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かの地へ40

 全員が走る。

 足並みを揃えて、しかしスピードを落とさずに。

 「……ッ」

 後方から迫る敵部隊に応戦しながら、足は進行方向に向けたまま。

 「アルファチーム、前方に敵部隊が接近中。軽歩兵が数名」

 「ちぃっ!」

 追いすがる敵に照準しながら聞こえてきたその無線に対応するべく、一度振り返ってクロの前に出ると、ちょうど倉庫の前のわき道から公社兵が一人、こちらにライフルを向けているのが目に飛び込んできた。


 「クソッ!」

 咄嗟にそちらに銃を向けながら発砲する。

 僅かにさらけ出していた体を、数発のうちの一発が捉えた。

 奴が僅かに怯む。ボディーアーマーの上からでも6.5mmの衝撃は人体の動きを止めるのに十分な衝撃を与えている。

 その隙を逃さずに更に追撃。奴が角の向こうに引き戻され、その動作を追いかけるようにシロの榴弾が飛んでいく。

 直後の爆発。そして聞こえてくるエドの声。

 「直撃だ。纏めてやったな」

 「後ろの奴はどうにかできないか!?」

 角田さんの声にもう一度そちらに目を向けると、先程より敵の数が増えてきている。

 恐らく駐屯地内に残っていた連中が集まってきているのだろう。その増員を確認したのと合わせるように、こちらへ飛んでくる弾幕が一気に濃度を増す。


 「くっ……」

 「急げ!もう少しだ!!」

 倉庫の扉にたどり着き、引きちぎるようにしてそれを横へスライドさせる。

 その間も扉に穴をあけていた銃弾が俺たちに当たらなかったのは、ただの幸運だ。

 「中へ急げ!!」

 クロと奥園を中に入れながら、残った俺たちは反撃を続行。

 可能な限り的を小さくするために膝射姿勢をとって、見えた的は手あたり次第に撃つ。

 今は少しでも数を減らさなければ、倉庫に立て籠もってもいずれじり貧だ。


 「ミスターエド!何でもいいから支援を!!」

 シロの叫び。

 「ちょっと待ってくれ。今使えそうな……あるじゃないかご機嫌なのが!」

 インカムの声が弾む。

 対照的にこちらはそれどころではない。

 敵部隊は更に距離を詰めてきていて、全員が逃げ込んだ倉庫に執拗に攻撃を加えている。


 「そちらは全員倉庫だな?飛び出すなよ!」

 エドの声の直後、敵部隊後方の建物の上が光り、一瞬だけ遅れて砲声。

 そしてそれとほぼ同時に、連中の上で何かが爆ぜる。

 それも一発ではない。


 「おおっ!?」

 花火大会の如き連続しての光と、そこから降り注ぐ炎。

 巻き上げられた土煙の下で、突然の背後からの攻撃に慌てふためく――そしてそのまま倒れ伏す――公社兵たちの姿が見える。

 自動擲弾銃――40mmグレネードを使用する自動装填式の擲弾銃は、その性質故の発射速度で次々と公社兵たちの頭上に榴弾の雨を降らせ、一発毎に二人三人と倒していく。

 乗っ取ったそれによるその掃討は、こちらに攻撃する能力と意思を持った個体がいなくなるまでに、数秒とかからない程だった。


 「よし、これで動く者は消えたか」

 「こちらアルファ。助かった。全員無事だ」

 角田さんが代表してそう言うと、改めて俺たちは今しがた拘束した男に目を注いだ。

 「さて、早速だが……」

 通信を終えた角田さんが奴の前に屈みこむ。

 俺たちのものと似たデバイスが、奴の腕に巻きつけられたホルダーに据えられているのを一度ちらりと確認する。


 「連中の指揮権を持っているな。攻撃を辞めさせろ」

 返ってきたのは沈黙――それも馬鹿にしたような微笑つき。

 それに更に応じる動き=無言でナイフを首に。

