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かの地へ25

 脅威を排除してから更に進む。

 今いるこの屋根から厚い板で橋渡しされている隣の屋上へ。この辺りは恐らく住民たちが増改築を繰り返したところなのだろう。大小様々な建物が、元々あった集合住宅を取り囲むように、或いはそれらの隙間を埋めるように立ち並んでいて、何の目的かそれぞれの屋上を今渡った板のように行き来できるようにしている。


 板を渡る瞬間にちらりと下を見ると、小さなベランダが等間隔に張り出して、それらの間を縦横無尽に配線が走り回っているその更に下、昼間でも薄暗く、陰気な路地が二つの建物を隔てている。

 もしその路地に一人で放り出されたら二度と知っている場所に戻ることはできないだろうという事は容易に想像できた。


 そんな場所で数少ない明確に進行方向が分かる場所=屋上を駆け抜け、向こうの集合住宅に向かっていく。

 「コンタクト!」

 シロが叫び、それを合図に俺たちは散開。

 先程同様板の橋で繋がった進路上の屋上にその片隅の建屋からバラバラと飛び出してきた集団。

 その手の中にあるもの=拳銃なりSMGなりがこちらに向けられるよりも、こちらが出鼻をくじく方が速い。


 「ッ!!」

 走りながら適当な物陰に向かい、同時にドットと重なった敵に向かって引き金を絞っていく。

 「ぐおっ!?」

 「撃ってきやがった!!」

 「ビビってんじゃねえオラァッ!!!」

 パラパラと降り注ぐ鉛玉に先陣が倒れていくのを見てそれぞれ声を上げる連中。

 その浮足立った様子といい、身を隠すことも散開することもなく前進してくる様といい、何より全員バラバラの――ただ派手でケバいところは共通の――いで立ちといい、どう見ても公社の関係者ではない。


 「こいつら城砦党か?」

 「恐らくな」

 漏らした言葉に角田さんが反応する。

 と同時に、片手に持った拳銃をこちらに突き出し、一直線に向かってきながら弾をばら撒いている相手を無力化。

 自警団のような機能を有する組織とはいえ、公社の連中とは所詮別物だ。


 「舐めてんじゃねぇぞゴラッ!!」

 それでも突進してくる鉄砲玉たち。

 ばら撒いている銃声よりもデカいのではないかとさえ思えるその叫び声は、銃弾ではなく声で敵を倒せると信じているかのような有様だ。

 ――いや、本当はそうではない。

 「……」

 対照的に無言で、機械のように淡々と、俺たちはそいつらを始末していく。

 連中は怖いのだ。

 敵の前に飛び出した以上後ろには下がれない。しかし銃の撃ち方は知っていても散開して戦う技術も、飛んでくる銃弾から身を守る技術もない以上は、心細さを覆い隠すための叫び声とそれを増幅し合える仲間は必須だ。


 必然、喚き散らしながらがむしゃらに突進するしかない集団が産まれる。

 散開し遮蔽物を利用して、複数方向から攻撃を行えるように展開したこちら側にとっては、向こうの方から撃たれに来ているようにしか見えない。


 「……終わりか」

 最後の一人を無力化し、死屍累々の屋上へと移る。

 ポイントマンに立った角田さんの背中を追いながら、一瞬だけ後ろにいるシロの方に目をやる。

 彼女が背負っている荷物の正体=手を組んでいたはずの公社が自分たちを吹き飛ばそうとして仕掛けた大量破壊兵器を知ったら、一体どうするだろう。

 ――今足元で倒れている連中がそれを知ったら、向かってこなかったかもしれない。


 「……」

 全ては仮定の話だ。つまり意味のない話だ。

 頭を再度任務に、目の前の現実に切り替える。

 この建物とその向こうにある建物=本来の集合住宅との間には距離がある。そして勿論この建物にもそれなりの高さがある。放り出された出てこられない路地に飛び降りたところで、迷う前に死ぬような高さが。


