かの地へ20
一難去ってまた一難とはこの事か。
前からも後ろからも敵が迫り、こちらは部屋の真ん中でその一報を受ける。
つまりこういう事だ――このままここにいれば挟み撃ち。しかし進むも退くも、大してそれと違いはない。
「どうする?」
角田さんがこちらを見た。
俺は辺りを見回して状況を把握。
シャンデリアの周囲は流石に滅茶苦茶に壊れているが、それ以外=行き先と来た道の二つの扉の周囲はそこまでではない。
そして入り口の方には先程の戦闘で壊されていないスロットマシンがまだ大量に残されている。これらは一応床に設置されてはいるが、それほどしっかりと固定されている訳ではないようで、他の筐体と連結されて島を形成している訳ではない個体もいくつか存在する。
そして他の諸々――什器やら器材やら調度品やらもいくつか見繕う事は出来る。
「入り口の方が近い。あっちをスロットやらなんやらで塞いで、前方の敵を迎え撃ちましょう」
正直どこまでそれが持つかは分からない。
だが、同時に二方向から挟撃されるよりは、片方を片付けてからもう片方の相手をできればはるかに生き残る確率は上がるだろう。二対一では勝てなくとも、一対一の二回戦ならまだ希望はある。
「あの……」
そこでシロが、俺たちの背後=壊滅したラウンジを指さして言った。
「そこから下に出られませんか?」
階段の部分とその周辺が無くなり、下に崩落したラウンジの跡地。カグヤの爆発の威力を物語るそこからは、瓦礫となった元ラウンジが積み重なった下の階が見えている。
下の階には音も声もない。そしてここで留まっている時間もない。
「アルファ6よりCP。現在位置の下の階の情報はありますか?」
「こちらCP。下の階は屋内庭園だったようだ。こちらには誰かが向かっているという情報はない」
十分な情報。
誰が何を言うでもなく、採用されたのはシロ案だった。
その発案者が先頭に立って瓦礫を降りていく。
流石にスムーズなスロープにはなっていないが、飛び降りても怪我をするような高さではない。
ラウンジの跡から屋内庭園の瓦礫へ。最後の一段を飛び降りて侵入したシロに続く。
「これは……庭園と言うか公園?」
先行した彼女はそう言った。俺も同感だった。
上のカジノの半分ぐらいのスペースの、人工芝で覆われたそこには、いくつかのアスレチックのような遊具が置かれ、遊具とオブジェの中間みたいな、何をどうするのが正解なのかよく分からないものも設置されていた。
それが上のカジノの半分ぐらいの面積で、残りはいくつかの小部屋に分かれているようだ。
一体ここがどういう場所だったのかは分からない。
カジノに訪れた観光客の気分転換のために設けられたのか、或いはここに暮らす人々の憩いの場だったのか。どちらにせよ、俺たちみたいのは場違いな空間であるというのだけは確かだ。
人工芝の中を進み、この公園とそれ以外を繋ぐ廊下の奥に本来の進行方向に位置する扉を見つける。ちょうど上の階の、本来俺たちが目指していた扉の真下に位置するそこは、何に使われていたのか分からないいくつかの小部屋の間を通っていった突き当りだった。
「こっちか」
「慎重に……」
シロからポイントマンを交代して廊下を進む。
ライフルのサイトを覗きこまず、やや左斜めに傾斜させて構える。
恐らくベビーカーを押して行き来できるようにという事だろう、それなりの広さがある廊下だが、それでも銃撃戦をするには狭い上に飛び出すことができる=隠れて待ち伏せできるスペースが左右にある。
そうやって飛び出してきた相手に咄嗟に反応するのに、遠くの相手にそうするようにサイトを覗いて狙いを定める必要もその時間もない。目の前から銃のサイトをどけて視界を広くし、視線と同じ方向に銃口を向けておいて、振り向いた瞬間に引き金を引く方が生存性は上がる。どの道、この距離で人間大の的ならどこかに当たる。
「……」
ゆっくり、しかし油断せずに左右を確認しつつ足を進めていく。
この左右の部屋には恐らくは保育園か託児所か、そういった類の施設が入っていたのだろうという事をクリアリングしながら悟った。
部屋の中には幼児用のベッドや小さなテーブルが並び、壁にはファンシーな飾り付けがなされている。
住民用の施設か、或いは観光客用の託児所か――こんな島に小さな子供連れで訪れる人間はそう多いとは思えないが。
「……ッ!!」
そんな平和な認識は扉に最も近い部屋の前で吹き飛んだ。
扉に一番近い右側の部屋。隣近所と同じような幼稚園のようなそこには既に先客がいた。
と言って、その対象年齢の人物ではない。そんな者は一人もいない。
「どういう事だ……?」
その光景に思わず口走った言葉は、後続全員に聞こえ、そして彼等もまたそれぞれの目でそれを見ることとなった。
「ひでえな……」
角田さんがそう漏らす。シロもクロも同様だ。
だがそこに釘付けになっている訳にもいかない。実際、進行方向右側の部屋に何かがあるという事は分かっても、それが差し迫った危機ではないと判断した時点で、他の部屋のクリアリングを優先している。
それが済み、脅威がない事を確かめてから件の部屋を改めて確認する。
部屋の中には地元住民だろう連中が並んでいた。椅子を部屋の奥側だけの車座にして、そこに皆座っている。
部屋の本来の用途から、なんとなく椅子取りゲームを彷彿とさせる配置だが、そんなものでは断じてない。
彼等は皆死んでいた。
部屋の中には、彼等のものと思われる血が、壁や床が元々どんな色だったのかも分からないぐらいにまき散らされていた。
恐らく銃撃されたのだ。状況から見て恐らく処刑。
「これって……」
クロが並べられたその死者たちから目を離さずに漏らすと、シロがそれを受ける。
「城砦党の連中……けど、どうして?」
それは誰にも分からなかった。
仲間割れなのだろうという事だけは何となく理解できる。だがやったのが誰か、つまり、城砦党内部での、所謂内ゲバなのか、或いは公社がやったのかは分からない。
「これは……」
足元に転がっていた薬莢を拾い上げる。
念のため自分のマガジンポーチから一本引き抜き、その頭に出ているものと並べてみる。
やったのは――城砦党の連中が武器の提供を受けているか、何者かが公社に成りすまそうとしているのでなければ――公社部隊だ。ぴたりと一致する6.5mm×50弾の薬莢がその事を示していた。
だが、何故?その部分は分からないまま、俺たちはそこを離れるしかなかった。頭上からは既に複数の声が、恐らく先程飛び込んできた穴から漏れ聞こえてきていた。
奥の扉の左右に展開。施錠されていないそこをそっと開け、向こうを確認してから滑り出す。
扉の向こうは無機質なコンクリートの打ちっぱなしとむき出しの配管。
その殺風景な世界に再び足を踏み入れながら、角田さんが報告するのを聞いていた。
「アルファ6よりCP。カジノの下の階へ移動。屋内庭園を通過。公園内にて処刑されたと思われる城砦党の死体を複数確認しました。状況から恐らく公社によるものと思われます」
それが何を意味するのかは俺たちには分からない。
少なくとも、奴らが一枚岩でないという事実がプラスに働くことを祈るばかりだ。
(つづく)
投稿大変遅くなりまして申し訳ございません。
今日も短め
続きは明日に




