かの地へ27
「クリア」
スモークが晴れ、状況が肉眼でも分かるようになる。
元々何のためのスペースだったのかは分からないが、二十人以上を収容できるスペースには、やはり重要と判断されたのか照明が維持されていた。
アクセスには僅かに下が開いたシャッターと、俺たちが突入してきた観音開きの扉以外に、奥にもう一つの扉。消去法でその扉に集まっていく。
「この向こうは?」
「地図によると……もう一部屋あるみたいですけど、何の部屋かまでは……。ただ、階段で下に降りて外に出られるようです」
何にせよ、先に進むにはここしかない。
そしてそこから脱出できるようになっているなら、進行方向としては間違っていないのだろう。
やり取りを交わした角田さんとシロにクロが続き、扉の左手に一列に並ぶ。
残った俺は、彼らとは反対側に移動。そしてそのまま渾身の力で扉を蹴り開ける。
「クリア……っていうか」
飛び込んでいった三人の反応が芳しくない事を、後方警戒中の背中に感じる。
「何もない……ですね」
「えっ?」
クロの言葉に思わず振り返り、その当惑と何もないという言葉の意味を理解した。
扉から2m程度までしか床は残っておらず、後は壁と床をセットでざっくりと持っていかれたような廃墟が広がっている。
柱の残骸が床の少し下、本来なら存在している床を支えるのに少し足りないぐらいのところで折られ、中の鉄骨が飛び出している。
一体何があったのかは分からないが、本来存在していたここの部屋は、外界と隔てていた壁ごと跡形もなく崩れ去って、これまた崩壊してしまった下の階に無数の瓦礫となって積み重なっているだけだった。
「アルファ6よりCP」
「こちらCP」
「地図の情報が古い。部屋が一つ無くなって、瓦礫の山に変わっています」
一拍置いてから返答がインカムに。
「そちらの位置を確認した。どうやら数か月前に崩落したらしい。近くに現地民が使用しているタラップがあるはずとのことだ」
言われて辺りを見回すと、確かにそれらしいものが、崩れかけた瓦礫になんとかしがみつくように残されていた。
「あー……了解。発見しました」
「それを使って降りてくれ。そこからバラック通りを抜けた先にトンネルがある。警備が強化されている。十分注意せよ」
「アルファ6了解。アウト」
通信を終え、目が合った俺に小さく肩を竦めて見せる角田さん。
今にも壊れそうなタラップを降りて、瓦礫の外へ。
そこで再びインカムに声が入った――ただし今度は耳慣れない男の声。
「こちらグリフレット。アルファチーム聞こえるか」
「こちらアルファ6。聞こえている」
グリフレット=シュティレン回収員だ。
彼はどうやら俺たちとは別にCPとやり取りがあるらしかった。
「CPからそちらの位置を聞いた。今あんた方がいる場所はバラック街の下層地区だ。まあ全部下層みたいな場所だがな。そこを抜けて通りに面した薬局の角を曲がって大通りに出たら、後は真っすぐ。東の外れにある『春慶食品』の看板のある廃墟にいる。そこまで来てくれ。位置情報をそちらのデバイスに送る」
どうやら向こうはもう到着しているらしい。送られてきた位置情報は、目的とするトンネルのすぐ横というか、この建物の裏手にあるのが件のトンネルと言っていい。
「アルファチーム了解した。『春慶食品』だな。これより向かう」
問題はそこに至るまでの間に、迷路のようなバラック街を抜ける必要があるという点だが、こればかりはこちらの問題だ。
「さて、またかくれんぼの時間だ」
諦め半分と言った口調で角田さんがこぼす。
実際、目の前に広がっているバラック街は、一度本気で隠れればまず見つからないだろうというのが正直な感想だった――こんな状況で抱くべき感想ではないのかもしれないが。
「まあ、見つからなければいいだけです」
「最悪見つかっても捕まらなかったら」
「……まあ、そうか」
シロ、クロ、俺――それぞれがそれに答えつつ、俺たちコンクリート片の散乱する空き地を横切って低い柵を乗り越え、そのかくれんぼ会場へと足を踏み入れた。
柵のすぐ近くの家――いや、これはただの掘っ立て小屋?それ以下?
ただ四隅に柱を立てて、その上にトタンを敷いて、周囲をその余りで覆っただけの場所。
その陰に隠れて進行方向を警戒する。
狭い、土がむき出しの緩やかな上り坂。その向こうにある、ようやくバラックと呼べるような建物が一軒。
その建物に向かって俺たちは動き出す。
目指すはそこの中――ではない。残念ながら坂道はその建物の手前で途切れ、3m以上ある崖になっている上にその崖の上には有刺鉄線が張り巡らされ、とてもよじ登れるような状態ではない。
よって、目指すはその下。崖の下を貫通して向こうに抜けられるようになっている大きな配管だ。
元々は水でも流していたのだろうそこは、今では流れはなく、乾ききった土が僅かに残るだけのトンネルとなっている。
その中をくぐって崖の向こうへ。狭いそのトンネルを匍匐前進して抜けた先が背の高い藪だったのは幸いだった。
「動くな。数が多い……」
先頭を行っていた角田さんの指示は息を殺したものだ。
背の高い藪の向こう。一台のテクニカルと複数名の武装した城砦党メンバー。
銃火器で武装し、数名はチェストリグを着用。テクニカルの荷台に設けられた重機関銃にも銃手が配備され、周囲を警戒している。
幸い彼らの視線は俺たちと同じ方向に向いていて、背後に伏せている侵入者四人には感づいていない。
どこかに行くなら行ってほしいが、連中は車の周囲をうろうろするだけで移動する気配はない。
「迂回する。右だ」
彼等は動かない。だが振り返らないとは限らない――その判断から角田さんが横へとゆっくり動き始める。
風で藪がそよぎ、音を立てたところで動いて、風の止むのと動きを止めるのを合わせる。
不意に、エンジンが音を立てた。
「!?」
移動する訳ではなく、ただの空ぶかし。
一体何があったのか、運転席の人物と周囲の連中はそれに合わせて笑いながら何かを言い合っている。
そうして笑いあい、また空ぶかし。今度は先程より長い。
その間に俺たちは右へ。今しがた下をくぐったバラックと同じような右手のバラックの陰へと滑り込む。
どうやらここは潜り抜けたバラックの前庭のような場所で、テクニカルの周り以外にも複数名の城砦党が詰めていたという事を、新たな遮蔽物に隠れてから見て取った。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




