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かの地へ29

 「し……」

 無力化したそいつから周囲に視線を移す――と言うよりそいつ一人にズームしていたのを解除。倍率を普通に戻して周囲を確認。

 敵はまだいる。烏合の衆故に互いが互いの邪魔になっていて碌に反撃に来ないが、それでも時折弾は飛んでくる。


 「ッ!!」

 そしてそこに更に追加される敵。

 市場の奥=進行方向から走ってきたトラックが道を塞ぐようにして停車。その荷台から、バラバラと零れ落ちるように戦闘員たちが飛び降りてくる。

 「ちぃっ……」

 その出端を狙って一人、また一人。

 装備を見るにこれまでのチンピラ崩れではない。武器こそ他の連中と同様のパーティガンだが、チェストリグを身に着け、ただ闇雲に飛び込むのではなく、乗ってきたトラックを利用してカバーリングの真似事のような動きをするものも出始めた。

 大方城砦党の中でも明確に戦闘を主任務とするか、或いはそういう経験のある連中。

 それでも素人に毛が生えた程度の民兵だが、とはいえただ考えなしに突っ込んでくる連中だけではない。


 「フラグアウト!」

 叫びつつトラックの運転席に隠れた奴らの足元に手榴弾を放り込む。

 何しろ敵の数が多い。このままでは埒が明かない。


 「わっ!?」

 そして一発のそれが狙った通りの効果をもたらした。

 ある程度冷静になっていたが故か、足元に転がってきた代物が何なのかを理解したそいつが慌てて飛び下がる。

 もう一歩を踏み出すギリギリの段階で落ちている犬の糞を見つけた時のような、住んでのところで避けるその動きは、しかし却って角田さんの射線に全身をさらけ出す結果となった。

 回避動作を始めた姿勢のまま仰向けに倒れ、そいつの足元で手榴弾が炸裂する。

 「がああっ!!」

 そいつよりも数段冷静さを欠いたもう一人が気付かずにすぐ横を通りかかり、吹き飛んできた破片を顔面に浴びて倒れる。


 「後ろ!」

 今度はシロの声。

 反射的に振り向くと、俺たちが抜けてきた路地から一斉に城砦党が飛び出してきていた。

 正面の連中ほどの練度もないチンピラ崩れ。距離は近いが問題なく対処できる。

 「ッッ!!」

 振り返りざまの銃撃に慌てて身を隠す。油断は禁物だ。ただばら撒くだけでも何発かに一発は正確なところに飛んでくる。

 銃弾が頭のすぐ上を掠めて行き、今度はこちらが弾をばら撒く。

 俺が向けた方向には味方はいない。銃だけ屋台から出してフルオートで残弾をぶちまけてやる。

 効果を確認するために頭を一瞬だけ出した瞬間、バラバラと倒れていく連中の上=向かいに並んだバラックの屋根の上を数名が走っていくのが視界の上の方に見えた。


 「上にいる!屋根の上だ!!」

 反射的に叫ぶ。連中の足元=俺と向かい側の屋台の後ろにはクロがいる。

 連中がそれに気づけば、銃を使うまでもない。屋根の上の適当なものを投げ落とせば致命傷を与えることができる。

 彼女は気付き、すぐに背後のひさしの下に入り込み、建物にぴたりと背をつけて、俺の頭上に銃を向けて数発発砲した。

 呻き声と共に、隣の屋台の上に人間が落ちてきて、屋根のあるタイプのものだったそれを破壊する。

 「ナイスキル」

 お礼と言う訳ではないが、こちらも俺に気づいた向かいの屋根の上へ狙いを定めた。

 当たらない弾をばら撒くそいつらを狙って一発ずつ。

 頭上を守ったことで余裕のできたクロがトラックの方に角田さんの加勢に入る。


 そうしているうちに、連中が撤退し始めた――正確にはトラック組の生き残りたちが。

 他の連中はと言えば、ただ突進しては撃たれて下がり、また前に出てくるを繰り返しているばかりで、もう撤退する程の人数も残っていない。

 「よし!敵が下がっていく!」

 深追いする必要はないが、ここに留まる理由もない。それに何より連中の撤退した方向が俺たちの進行方向だ。


 「進むぞ!」

 号令一下、俺たちは屋台から出て、連中の置いていったトラックの陰まで移動する。

 先程の手榴弾で所々損傷し、銃撃戦の盾になったことで穴だらけになったそれは、しかしそれでも十分に頼れる障害物だった。

 「……」

 その隙間から奥を覗き込むと、撤退していった連中は既に姿が見えなくなっていて、代わりに無人となったこの奥の一ブロックと、その奥で進路を塞いでいる有刺鉄線が目に留まる。

