かの地へ21
虐殺の現場から離れてコンクリートの廊下を進む。
この辺りが居住区なのか上のような歓楽街なのかは分からない。何しろただ殺風景なコンクリートの世界だけが延々と続いているのだから。
「CPよりアルファチーム。その奥の階段から上に登れる。カジノに展開中の部隊に警戒せよ」
「アルファ6了解」
まるで一緒にいるかのようなタイミングでの通信。ちょうどよく件の階段が見えてくるところだった。
忘れられたようなボロボロのそこを登っていく。壁には先程までの幼稚園の内壁同様に色々と描かれているが、こちらは対象年齢が割と高めというか、可愛げと安心感ゼロだ。まあ路地裏の落書きにそんなものを求める方に無理がある。
その階段を上って、先程までいたカジノの裏手に出る。連中と鉢合わせる危険もあったが、どうやらこちらまでは手が回っていないようだ。
展開中という事はまだ中にいるのだろう。裏口から出てこない内に急いで更に上へ。
屋上までそれを繰り返して、一切誰にも出会わなかった――幸運なのか、誘い込まれているのか。
「……いや」
ネガティブなイメージをかき消す。
ここで危険だからと言って立ち止まることはできない。敵地の真ん中で、その上向こうには土地勘がある。慎重に立ち止まることは進む事より危険な場合がある。
となれば、頭に留めつつも足をそれに合わせることはできない。待ち伏せされているかもしれない。危険に向かっているかもしれない。そう考えて、立ち止まる以外で最適な方法を採るしかない。
「ッ!?」
その瞬間、向かっている階段の終着点で銃声が連続した。
「今のって……」
クロが俺を見る。聞き間違いじゃないという事を念押しするように。
「ああ……」
銃声はそれっきりで、再び世界は沈黙に包まれた。
頭の中に先程の光景が蘇る。
「即応体制で行こう」
ポイントマンを引き受けていた角田さんがそう告げ、最後の踊り場を越える。
階段はそれから数段で終わる。
その先にあるのはペントハウスというべきか、屋上に出るための扉の前を一つの部屋として階段から扉を隔てるようにしてあった。
銃声がしたのはその扉の向こう側だ。
「……」
扉の前に展開。
施錠されていないそこを僅かに開けて、焼却場からのトンネルを出る際に用いたカメラを入れる。
「……敵影無し」
すぐにそう伝えてから、マキナが働いているのを感じる。
ここもさっきと同じだ。
扉を開き、その惨状を確認する。
「ひでえな……」
「そんな……小さい子まで……」
角田さんとシロが目の前の光景に漏らした言葉には共に哀れみとも嘆きともつかない感情があった。
老若男女という言葉通りの犠牲者たち。もしかしたら一世帯の大家族だったのかもしれない。
皆壁際に並ばせられて最期の時を迎えたのだろう。死体は外に通じる扉とは反対側の壁際に集まって隙間なく床を埋めていた。
疑問:一体こいつらが何をしたのか。
成人も多いが、老人や子供など、明らかに戦力ではない者達まで手にかけている。そうした城砦党の戦闘員ではない連中まで纏めて容赦なく殺しているのにはどういう理由があるのだろうか。
勿論スパイや少年兵のようなケースも考えられるのだが、こいつらがそうだったかは分からない。
だが、その可能性と同時にもう一つの可能性が頭をよぎる。
仮設:こいつらにしろ下の幼稚園の連中にしろ、何か公社にとって都合の悪いものを見てしまったか知ってしまった。
公社は城砦党と組んではいるが、その信頼関係がどの程度のものかは分からないし、ごく一般的な島民にまで軍事機密を見せるはずもない。
圧倒的な力を持つ公社と、あくまで地元住民や中小勢力の寄り合い所帯に過ぎない城砦党。力関係がどうなっているのかなど言われるまでもない。
公社にとって都合の悪いもの。
この先にあるジャミング装置?確かに重要物資だが、それを見られたからと言って即射殺とはあまりに極端だ。
