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かの地へ26

 掴んでいる手から力が抜けるのを感じて手を離す。

 支えを失ったナイフが床に当たって音を立てた。


 「よし。無力化」

 それだけ確認して更に前進。

 狭い通路はこれがあるから恐ろしい。練度で言えば公社兵の足元にも及ばないだろう城砦党のチンピラですら、出会い頭を狙って待ち伏せすれば簡単に武装した敵を殺せる。

 周囲に警戒を張り巡らせながら、その狭い通路を奥へ奥へと進んでいく。

 幸いそれ以降は敵の襲撃はなく、左右の壁が唐突に開けて見通しのいい、吹き抜けに面した場所に出た時には、周囲から露見する恐れがあるという事実を踏まえてもなお、安心があった。


 「ッ!!正面!」

 だが当然緊張を解いていいという事にはならない。クロの声に彼女とは反対の横に飛び、柱の陰に身を隠すとこちらに向かってくる城砦党のメンバーが二人。

 後続の二人を発見したのだろう、廊下の真ん中を通り抜ける銃弾が俺たちの横を通り抜けていく。

 そしてそれに対する反撃の銃声と、反対方向に飛ぶ銃弾。

 柱から僅かに顔を覗かせると、どうやら連中も俺たち同様柱の陰に隠れて戦っているようだ。

 ――そしてこちらに気づいた様子はない。


 「……」

 一瞬クロと目を合わせる。

 この吹き抜けを渡る通路は今撃ちあいをしているこことは別に、俺の背後にもう一つ。

 その通路と、そこに至るまでの廊下=俺の現在位置には全て成人の腰ぐらいの高さの壁が設けられている。

 伏せて踵を返す。壁から体が出ないよう慎重に、しかし一秒でも早く連中の裏をとれるように可能な限りのスピードで。

 「アルファ1、そちらのタイミングに合わせます」

 クロの声が通路に差し掛かった時に聞こえた。

 そっと頭を出す。こちらからは柱に隠れてパーティガンを構える敵の片方の、無防備な背中が見えている。


 「了解したアルファ2。右手の奴をこちらでやる」

 「了解」

 通信しつつ武器をプライマリーに持ち替える。流石に距離がある。拳銃でも狙って当たらない距離ではないのだろうが、確実に先手を打てる状況ならばあわてず騒がずより確実な方法を選択するべきだ。


 リロードを終えたそいつが再び構えようとするのをドットサイト越しに眺める。

 慌てず騒がず、ドットの重なった奴の後頭部に一発。

 柱の陰から弾き出されるようにして倒れたそいつに、柱の向こうから相方が覆いかぶさっただろうというのは、ほぼ同時に響いた俺のではない銃声で悟る。

 「タンゴダウン」

 「タンゴダウン」

 互いに報告したまさにその時、俺のすぐ近くにあった扉が勢いよく開けられた。


 「ッ!!」

 咄嗟に振り返り、同時にライフルを向けようとしてはたき落される。

 距離が近すぎる――そう直感した瞬間には、相手の右手に握られている拳銃がこっちを向いているという事実が目に焼き付いていた。

 「くっ!!」

 全く、マキナ様様。

 その状況を理解するや否や、体は反射的にライフルを諦め、こちらに突き出そうとしてくるその拳銃を持った右手を弾きつつ体を密着させ、突っ込んできた時の慣性が殺しきれていない相手の勢いのまま、その右手を極めた。

