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かの地へ41

 奥園を引っ込めてからもう一押し。

 「さて、もう一回だ。連中に攻撃を辞めさせろ。お前が言った通り俺たちはとりあえずお前を活かしておくつもりだ。だが、お前の配下の中にはそうでない奴もいる。どっちを先に止めるべきは分かるだろう?」

 奴は一度俺を見た。

 怒っているのか、或いは焦っているのか、何とも判断のつかない目で。

 しかしその一瞬だけで決定は下ったようだ。奴はすぐに自身のデバイスに手を伸ばした。

 恐らく網膜認証だろうか、一度画面側のカメラを見つめ、それから慣れた手つきで送話を開始。

 「守備隊司令部より展開中の全部隊へ。直ちに交戦を中止せよ。繰り返す。直ちに交戦を中止せよ」

 ただその一言だけでよかった。

 奴が言い終わるのとほぼ同時に、こちらに撃ち込まれていた銃撃がぴたりと止んだ。


 だが、奴の指示はそれだけでは終わらない。まくし立てるように次の指示を飛ばす。

 「続いて守備隊全要員は、直ちに識別用指定バディ順位に従ってコード081を実行せよ。反応のない個体に対しては無警告での発砲を許可する」

 「何をした?コード081ってのは……?」

 ため息を一つ吐きながら、奴はぶっきらぼうに答えた。

 「部隊内にいる部外者を炙り出す。IFFに反応しない個体を無差別に攻撃するように命じた。俺の指揮下にいる以外の他律生体がいればすぐに排除される」

 その言葉を示す通り、どこかから聞こえてくる数発の銃声。

 そして指揮官殿への報告も。

 「……わかった。他にもまだいるはずだ」

 どうやら早速発見されたようだ。


 そのやり取りを見守っていた角田さんが口を開いた。

 「とにかく、協力に感謝する」

 相手の反応には目を向けずにインカムへ。

 「アルファ6よりCP」

 「こちらCP」

 「駐屯地内で目標を拘束。内部の守備隊は戦闘行動を中止しました」

 横で聞きながらようやくほっと一息つける。

 だが、これで終わりではない。今は弾が飛んでこないものの、ここはまだ敵地のど真ん中だ。

 だが同時に、少なくとも今は戦闘が再開する可能性は低いだろう。

 目の前にいる守備隊指揮官殿は自身を拘束している敵部隊よりも、守備隊内に潜伏している裏切り者――意思のない他律生体をそう呼んでいいのかは分からないが――を狩る事の方を優先している。


