かの地へ24
「クソ!」
更に数発撃ち込むが、流石に盾の隙間から後ろにいる射手を狙って――などと言う曲芸はできない。
そして更に厄介なことに、この机の天板も、初めから防弾性を考慮して造られたものではない――当たり前だが。
「うおっ!?」
隠れているすぐ横に穴が開き、線を書くようにそれが連続していく。
体が隠れているから、そうでないのに比べて狙い撃ちにされる可能性は低いだろうが、それは裏を返せば隠しているこの天板全体を撃てば俺かクロのどこかに当たるという事。そしてそうした攻撃に耐えられるほどには、この即席バリケードは頑丈ではないという事だ。
「このっ……」
反撃の手を緩めればそれが更なる攻撃を誘発する。そう考えて銃だけだしての盲撃ちも、やはり効果は望めなかったという事は、横で狙いを定めていたクロが無言のまま再度身を隠したことで分かった。
どうする?通常のライフル弾ではあの盾を破壊することはできない。
詰み――その言葉が脳裏をよぎった瞬間、それを否定したいという思いが見せたのかとさえ思える程のタイミングで、シロが体を壁際に隠したままグレネードの弾頭をいじりまわしているのが見えた。
何らかの調整をしたのだろうそれを自身のライフルの銃身下にマウントしたグレネードランチャーに装填。
「アルファ6!一秒だけ連中の目をひいてください!」
叫びながら僅かに顔を出して、接近する盾の塊を睨む。
「了解した!一秒だな!」
角田さんが叫び返すや否や、銃を左にスイッチして体の半分ほどを露出させ、ガク引きで盾に弾丸を叩きつける。
掃射、というよりも弾のばら撒き。狙いも何もつけず、ただ銃身が向けられた方向に弾が出続ける限り引き金から指を離さないだけの動き。
残っていた給弾ベルトのほとんどが銃の中に飲み込まれた所で、一瞬前の動きを巻き戻すように隠れると、それを待っていたかのような反撃が、彼の隠れている壁に集中し、扉本体が無くなっても残っていた蝶番を吹き飛ばしていく。
その僅かな、ほんの僅かな連中の意識の集中。ただその一瞬が、シロの注文を十分に満たしていた。
彼女は反対側にいる角田さんの動きを真似るように体を銃身の分だけ露出させると、それと同時にグレネードランチャーから一発だけ放った――連中の中心からやや下に向かって。
外したのか?いや違う。構えた時点で既に下を向いていて、サイトをしっかりと覗き込んでいた。つまり狙っていたのだ。
その理由は、そんな事を頭の中でこねくり回している一瞬のうちに判明し、そしてその効果をしっかりと俺の目に焼き付けていた。
硬いコンクリートの床に榴弾が飛んでいく。狙うべき敵よりだいぶ手前をめがけて。
弾はその狙い通りコンクリートに当たり、そして跳弾した。信管の作動しない角度か、或いは射手から近すぎて起爆しない距離なのか、弾のまま、床に弾かれて低くバウンドした角度で飛んでいく――盾を持った兵士の足元へ。
「ッ!!?」
そしてその飛び込んだ先で、初めてその効力を発揮した。
爆風と煙が連中を包む。
その煙の向こうから盾が一枚飛んできて、榴弾が跳ねた辺りへと落ちる。
「今だ!撃ち込め!!」
その合図に合わせて一斉に銃撃を加える。
もう盾はないだろう。あったとして、持ち主が爆発で吹き飛んだ今、それにどれ程の意味がある。
果たして煙が完全に晴れる前に、俺たちが見ているのもはただ折り重なるように倒れた無数の他律生体たちだけになった。
「ひとまずはよし……か」
その山を見ながら次のベルトに交換しながら角田さんが呟き、俺たちはマガジンを替える。せっかく補充したのだが、どうにも消費が早すぎる。
「今ので全部じゃなさそうだな」
同意だ。それどころか、この騒ぎで更に呼び寄せられる可能性すらある。
「トーマ」
角田さんが机から出た俺に呼びかけ、部屋の中に転がっていたのだろうワイヤーを一巻き放って寄越した。
見ると、恐らく先程いた部隊のものだろうか、いくつかの工具などが部屋中に散らばっている。
適当にいくつか拾って、扉のなくなった入口へ。
「あえて見やすくやってくれ」
「了解」
受け取ったそれの先端を引き出して、フラググレネードのピンに先端を通す。恐らくブービートラップとしては最も有名なタイプの奴だ。
注文通り、あえて分かりやすくワイヤーを張り、フラググレネードも特に隠したりせずむき出しで設置する。
後続の部隊は余程の間抜けか、慌てて飛び込んできたりしない限り気づくだろう。そしてそれこそ、ニーズに合ったトラップだ。
トラップとは本来敵を誘い込むもので、そのためには当然見えない方が良い。わざわざ見えている地雷を踏みに行くような真似は普通はしない。
だが今俺たちに必要なのは敵をひっかけて数を減らすことではなく、少しでも敵に追いつかれる=移動中の背後から襲われる可能性を下げる事だ。
つまり、敵が警戒して足を止めてくれればいい。そのためにはいっそわざとらしいぐらい見せていた方が良い。
見えていれば誰も近づかないし、その見えているトラップが囮で、解除や迂回を試みた相手を狙った本命が隠されているかもしれない――相手にそう思わせる事が出来れば成功だ。
「設置完了」
その注文通り、むき出しのグレネードとワイヤーをセットし終えて報告。一応機能するように設置もしている。相手が想像以上に間抜けだった場合用に。
「移動しましょう」
それを受けて先程の迎撃の立役者=シロがそう言って先陣を切った。
窓枠を乗り越えて外へ。
当然ここはこの棟の屋上だが、どうやら反対側は、窓のすぐ向こうに一つ下の階の屋根がせり出してきているようだ。
その一階分の段差に走っている配管を足場にして、そちらに降りていく。
そうしたら次は?その向こうには再び工事用の足場。そして今度はシートのかかっていないそこから1m未満の距離で隣の建物の屋上だ。
「こっち!」
シロが率先してそこを越えていく。
工事用の足場で踏み切って向こうの建物へ飛び移り、その勢いを殺さずに屋上に設置された室外機の群れに体を隠して、左手側にある別の建物=今いるここの屋上からの攻撃に備える。
俺たちも同じように動いて彼女のそばに渡り、同様に隠れる――ただし、隠れる場所はこの室外機と、その少し先にある大きな看板の陰に分かれた。全員が隠れる幅は室外機側に十分にあったのだが。
「少し待ってください」
看板の方に向かったクロがその場に伏せ、そのタイルと看板の足場との隙間からライフルを構えた――理由はこれか。
理解と、その直後に一発の銃声。そして動き出す俺たち。
「タンゴダウン」
障害を排除したクロが起き上がり、そこに加わった。
看板の向こうに見える建物の屋上、腰ぐらいの高さの手すりに寄りかかるようにして崩れ落ちていく人影が一つ見えていた。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