 「次はどっちだ」

 先頭の角田さんがインカムに告げると、返したのは俺のすぐ後ろ。

 「そのまま正面。降りて向こうのベランダ部分に降ります」

 「正気?」

 俺の口から出たような気がする角田さんの問い返し。

 マキナを仕込んで強化人間になったせいで忘れがちだが、突然そんなアクロバットをやれと言われてぶっつけ本番で成功するのはハリウッド映画の中だけだ。


 「そこのパイプを足場に使って下に降りれば正面にあります」

 確かに屋上の給水タンクから伸びた配管が屋上を這った先、壁に沿って下に向かっているのは見える。

 「ああ成程。了解」

 それだけで、先頭を行く角田さんにはルートが見えたらしい。

 そのすぐ後、追いついた俺たちの前で角田さんは飛び降りた。

 「!?」

 驚いてそこを覗き込み、そして理解する。

 角田さんはパイプを掴んで飛び降り、そのすぐ下で90度曲がって地面に水平になった場所に着地、それから元の方向に体を捻りつつ着地している。ベランダと呼ぶには広いその張り出した床に、ご丁寧に受け身をとって。


 「いいぞ。こっちだ」

 そう言って俺たちに合図しつつ自身はその進行方向=建物の中を警戒し続けている。

 ならやらない理由はない。手本は今示されたのだから。

 「っと……」

 パイプを掴み、その表面を滑るようにして下へ。そのまま水平になったところに着地、後は90度捻りを加えて着地するだけ。

 やってしまえば案外簡単な即席パルクール。


 同様の動作で続く二人も着地。それから今度はクロがポイントマンに。

 「ライフルじゃ狭いか」

 そう言ってセカンダリーに切り替えたのに俺たちも倣う。

 新しい建物の中は、先程見下ろした路地が建物の中に再現されているかのような場所だ。

 狭く、配線と配管で埋まった天井に覆われた薄暗い通路。それでも人が生活しているのだろう、左右の扉には生活感が出ている。


 「ッ!」

 その扉の一つ=クロのすぐ前の右側のそれが唐突に開いたのは、彼女が一番に反応した。

 僅かにだけ開かれたそこから、小さく一歩跳び下がりつつ手の中の拳銃を構えた彼女の前に現れたのは、その僅かな隙間から覗く小さな顔。まだ日本で言えば小学生にもならないような子供だった。

 「……」

 小さくクロが首を横に振り、手で戻るように指示。

 それを見た訳ではないのだろうが、その子の背後から伸びた手が彼の襟を掴むと、ひょいと室内に引き戻して、すぐに扉が強く閉められた。


 それでいい。そんな事を考えながら彼女に続いてその硬く閉ざされた扉の前を通り抜ける。

 親か兄弟かそれ以外分からないが、扉の向こうの人間の判断は適切だった。

 「コンタクト!」

 クロが叫び、同時に発砲しつつ左手の路地に身を隠す。

 同時に俺たちもそれに倣って身を隠す――と言っても丁度良く路地などある訳ではない。通路に張り出した配管や、或いはそれもなければその場に伏せて的を小さくする。

 そして同時に、正面に現れた人影がダブルタップで倒されるのを目撃。その一人以外に敵影は見えない。


 「ダウン」

 「よし……」

 彼女のコールに配管から出て前へ。

 その瞬間、視界の右隅に一瞬違和感を覚えたのは、ほぼ奇跡的なタイミングのよさだった。

 「うおっ!?」

 思わず叫びながら飛び下がる。

 「おおああっ!!」

 先程の連中同様叫びながら右手のちょっとした空間から飛び込んできた城砦党のメンバー。

 腰だめにしたナイフを先頭に突っ込んでくるだけのシンプルな攻撃だが、故にあと少し遅れていたら大惨事だ。


 「くっ!」

 その突進をすんでのところで躱し、反対にその勢いを受け流して反対側の壁にぶつける。

 「この……」

 奴が振り向くより速くナイフを持った右手を掴んで反対側の壁に向かって大きく振ると、振り返ろうとした勢いごと、バランスを崩して本当に壁に突っ込んだ。

 流石に全力で頭からという訳ではない。よって一瞬怯んだだけだったが、出会い頭の格闘で一瞬の怯みは永遠の隙と同じ。


 「しっ!」

 うろたえた瞬間、ナイフを持っている奴の右腕を引き込み、逆一本背負い、即ち肩の上で相手の右肘を極めるようにして投げる――というよりその場に崩す。

 「ぐうぅっ!」

 腕を折られないようにするには相手に従うしかない。その反射的な反応とそれへの戸惑いによる行動の遅れが奴のバランスを崩させ、床に両手足をついて、無防備なまま顔面をこちらに晒す失敗に繋がった。


 「……ッ!!」

 ナイフを持った右手を極めたまま、俺は右手に持ったセカンダリーを奴の顔に向け、そのまま引き金を引いた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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