死者たちの国5
向かう西側の道路は緩やかな上り坂。
道の途中で頂上に至る小高い丘になったそこを、俺たちは一斉に走る。
恐らく集積所はその頂上の向こうだろう。ここからでは様子を見ることは出来ないが、間違いなく無人ということは無い。
「!!?」
そしてそれを確認することは出来ないと、斜面の向こうから現れた影が示していた。
「戦車だ!!」
角田さんの声。稜線の向こうからぬっと姿を現した砲塔と、それに続く車体。
そして重々しいエンジン音が、背後から追いかけてくる銃声を覆う。
「左だ!!ビルの中へ!」
ビショップさんが指示を出しつつ自ら先頭に立ってその入り口を示す。
「行け!行け!急げ!!」
そのまま後続する俺たちをガラスの砕けた扉の前で呼び、全員が入ったところで自らが殿についた。
「ここは……?」
「分からんが、中へ急いだ方が良い。あれがすぐに来る」
飛び込んだのはオフィスビルだったのだろうビルだ。奥へと通じる通路は封鎖されていたものが時間の経過か、或いは別の何かで崩れていて奥に進める。
と言ってもその先に特別な何かがある訳でもない。エレベーターホールが瓦礫と化している以上進めるのは二階へと続く階段だけ。
何があるのかは分からないが、進むしかない。
階段を駆け上がり、正面にあった二階フロアへの入口に俺とクロが張り付く。
その木目調の扉の正面=俺たちの背後には折り返して登るようになっている三階への階段――が途中で途切れてなくなっており、肝心の三階も崩落してしまっていた。
「多少手荒でもスピード重視で行きましょう」
「了解。ドア任せる」
二人の間でやり方を確認。
こうしている間にも戦車はこの建物に向かってきている。
何もない道路の真ん中で見つけたのだ。恐らく向こうもこちらの姿は見えているだろう。
「行きます」
宣言と同時に放たれたクロの後ろ蹴りが扉を全開にする。
一瞬だけ間を置き、飛び出してくる者のいないのを確かめて室内に流れ込んでいく。
元々はオフィスビルだったのだろうが、残っているのは手前側半分だけ。
残りの半分は、建物の外壁ごと無くなって巨大な穴になっていた。
「マジかよ。危ねえ……」
何も見ずに突っ込んでいればそのまま転落しかねない。
「道はこっちにしかないですね」
クロの示す通り扉から見て右=集積所方向以外は穴になっているか、崩落した壁の残骸で塞がれていて進めそうにない。
そしてその進行方向も途中で途切れて下の階に降りるしかなくなっていた。もっとも、瓦礫の上を渡って、山を下りる要領で進めば安全に降りることはできそうだった――その先にいる者を除けば。
「正面に敵!」
報告と同時にそいつに向かって弾を撃ち下ろす。
同時にこちらを見つけた公社兵が銃口を向けるよりも一瞬早く、そいつを撃ち抜いて地面に倒させることに成功した。
「ッ!!」
仲間がやられた事に気付いて、背中を向けていたもう一人が振り返る。
そちらに反応したのはクロだった。奴が振り返った動作のまま奇妙な踊りのようにステップを踏んで倒れる。
「ダウン」
「よし、降りよう」
瓦礫の山に足を降ろし、そこから更にもう少し低い山へ。
その間に銃声を聞きつけたのだろうもう一体の公社兵が現れ、こちらは角田さんが片付けてくれた。
その新たに追加された死体の横に降り立って周辺を警戒。
先程は進むことが出来なかったが、一階のこの辺りは天井が崩落しているこの辺り以外はそれほどひどい被害を受けている様子はない。
勿論崩落によって天井は全体的に脆くなっているだろうが、それでも今すぐに崩落するという様子はない。
「こっちから出ましょう」
その一階の奥に見えるのは外に通じているのだろう扉。
先程突破した二階のそれと異なり、僅かに開いている殺風景な銀色のそれに向かっていく俺たち。
恐らく今しがた相手にした公社兵たちは、墜落したレイヴンの生き残りを捜索しに現れたか、或いはそいつらが逃げてくるのを見越して襲撃チームの後詰を任されていたとかそういうのであそこから入ってきたのだろう。
その見立てが正しかったのが、彼等の運の尽きだった。
まあそんな事はともかく、今はここを抜ける方を優先しよう。
――その瞬間、外から重々しいエンジン音がもう一度聞こえてきた。
「……」
扉の前で目を見合わせる俺とクロ。聞き間違いではない。
そしてそれを証明するように耳に届く緊迫した様子のエドの声。
「アルファ!そちらのいるビルに戦車が接近している!!」
全員が動きを止める。
正面の奴がこちらに回り込んできた?いや、だとしたらビルの周りをうろつくエンジン音もしたはずだ。壁が吹き飛んで吹きさらしのここにいて聞こえないとは思えない。
だが、今の今までそんなものは感じなかった。つまり、別の車両がそこにいるという事。
そして新たに現れたその戦車は、俺たちがここに隠れていることを既に悟っているようだった。
「下がって!!砲が――」
クロが叫びながら飛び下がり、彼女が見たのとおなじものを見た俺もまた扉から一気に離れる。
それだけで何が起きているのか、理解できる者だらけだったのは幸運だろう。
戦車の車体が、僅かに開いた扉の向こうに見えていた。
そしてその砲塔はゆっくりと旋回し、砲口がぴたりとこちらに向けられていた。
進んできた方向へと駆け戻る。今は少しでも扉から、壁から離れなければならない。
俺たちは一斉に動き出し、そしてその瞬間、背後から起こった凄まじい爆発音と閃光とが俺たちを包み込み、衝撃波がそれらごと吹き飛ばしていった。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




