、ここから地下プロムナードの廃墟に入り込める。そこを進んで地下駐車場を経由し、駅ビルに入り込むことが出来れば、少なくとも外の警備は突破できるだろう。問題は今言った通り倒壊していないかは分からないという事と、倒壊していなかったとして警備が手薄かは分からないという事だ。駐車場は地上との行き来が出来なくなっているようだが、それだけではなんとも言えない」

 改めて光点の場所を確認する。

 俺の見立てが間違っていなければ件の茶色のビルから少し西に進んだ場所に当たる。

 地下プロムナードと言っているが、ここからは距離もあって特に何か入り口のようなものが見える訳ではない。


 「……そうか」

 エドの説明にそれだけ答えてから、角田さんが俺たち全員を見た。

 それが何を意味しているか、それは俺にも――そして他の二人も分かっている。

 だから俺は己の考えを伝えておいた。

 「どの道地上を進めばどこかで連中の警備にぶち当たります。試すだけやってみましょう」

 それにシロとクロが続く。

 「私も賛成です。この人数で既に防御陣地が設けられた地上ルートを進むのはリスクが大きすぎます」

 「それに地上では車両やスナイパーが出張ってくると対処できませんし」

 「よし、全員一致だな」

 地上を進むのは危険だ。

 スナイパーもレンジャーも車両もいる。

 ――勿論、侵入者がそう動くことを想定してその地下道に警備を増強している可能性もあるが、少なくとも分かり切った危険に突っ込むよりはましだろう。どの道、安全に進む方法なんてない。


 「了解した。これより提示された地下ルートに向かう」

 「了解。気を付けてくれ」

 通信を終え、俺たちは再度動き出す。

 クロに双眼鏡を返して先頭に立つと、カーブの先に誰もいないことを確かめて道を曲がり、フェンスの切れ目へ。

 名前は分からないが背の高い草が斜面一帯を覆っていて、身を屈めれば何とか隠れることができそうだ。

 「身を低く」

 後続に一応伝えてから自らも実践。

 草をかき分ける音だけが耳に届き、そしてその間も足元と周囲に警戒は怠らない。

 こういう草むらは身を隠すのには向いているが、同時にトラップや伏兵にも適した場所だ。

 藪を漕ぎながら、足元に踏み分けられたりかき分けたり掘り返したりしたような、先客の痕跡の無い事を確かめて進む。


 そしてそれ故か、突然斜面が急になって、ほとんど崖のような状態になっている事にも気が付けた。

 「ここからはほとんど崖だな」

 眼下に――という程の高低差はすでに無い民家の屋根に向かって滑るように降りていく。

 着地したそこは、その民家の前――というか裏手だった。

 周囲に目をやると倒木や倒壊した瓦礫が道を塞いでいて、この廃墟の中を進むしかないようだ。


 「裏庭クリア」

 降り立ったその場でクリアリングを開始。

 何もない事を確認して中へ。ついさっき森の中で同じような状況になっていたことを思い出して一度深呼吸。同じようなトラップが仕掛けられている可能性は十分にある。


(つづく)

投稿大変遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に


このところ更新が不安定で申し訳ございませんが、本年もよろしくお願いいたします。

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