 「あれを迂回するしかなさそうですね。右の道から迂回できそうですが……」

 シロが有刺鉄線の手前のそれを見つけて、提案しながらも言葉を濁した。

 言いたいことは分かる。俺だって彼女と同じことを考えている。

 「あからさまだな……」

 有刺鉄線で奥への道を塞ぎながら、車一台余裕で入れそうなその迂回路については全くノータッチ。まるでこっちに進めと言っているかのような配置だ。

 反対側には迂回できそうな道はない。ご丁寧にバラックの扉を打ち付けて密閉し、俺たちが建物を抜けていくことすら警戒している。


 といって、ここに留まっている訳にもいかない。

 有刺鉄線で奥への道は封じられているが、ここはあくまで建物に囲まれた丁字路の真ん中だ。仮にどこかで立ち止まって敵の攻撃を防ぐにしても――十字路かそれ以上の分岐を別にすれば――防御側が選ぶべきではない地形であることは間違いない。


 「警戒して進もう。連中が余程間抜けでない限り、恐らく他の連中にももう俺たちの存在は伝わっているはずだ」

 角田さんがそう言って道の奥を確認する。

 迂回路の突き当りにはバラックと呼ぶことはできなそうな二階建ての建物が建っていて、屋根の上には何かをシートで隠したのだろうふくらみが一つ確認できる。

 また、デバイスで確認したところによればその建物の前の道が迂回路とぶつかって丁字路を形成しているようだ。

 その突き当りの二階建ての前を左に曲がり、最初の角をもう一度左で有刺鉄線の向こう側に抜けられる。

 そこまで見当をつけ、角田さんが全員に告げる。

 「俺がポイントマンに――」

 その宣言を中断させたのは、突き当りの屋上に現れた二つの人影。

 そして右手の建物から迂回路の真ん中に飛び出して、それからすぐ戻っていった先程の少女だった。


 「あっ……」

 もう一度現れた少女に何か言おうとして絶句する。

 彼女はそれまでと同じような格好をしていた。シャツに熊のアップリケのついたオーバーオール。

 唯一違うのは、俺たちを発見すると今度はすぐに踵を返して出てきた建物に飛び込んだという事。

 それと同時に突き当りの人影が動き始め、膨らんだシートがはぎ取られたという事。


 「避けて!!」

 クロが叫び、全員彼女が言い終わる前に行動に移す。

 シートの下から現れた迫撃砲が丁字路の真ん中を狙って砲撃を行ったのは、クロが叫び終わる直前だった。

 反射的にトラックまで戻ったところで、背後から熱風の塊が叩きつけられる。

 「ぐううっ!!?」

 思わず前に吹き飛ばされそうになって何とかトラックの荷台に掴まり事なきを得たが、あと少し近ければ木っ端微塵だっただろう。

 「前方より敵!」

 そして今度もクロが見つけた。

 俺たちが走ってきた路地から、再度大部隊が追いかけてくる。

 一体どこで兵力を補充しているのか、よそ者である俺たちには見当もつかないが、先程の攻撃よりも明らかに人数は多い。


 「アルファ2!迫撃砲を潰してくれ!アルファ1はそれを支援!後方は俺とアルファ5でカバーする!」

 飛んできた指示と、彼本人。

 すれ違いざまに迂回路に現れた城砦党に銃撃を浴びせて動きを止め、その隙にクロが放置された車両の陰に飛び込んでライフルを構える。

 初弾で確実に丁字路の真ん中に落とした辺りからして、既に砲撃座標は判明していると見ていいだろう。つまり次の砲撃が行われるまでに迫撃砲を黙らせなければ、今度こそ俺たちは肉片にされてしまうという事だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

尚、次回は20時~22時頃の投稿を予定しております

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