では他に何か――最初に思いつくもの=島内に存在すると言われている大量破壊兵器。
「連中、一体何が目的で……」
そこまで頭の中で組み立ててから言葉を発する。
「もしかしてですけど……」
応じたのはクロ。その発言者同様、扉の外=屋上の状況を確認するため彼女が放った昆虫型ドローンの映像を覗き込みながら耳を傾ける。
「公社が城砦党から何か隠している、とか」
「やっぱりそう思う?」
「ええ。流石に公社でも理由もなく人を殺すとは思えませんし。……やっぱり警備兵がついていますね」
映像の中の扉の向こう。
扉を出てから更に数段の階段を上ってすぐ左手に伸びているその場所には、三名の公社兵が周囲を見渡している。
そしてその奥の建屋の屋根の上にはスナイパーが一人。
建屋の中はよく分からないが、まだ誰かいると考えておいた方がいいだろう。
同じようにのぞき込んでいた角田さんも同意見だったようだ。
「最低でも四人か……。連中の隠している何かがこの先にあるなら、もっといてもおかしくないだろう」
「それと、外に出ればすぐに巡回中のドローンが向かってくることが考えられます。一気に押し上げて制圧するより他になさそうですね」
シロが付け足し、俺たちは画面を見ながらそれぞれの分担を決める。
それから装備品の確認。ここから先は一秒でも早く進めばそれだけ生き残る確率が上がる。
「アルファ6よりCPへ。屋上に通じるペントハウスに到着。これより建屋制圧及びジャミング装置奪取を開始します」
「CP了解。無人兵器の襲撃が予想される。速やかに行え」
その警告を改めて頭に刻む。
「全員用意はできたな」
角田さんが見渡し、俺たちが頷く。
「よし……10秒前」
彼が深呼吸を一度それからカウントダウン。
「……5秒前、4、3、2、1、ゴー!」
勢いよく扉が開かれ、打ち合わせ通りに俺たちは駆け出す。
先頭をクロが進み、階段からぎりぎりで視線と銃身が出るところで急制動。左側=進行方向に向かって、屋上のコンクリートに銃を委託する。
その後ろを通り過ぎる瞬間に銃声。ゴールの屋上に陣取って伏せていたスナイパーが、自身のライフルに身を任せるようにしてうつ伏せに崩れ落ちる。
「ッ!」
それを合図にして飛び出して進行方向に向いた正面にいた公社兵がこちらを見るより前に、そいつの頭目掛けてセミオートで叩き込む。
その俺の横を追い抜いたシロがもう一人の公社兵を撃つ。
エアコンの室外機の間に見えていたそいつがひっくり返るのと時を同じくして残った最後の一人をクロの横に構えていた角田さんが仕留めた。
屋上の敵は殲滅。ここまでは予定通り。
「行け!行け!」
角田さんの指示に合わせて俺とシロが前衛として進む。
「建屋内に敵!窓の前!」
叫びながらそのターゲットを撃つ。移動しながらだと照準が安定しないが、それでも牽制程度にはなる。
「建屋前室外機の後ろ!」
同じように声を上げながらシロが榴弾を発射。
山なりの軌道を描いたそれが室外機の向こうにいた敵兵を――室外機の配管ごと――吹き飛ばす。
それに驚いて動きを止めた、建屋の窓の奥に構えていたもう一人に狙いを定めて今度こそ命中させる。
ガラスが砕け、奴がその向こうに仰向けに消えていく。
その間も俺たちは足を止めずに進み続ける。手前側に横一列に並んだ室外機を迂回し、何らかの用途でその奥に走っている太いパイプを越える。
その時背後で聞こえた叫び声。
「後方に無人機多数!」
「こっちに構わず進め!建屋を落として中へ入る!!」
二人の言葉、そして複数のエンジン音。
思わず足を止めて確認したくなるそれを振り切って、俺たちは更に足を速めた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




