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かの地へ39

 倒した敵を踏み越えて更に奴を追う。

 同じように角を曲がろうとしたところで正面からやって来る一団を認めた。

 「ちぃっ!」

 壁が音を立て、飛んできた弾が跳弾する。

 耳のすぐ横を通り過ぎた一発がキーンと耳鳴りになって残り続ける。

 「こっちはいい!奴を逃がすな!」

 その耳に飛び込む角田さんの声。

 そちらの足止めは彼に任せて角を曲がると、ちょうど奴が奥にある階段を上っていくところだった。


 「クソッ!結構速いな」

 なんとか引き離されないように追いかけ続ける。階段を登り切った先でも、更に奴のペースは落ちない。

 その追跡劇の最中、インカムに届いた声は何かを企んでいるのが分かるものだった。

 「奴を見つけた。武器庫に向かっているな。だが行かせん」

 エドのその言葉は何もただの意気込みではない。

 直後に防火シャッターが音を立てて閉まり始めたことで、それははっきりと示された。


 「わあっ!?」

 奴の素っ頓狂な声がここまで聞こえる。

 基地は俺の物――警備システムをハックした際にエドの言ったその言葉は、まさしく事実だ。

 だが、奴も随分諦めが悪い。

 正面が封じられたと見るや、すぐさま左に飛び込んだ。


 「ちっ、まだ逃げるかよ!」

 随分距離は縮んだはずだが、それでもまだ間隔は空いている。

 「奴め今度は兵舎方面に向かったか」

 エドの声。そしてまたしても進行方向で降りてくる防火シャッター。

 「ほい。通せんぼ」

 「くぅっ!!」

 シャッターを避けるように右へ。しかしそこにあるのは分岐ではない。部屋だ。

 その瞬間、部屋の中から銃声が複数回。それからガラスの砕ける音。


 「……警戒を」

 その部屋の入口に差し掛かったところでシロがそう告げた。

 逃げている内はそちらに専念していても、逃げ場を失えば自棄を起こす可能性はある。

 窮鼠猫を噛むではないが、奴がこちらへ攻撃してくる恐れは確実に先程までより高まった。

 ――と思ったのだが。


 「オイオイオイまじかよあいつ」

 飛び込んだ先の部屋は、かつては兵員たちのリフレッシュルームだったのだろう。外の景色――と言っても駐屯地内の運動場だが――を一望できる大きな窓が設けられていて、それが一枚割られている。

 恐らく先程の銃声とガラスの砕ける音はこのためだったのだろう。

 そしてその透明な穴の向こうに見えるのは、走っていく奴の姿。


 「行きましょう」

 その姿に最初に反応したのはクロだった。砕けたガラスの下には資材が積み上げられていて、ちょうどよい足場になっているのを発見したのも、また。

 俺たちも恐らく奴がそうしたように窓から飛び出して資材を足場に外に飛び出していく。

 先程の敵を上手く片付けたのだろう角田さんもそこで俺たちに追いつき、再度追跡に加わった。

 ――そして一人加われば一人が抜ける。


 「埒があきません。奴を押さえます。援護を」

 奴と直線状に並んだ瞬間、俺を一瞬振り返ってクロがそう言うと、返事も聞かずに走り出す。

 いや、走り出してはいたのだ。奴が会議室から逃げ出して以降ずっと。

 だがクロのそれは明らかに俺たちのそれと異なっていた。地面に沿って進む飛行とさえ言っていいぐらいに滑らかで、凄まじい加速。

 一瞬のうちに奴との距離を詰めていき、それどころか詰まれば詰まる程に加速しているようにさえ思えるハイペース。

 流石は元陸上選手。プレートキャリアを着込んで銃を担いでもなお、同じ条件の俺たちよりも遥かに速い。


 そんな感心を他所に当の本人はさらに加速。その凄まじいスピードのまま奴の背後にぴったりと着けると、そのまま全速力で奴の背中を突き飛ばした。

 「うおおっ!!」

 奴が声を上げ、そのままの勢いで地面に飛び込んだ。

 そしてこちらも勢いを活かして、クロが猟犬のようにその上に飛び掛かる。

 「ナイス!」

 その姿に声を上げながら、同時に目と銃は進行方向から向かってくる数名の公社兵に向けられている。

 「クロ!頭を下げろ!」

 叫び、同時に銃を撃つ。

 と言ってもここではまだ威嚇だ。より正確に言えば威嚇するより他にない。クロに当てないようにするためには念には念を入れて本来の狙いより上に向ける必要があるのだから、弾は連中の頭上を飛び越えていく。


 三人でクロの上を銃弾で覆いながら彼女に接近。

 振り払っても迂闊に立ち上がれば流れ弾に当たるとあって、奥園も抵抗らしい抵抗はしていない。

 勿論それだけではない。奴が転倒のダメージから立ち直るよりも早く飛び掛かったクロの体は、何とか味方に合流しようとする奥園を逃さず、今ではしっかりと縦四方固めの姿勢に移行している。

 彼女に遅れること数秒、到着した俺たちは彼女のいた場所を追い越し、接近する公社兵部隊との間に割って入るような形をとり扇形に展開。当然、こうなれば今度は威嚇にしなくていい。


 全員がその場に片膝をついて膝射姿勢をとる。

 その俺たちの等間隔の隙間を縫って銃弾が飛び去り、それが合図となった。

 「反撃開始」

 角田さんの声。三人一斉に応戦する。

 流石に複数名による反撃は連中も脅威と判断したのだろう。こちらが銃撃を加え始めて直ぐに散開しての攻撃に移行している。


 「逃がすか!」

 ドットサイトの中で移動する公社兵。

 奴と銃口が一本の糸で繋がっているように銃身を移動させ、そのまま相手を追い越す。

 散開しても近くにめぼしい遮蔽物はない。つまり、集中攻撃を受けないためには大きく動くより他にない。

 その動きを追い越し、再び奴がこちらの狙いの中に飛び込んでくるのを待ち受ける。


 「……ッ!」

 レティクルの中へ飛び込み、その場で伏せようとしたそいつに一発撃ち込む。

 伏せようと地面についた腕ががくんと折れて全身がその場に崩れ落ちる。

 「っと」

 それと同時に別方向から銃撃を受け、目の前の地面が音を立てて穿たれていく。


 「クロ!そっちはどうだ!」

 攻撃に対応しながら振り返らずに叫ぶと、同じく叫ぶ声が自分の銃声に混じる。

 「ほら立て!拘束しました!動けます!」

 それに返事したのは角田さんだった。俺はと言えば、正面で似たような姿勢をとっている相手がこちらに構えるよりほんの一瞬タッチの差で命を掴み取った瞬間だった。

 「よし!移動する!奥の倉庫に向かえ!」

 叫びながら片手は行き先を指示している。

 「了解!」

 背後から返事。

 そして引きずられるようにして動き出す足音。


 「二人も行け!殿は俺だ」

 「「了解」」

 お言葉に甘えるという訳ではないが、指示通りに角田さんに任せて立ち上がると、クロの背中を守るようにして後退しつつ追手に撃ち込んでいく。

 「こちらも動く!当てるなよ」

 その間一人で対抗していた角田さんがそう言ったのは、俺たちが最初の持ち場から数m離れた時だった。


 彼は自身の得物をフルオートに切り替え、現在使用している給弾ベルトの残りを全て使い果たすような勢いで弾をばら撒き始める。

 それに合わせて俺とシロが牽制射撃を始めたところで彼は立ち上がって動き始めた。

 向かう先は運動場の片隅にある倉庫。距離にして僅か10数mだ。


(つづく)

今日も短め

続きは明日に

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