 そしてそいつのすぐ後ろ。同じように銃を持ったもう一人が、目の前の光景に動きを止めてしまっているのを見つける。


 奴の頭の中=目の前に敵がいる。目の前の敵が仲間を襲っている。仲間を助けるには敵を撃たなければならない。だがそれをすれば味方に当たるかもしれない。


 その逡巡に脳が判断を保留している一瞬が、この距離では命取りだ。

 「ぐああっ!!」

 腕を極められた男が呻く。

 その右手が持っている銃を、奴の手を包み込むようにして後続するもう一人へ。

 そして奴の指を握る=奴の指が引き金を押し込んでいく。


 三発の鉛玉。全てが至近距離で後続する男の胸と腹を貫いた。

 その姿は見えなくとも、何が起きているのかは撃った男も分かっている。

 「あっ……!?」

 声を上げているうちに腕を引き寄せて崩し、腰を落として空いている方の手で奴の股間を持ち上げる。

 「おっ、やめ――」

 壁の上にそいつを乗せて、今後の展開を理解したそいつが何か言う前に投げ落とした。

 下はむき出しのアスファルト。デカい看板にバウンドして、硬い底に叩きつけられる。


 「アルファ1!無事か!?」

 こちらに前進したところで状況を知った角田さんの声に、ライフルを拾いながら振り返る。

 「問題なく無力化」

 実際は問題はある。寿命が三年は縮んだ。まあ、残り全ての寿命が無くなるのに比べれば問題ないうちに十分含まれるだろう。


 今度こそ安全になった事を確かめてから再度前進する。

 再び細い通路に入ってから、その更にわき道みたいなところを折れて、もう一度吹き抜けへ。

 「……っと」

 下を覗きこんですぐに頭を引っ込める。

 恐らく先程空から落ちてきた人間のところに行くのだろう、複数の武装した城砦党の構成員が駆け抜けていく。


 「下が騒がしいですね」

 同じものを見たシロがため息交じりに呟いた。

 「その分こっちに割く分が減っていればいいけどね」

 呟きを返して隠し通路のような階段を降りていく。残念ながら、中心地ではないとはいえ、その騒がしい所に行かねばならない。

 二階まで下りたら再度狭い路地を進み、再び商店街のような場所に出る――直前で足を止めた。

 「まだ近くにいるはずだ!」

 「誰一人逃がすんじゃねえぞ!!」

 シャッターの向こうに複数の声、声、声。

 屈んで僅かに空いている下側から覗き込むと、数えきれないぐらいの足が見えている。

 城砦党の連中が集会でもしているのだろうか、厄介なことに、そこを通らなければ大きく迂回することになる――それも先程の男が落ちた場所を通って、だ。


 「どうします?」

 「左手に回れ、あっちから入り込む」

 角田さんもここを通っていくつもりらしい。俺の問いにそう答えながら、自身のグレネードポーチにあるスモークグレネードを確認している。

 やり方は分かった。俺も、そして他の二人も同じものを持っている。

 気配を消し左側に回り込むと、確かに劇場の入口のような観音開きが一か所。一体此処は元々はどういう場所だったのか。


 「暗視用意」

 全員がそれに従い着装。元々が薄暗い場所なだけに、その効果は如実に伝わってくる。

 「スモーク展張後に突入。突入後は3m間隔で横隊を展開、分隊長指示で前進」

 インカムに矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

 先程覗いた感じだとこの先のスペースはそれなり以上に広い。

 そこに数えきれないほどの足=人数も推測できる。

 その中へスモークを焚いて突入するのだ。当然、敵側は混乱して、或いは激昂して動き回るだろうし、広さゆえにその動きは激しくなるだろう。

 その状況で突入側の足並みがそろわず突出した者がいた場合、フレンドリーファイアの原因となりかねない。


 「「「了解」」」

 返答を合図に角田さんがそっと扉を開ける。

 音もなく僅かにできた隙間。中の連中は誰も気付いていない。

 ――そしてその中に、スモークグレネードが三個転がし込まれた。


 「……突入!」

 中で聞こえるざわめきと連続した破裂音。

 それを確認した直後に俺たちは扉を一斉に開けて中へ。

 予想通りの光景=スモーク対策もなく、それをされるという想定さえできていなかった烏合の衆はパニックになっていた。


 「前進!」

 インカムに響いた角田さんの指示に横隊を展開し、それぞれ自分を中心とした扇形の担当範囲の相手を撃ちながら移動する。

 重ならず、しかしムラなく、足並みを揃えて。確実に視界に入った相手を仕留めながらの行進は、数倍の人数がいたであろうこの部屋の制圧を、一発の反撃を受けることもなく終わらせた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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