 「CP了解だ。よくやってくれた。今からそちらに向かうが、合流可能か?」

 ちらりと奥園を見る。

 「今から後続部隊がここに来る。正門を開けて攻撃しないよう伝えろ」

 念のため銃口も一緒に向けておく。今言ったことはただのお願いではないという意志表示をしっかりと。

 「分かるようにビーコンを使えと言え」

 それだけ言うと、こちらの返事も待たずに部下を呼び出す。

 「……警備班へ。正門を開けろ。ビーコンを示す者は撃つな」

 「アルファよりCP。正門が開いています。ビーコンを使用して進入してください」

 同時に告げる角田さん。

 そしてすぐに返ってくる返答――こちらは我々の方だけ。

 「了解した。あと5分で到着する」

 こちらの通信はそれで終わりだが、奥園の方はそうではないようだ。


 「航空管制、アラートハンガーにレイヴンはあるか?直ちに一機回せ」

 レイヴン=汎用ティルトローターV-320の通称。

 OE社でも使用されていたベストセラーだが、公社でも採用されていたようだ。

 で、それを何故今必要としているのか。


 「どこに行く気だ?」

 自由に移動できると思っているのか――言外に含ませながら。

 「奴を追う」

 「奴とは?」

 苛立ちを隠さない。舌打ちが漏れる。

 「決まっているだろう。オブライエンだ」

 その名を出した途端、噛みついたのはシロだった。

 「ここにいたんだな!間違いなく!!」

 「……さっき発ったがな」

 「どこだ!」

 奴の目が俺たちを見た。

 「おい、こいつはどうしたんだ?オブライエンが何か……ああ、そういう事か」

 途中で自己解決したのだろう、奴はもう一度改めてシロを見る。


 「そうだな……。俺を自由にしろ。そうしたら話してやってもいい」

 「調子に乗るなよ」

 取引の代わりに奴に向けられたのは、角田さんの銃口。

 「お前はご存じないかもしれないが、俺たちにも耳と口がある。乗ってから中で説明することは可能だ。お前が奴の所に向かうなら、俺たちもそれについていく」

 「誰が――」

 「少し考えろ。お前はオブライエンに裏切られた。奴はお前を殺す気でいる。で、俺たちは奴に用がある。頭を使え」

 一瞬の沈黙。

 だが奴は考えている訳ではない。ただ、提案を飲むのに時間がかかっているだけだ。

 こんな奴らの言いなりになるのは癪だ。だが利益があるのも事実だ。その二つの感情がぶつかり合って、折り合いをつけるのに時間がかかっている。


 「……分かった」

 結局最後は結論を出したようだ。

 「一緒に来い。この先のヘリポートにティルトローターを用意している」

 交渉成立。そこで初めて角田さんの押し付けていた銃口が奴の頭から離れた。

 「で、どこに向かう?」

 「東日本暫定自治区。あんた達……いや、俺たちに分かりやすく言えば東京だ」




 倉庫を出てヘリポートへ向かう。その間敵襲はない。

 いや、それどころか目の前を通過する俺たちを整列して見送ってくれた。

 「CPよりアルファ。正門に到着した」

 「アルファ了解。そのまま中へ。レイヴンが待機しています。東日本暫定自治区に向かいます」

 搭乗前に連中の武器庫から弾とポンプを補充する。

 ついに向かうは連中の本拠地だ。

 ヘリポートに到着したのは、どこで手に入れたのか俺たちがバラック通りを抜けてきた時に使ったような四駆だった。


 「連中の本拠地と言う訳だ」

 降りてくるなり、ビショップさんがそう告げる。

 現場での決定に異論はないという事だ。

 「再確認する。目標はオブライエンの拘束と、エレベーターに関する情報の流出状況の確認だ。いいな」

 「「「「了解」」」」

 ローター音にかき消されない声がお互いの耳に届く。

 機体後方のハッチから乗り込むと、いよいよ発進だ。


 「……ん?」

 と、その瞬間、ヘリポート後方から何かが走り寄ってくるのが目についた。

 姿は公社兵そのもの。ヘリポート要員が離れていくのと反対に一直線にこちらに走ってくる者達が数名。

 「なんだ……ッ!?」

 連中の手に握られているもの――そして腹に巻き付けられているもので、その正体と目的を理解する。

 そして反射的にそちらへライフルを向けセーフティを解除=その接近する一団に対する対処。

 「近づかせるな!!」

 叫びながら先頭の個体に銃弾を叩き込む。

 奴が持っていたMP5をこちらに向ける途中でその頭を吹き飛ばす。

 最後っ屁の如く吐き出された銃弾の一発が機体に掠めて音を立てた。


 「まだ来る!」

 銃を持てる者たち全員がそちらへの対処に向かう。

 時折足を止めて発砲する者が現れるが、幸いハッチの内側に当たる者は一人もいなかった。

 「早く上げろ!!」

 奥園が操縦席に怒鳴り、がくんと一度揺れて機体が持ち上がる。

 その瞬間、飛びつこうと弾幕を搔い潜った公社兵が足を撃たれて転がり、同時に手の中のボタンを押し込んだ。

 「うおっ!?」

 足元の更に下で起きた爆発。

 奴が身体中に巻き付けていた爆薬によるそれは、一瞬巨大なこの機体を揺らす程だった。


 「これでおさらばだ」

 だがそれで落ちるような機体ではない。

 連中はみるみる小さくなり、追いすがるように放たれた弾丸は、最早かすりもしない。

 後部ハッチを閉めて更に高度を上げ、駐屯地を離れよう――まさにそう考えた瞬間、隣でクロが叫んだ。

 「RPG!!」


 不思議な話。プシュッという発射音が、その発射点=駐屯地の建物屋上から数十mは離れたこの場所で聞こえてきた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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