 「どっちがいい?ここで死ぬか?まだ生きているか?」

 「……あなた達には出来ないでしょう」

 冷静で落ち着いた、小馬鹿にした口調。

 その眼が俺たち全員を見上げて、値踏みする――自分の得意な土俵に持ち込めたとでも思っているのか。

 「私を殺すなら態々捕まえたりはしませんよね?何か生かしておく必要があった。だから、ここでそんな事をしても無意味――」

 「試してみるか?」

 奴の表情が一瞬強張って、それから首に一筋赤い線が浮かび上がった。

 だがすぐに馬鹿にしたようなふてぶてしい笑顔に戻る。


 「どうですか?殺しますか?そうしたらあなた達も死にますよ?」

 確かにそれはそうだ。

 公社兵の攻撃が止まなければ俺たちが包囲されるのは時間の問題だろう。

 仮にこの倉庫を出て移動したところで、動ける範囲は限られている。

 「ッ!?」

 そしてそれを示すように、背後で扉に銃弾が当たる音が響く。


 「アルファ、後方から新手が接近している。軽歩兵が複数。そちらの真後ろからだ」

 エドからの通信。

 扉の隙間から僅かに目を出すと、確かに数名の人影が行ったり来たりするのが小さく見えている。

 そしてそこから時折飛んでくる銃弾。

 まだ命中するような距離ではないが、同時にあと少しでも近づけばそうもいっていられない距離だ。


 「……」

 ふと思いつく。

 ならこいつらを利用させてもらおう。

 「おい、立て」

 振り返って奥園を立たせる。

 「何を――」

 「こっちに来い」

 言いながら有無を言わせず奥襟をつかんで引き寄せ、扉の前に。

 「私を盾にするつもりでしょうが、そんな事は――」

 言っている奴の横に自分の体を出す。同時に奴の横に着弾する銃弾。

 「……ッ!!!」

 奴がそれに一拍遅れて首を縮こませた。

 「どうやら連中、そこまで精密には狙っていないらしいな。今のはあんたの方が近かったぞ」

 そう言うと、すぐ隣でクロとシロが反撃を開始する。

 目的は奴らを近づかせないこと。即ち、誤射する可能性がある位置のままこちらと戦う状況をつくることだ。


 「攻撃を辞めさせろ。奴ら、あんたまで巻き込んで撃つつもり――」

 言いかけたところで、己の目に映ったものに思わず言葉を飲んだ。

 「嘘だろ……」

 見間違いではない。

 咄嗟に奴から手を放してライフルに持ち替える。

 「クッソ!!」

 そのまま銃口を先程飛び出してきた建物の屋上へ。

 一発、二発、三発、四発――最後のそれが当たるのと同時に奴のそれが発射された。

 シュッ!と音を立てる弾。僅かに残る飛行の痕跡。

 そして地面を掘り返すような巨大な爆発が、俺たちと敵部隊との間に割って入る。


 「RPG!RPGだ!!」

 瓢箪から駒。嘘から出た実。

 何がどうなっているのか分からないが、連中の少なくとも一部は俺たちを始末することを、自分たちの指揮官を助ける事より優先する個体がいるようだ。

 幸い、その結論に至った個体は今盛大な最後っ屁をかました一体だけのようだった。


 「さて、どうする?」

 ぽかんと間抜け面でその光景を眺めている奥園に改めて尋ねる。

 「……得ない」

 「は?」

 「あり得ない。あり得ない!俺を殺そうとしている!畜生!!」

 先程までの余裕をかなぐり捨てて、奴は叫んだ。

 「何を、いやだが……クソ!あいつだ!あの野郎!!」

 どうやら、心当たりがあるらしい。

 味方から狙われる心当たりがあると言うのも何とも哀れな話だが。


(つづく)

投稿大変遅くなりまして申し訳ございません。

今日は短め

続きは明日に

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