かの地へ22
先程のグレネードで数機破壊された室外機の列を迂回して建屋の前へ。
砕けた窓の向こう、奥に続く廊下に、右横の部屋から飛び出した一体が現れる。
「ッ!!」
まるでキルハウスそのもの。
咄嗟に現れたそちらに銃撃を加えつつ足を動かし続ける。
移動の振動と銃撃のリコイルとが合わさって一歩、一発ずつ視界が揺れ動いてはいるが、それでも距離が近い。撃ち込んだ三発のうちの一発が命中し、そこに追加で更に二発。上に跳ねようとする銃身を意識して下に向けながら追撃。
崩れ落ちたそいつを確認しながら建屋の中へ。枠だけの窓を飛び越えようとも思ったが、牙のように並んでいる無数の破片を見て思い留まった。腰ぐらいの高さのあるその窓を乗り越えるのに、そこに手をつかないでいくのは不可能だ。
敵が飛び出してきたまま開いている扉の隙間から滑り込み、足を止めずに奥へと進んでいく。
入ってすぐの窓のある部分はすぐに奥に折れていて、今しがた倒した公社兵がその真ん中辺りで事切れている。
つまり、ここからでは見えないが、その右横には部屋が一つあるという事。
一番奥、突き当りにある扉とそこと、二か所を探す必要がある。
俺がポイントマンに立ち、正面のそれに警戒しつつ移動。
右側の扉が見えたところでシロにハンドシグナル=そっちを頼む。
彼女に任せ、俺はその入り口から反対側に弧を描くようにして距離を取ってカッティングパイだけ行う。ここから見た限りでは何もない。
すぐにシロがその後に続く。同時に背後で銃声。
「ドローンが多い!」
クロの叫び声。二人とも建屋に到着しているが、ドローンは諦めずに追いかけてきているようだ。
「グロウラーだ!パルスを!!」
角田さんが叫ぶ。
この対人用ドローンスウォーム兵器は、まさしくこういう状況のために造られたのだろう。二人がそれぞれの電磁パルス兵器で反撃しているが、それがどこまで持つかは分からない。
「クリア!」
せかされるようにシロが叫び、部屋から飛び出してくると、すぐに俺の横を通り抜ける。
彼女のその動きに合わせるように俺もその進行方向へ。時間がない。することは決まっている。なら一刻も早く。
「ブリーチ!!」
シロが叫びながら、施錠されていない突き当りの扉を渾身の蹴りで押し開ける。
その開けていく視界の先=待ち構えていた兵士たちと同じく待ち構えていた俺が鏡写しのように銃を向け合った。
スローモーション。扉を蹴り開けた瞬間に見えたのは三人。
部屋の真ん中に置かれた大きな作業用の机の奥に一人。扉のすぐ前に一人。その中間の、部屋の右側にもう一人。
全員こちらを向いていて、突入を予期していた。
一番近い扉近くの奴に咄嗟に照準して発砲。
だが、それでは他の二人の格好の的だ。
「ッ!!」
咄嗟の判断:撃ちながら突進する。
身を屈めつつ、2m程しかない最寄りの敵=今しがた撃った相手の懐へ。
腰を沈めて左肩からタックルするように飛び込みながら、突然の行動に一瞬だけ反応が遅れた部屋の右側の相手に銃撃を浴びせる。
頭のすぐ上をそいつの放った弾が掠めて行くのがなんとなく感じ取れ、そしてその時にはスローモーションに見えたほんの一瞬は終わっていた。
「クリア!」
「クリア!二人ともこっちへ!!」
奥の一人と、俺の場所からは見えていなかった、部屋の左側のもう一人に一発ずつ撃ち込んで処理したシロが振り返って叫ぶ。
しゃらくさいと思ったか、或いはパルス兵器のバッテリーが切れたのか、自身のプライマリーに切り替えて、畳んだバイポッドで取り回しつつドローンの相手をしながら角田さんが走ってくる。
そして彼に殿を任せたクロが先に部屋に飛び込んだ。
「アルファ2!やれ!」
それをどうして察知したか、角田さんは叫んでグロウラーの群れに背を向けてこちらへ駈け込んでくる。
「フラグアウト!」
その彼を出迎えるように――或いは節分の鬼役に豆をぶつけるように――クロの手から離れたフラググレネードが放物線を描き、その横をすり抜けた角田さんがこの部屋に飛び込んだのと同時に扉を閉める。
即座に聞こえてくる爆発音。扉に出来る無数の細かい穴と傷。
グロウラーの起動音はそれにかき消され、音が止んだ後にも聞こえない。
一撃で殲滅したという事はあり得ないだろうが、スウォームとしての運用は不可能なほどの損害を与えたのは事実だろう――多少の希望的観測も含めてだが。
「とりあえず助かったか」
一息ついてそう言いながら角田さんが俺たちを一瞥する。
「損害は?」
銃弾とグレネード以外には何もなし。
これだけ切羽詰まった状況で、我ながらよくやったものだ。
「よし。トーマ。そこのタラップから屋上に上がってくれ。ジャミング装置はそこだ。俺も行く」
彼が指さしたのは部屋の隅。建屋入り口側にあったのと同じぐらいの大きさの唯一の窓のすぐ横。天井にはめ込みのように備え付けられたハッチへと続くタラップだった。
「了解」
「シロとクロはここでそれを調べてCPに連絡してくれ」
そう言って机の上に置かれた“それ”を指し示す。
それはただのアタッシュケースだった。
いや、厳密に言えば違うのだが、そのガワに一番近いものを挙げるのならばそれしか思いつかない。
持ち手以外にもバンド二本が取り付けられており、恐らくリュックサックのように背負う事も出来るのだろう。
金属製と思われるそのケースの中にはいくつかの機械部品がびっしりと組み込まれていて、一度解体したら間違いなく元の場所には戻せないだろうと思われた。
「「了解」」
分担を決めて、覚悟を決める。
今外に出るという事は、つまり集まっているドローンの中に飛び出していくという事。
だが躊躇している時間はない。時間が空けば空くほどに敵は集まってくるだろう。機械も人間も他律生体も全て。
「アルファ6よりCP。ジャミング装置下側に到着。これよりジャミングを起動します」
「CP了解。エドに繋ぐ。彼の指示を受けてくれ」
それからシームレスに声が変わった。
「こちらエド。デバイスのカメラを使って、どういう状況か見ながら指示を出す。常に映像を送ってくれ」
「了解」
言われた通りデバイスを起動。今はタラップと壁が映っているはずだ。
「よし、見えている」
デバイスをホルダーにセットし、タラップを一番上まで登る。ハッチを開ければ、後は時間との勝負。
「……よし」
覚悟を決め、一息にその蓋を押し開けた。
その勢いで体を持ち上げ、穴から出る。
殺風景なアスファルトのその平地にそびえ立つ一本の鉄塔。
何もなければ景色はいいが、今はそんな事を言っている場合ではない。鉄塔に、その足元にある制御盤と思われるパネルに一目散。
「その白いのが制御盤だ。開けてくれ」
見立ては正しかったらしい。雨除けなのか、ちょっとした屋根――というかひさし――が設けられたブースの中に収められているそれを開く。中には無数のスイッチやら配線やら。
「どれをどうすればいい?」
「まず右上だ。一番でかい遮断機をオンにしろ」
右斜め上に視線を動かす。背後で連続する銃声。
「こっちは大丈夫だ。続けろ!」
それに混じる角田さんの声。それに覆いかぶさるような遮断機のスイッチが切り替わるガチンという音。
「オンにした。次は!?」
「制御盤の蓋を閉めろ。表面にダイヤルがついているはずだ」
また銃声。今度は数発跳弾する音。
「ダイヤルあったぞ!どうする!?」
「一番右まで回せ」
「回した!」
「ぐうぅっ!!糞が!!」
銃声、跳弾、そして叫び声。
思わず振り返ると、角田さんが尻をこすって移動しながら、ドローンを撃ち落としている。
その右足の膝から下は赤黒い血だまりに変わっていた。
「続けろ!トーマ!続けろ!!」
「……ッ!!!!」
思わず駆け寄りそうになるのをその声に押し戻される。
そうだ。今するべきはこっちだ。
「クソッ!次は!!」
「最後だ!全部のトグルスイッチをオンにして黄色いボタンを押せ!」
足元に着弾。
だが言われた通りに行動する。
「トーマ!!」
「スイッチよし!ボタン……これか!!」
叩きつける。低いうなりを上げる鉄塔。電流値を表すメーターが上昇していく。
それと同時に銃撃が止んだ。かしゃん、と乾いた音がそれに代わる。
「よし……!!」
踵を返す。自分のポンプを探すのももどかしく、盾になってくれた角田さんに駆け寄った。
右腕以外動かなくなった状態で空を睨んでいた彼の背中のポンプを引き抜くと、そのまま血だらけの左腕に突き立てた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




