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かの地へ19

 体の状態を確認しつつ、起き上がろうとして激痛が走る。

 「がっ……!?」

 咄嗟に吐き出した声も言葉にならない程の痛み。

 そこで初めて、身体中に無数のガラスや金属が突き刺さっているのを目にした。

 爆発の衝撃は周囲のあらゆるものを吹き飛ばし、シャンデリアの残骸を更に細かく砕いてフラググレネードのような役割を果たしていた。

 本物の手榴弾のような威力がなかったのは、単純に距離があったというだけの理由だろう。


 「ぐ……お、お……」

 動く度に痛むのを我慢して手の届く範囲の飛来物を体から除去。

 幸い、上から纏っていたチェストリグもあってか、プレートキャリアには損害がない。トラウマプレートの挿入部は無論だが、それ以外にも多少傷がついた以外に大したダメージがなくて助かった。

 お陰で胴体にはほとんど傷を負っておらず、図らずもこうした防具の有効性を証明するような形となった。

 痛覚コントロールが効きはじめたところでポンプを取り出し、首筋に注入してから起き上がって目に見える大小の凶器を体から取り除いていく。


 「トーマ!無事……じゃなさそうだが、生きてはいるな」

 「……大体そんなところです」

 声に振り向きながら起き上がる。

 傷は刺さっていたものを抜き取った端から塞がっていき、ただ衣服に細かい傷が残るのみとなった。

 どうやら角田さんも同様な様子で、それよし少し傷の大きかったシロの手当てを行っているところだった。

 「クロは……」

 そのシロの言葉に彼女の方を見る。正確には彼女のいた方を。

 爆発前に彼女がいた辺り。シャンデリアの向こう側に、ビニール傘の支柱のような大きさのパイプが地面に対してほぼ垂直に突き立っていた。


 「クロ!!」

 そのパイプが小さく動いたことで、正体を直感する。

 潰された公社兵の姿すらも見えなくなっているガラスと金属の塊を越えてパイプの根元へ。

 思わず胃の内容物が逆流しそうになるのを何とか抑えて、俺はそこに倒れているクロの下に駆け寄った。


 「しっかりしろ。今抜いてやるから」

 パイプはしっかりと彼女を貫通していた。

 恐らく痛覚コントロールが効いているのだろう、意識を失わないでいるが、左足の太ももをピン留めされている状況での痛みの抑制はあまり信頼できないものだというのは、歪んだ彼女の表情と、栓になっているパイプとの接触面から溢れている黒い血液が証明していた。


 「ちょっとだけ我慢してくれ」

 「はっ……い……」

 空気の漏れるような音を立てて答え、ニューメキシコの集落の装備から持ってきたのだろうシュマグを丸めて口に加える=何が起きるかは覚悟の上。

 なら手早く済ませてやらねばならない。パイプの先端を掴む、その僅かな衝撃も、先端に伝われば彼女の肉をほじくり返す動きになってしまう。だがそれで躊躇することはできない。

 「いくぞっ!」

 彼女の脛の辺りにまたがるようにして腰を下ろし、中ほどと先端とを掴んで一思いにパイプを引き抜いた。


 嫌な音。

 そしてクロの、シュマグに深々と突き立てられた上下の歯の間から漏れる咆哮のような音。

 べっとりと赤黒く染まったパイプを投げ捨てると、太ももに出来た穴から一瞬、噴水のように血が噴き出してすぐに治まった。

 悶絶し、ぐったりとしたクロにポンプを注入。

 ある意味、痛覚コントロールが裏目に出た結果だろうか。もし何もなければ一瞬で失神する程の激痛だっただろう。

 ひゅう、ひゅうと喉が音を立て、その下で、トラウマプレートに覆われた胸が上下に動いている。


 「立てるか?」

 その状態から何とか回復したのか、まだ涙の残っている二つの目が俺を見上げていた。

 声はまだ出せないようだが、それでも体の方は何とか立ち上がれるぐらいになっているようだ。俺の腕を掴むと、自力で上体を起こして両方の足を畳んだ。

 「ありがとうございます……」

 肩を貸して立たせ、それから角田さん達の方に戻る頃には既に自力で歩けるようになっていた。


 「クロ……!」

 自身も手当てを終えたばかりだろうシロが、彼女の状態を見て息をのんだ。

 シロ自身も全身を斬られたのだろうという事は、そのボロボロの衣服や塞がった傷の上で乾いている血でなんとなく分かるが、それでもクロに比べれば軽傷の部類だろう。

 ――そして彼女らからすれば、俺たちなどほぼ無傷に近かった。


 お互いの傷を見てショックを受けたりいたわりあったりしている二人と、爆発の威力を表す陥没したラウンジを見ている幸運な二人。

 だがそれだけではいられない。拾い上げた己の装備品を再度確認する。

 武器に関しては動作に支障は無さそうだ。他の装備も、細かい傷が残ってはいるが、機能に問題はない。

 デバイスは液晶に蜘蛛の巣が造られていて、電源も落ちてしまっているが復旧はできるようだ。以前信頼性に問題があるとか言われていたが、今回は当たりを引いたのかもしれない。

 再度表示された画面にその感想を抱いたのと同時に聞こえてきたインカムの声――幸いこちらも故障していない。

 「CPよりオールアルファ!聞こえているか!オールアルファ!応答を!」

 前言撤回。ダウンしていたのが再起動しただけのようだ。自己診断と再起動機能のあるもので助かった。


 「こちらアルファ6」

 角田さんが答える。

 「CPよりアルファ6。そちらとの通信が途絶えていたが無事か!?」

 「負傷者は複数いるものの全員生存、作戦の遂行に支障はありません。建物内のカジノで敵部隊と交戦し、敵のうち一名が自爆。そのダメージを受けました。現在は回復しています」

 状況を伝えると、無言のはずのインカムの向こうにため息のようなものが入ったのは、俺の空耳だったのか。


 だが、そんな呑気な感想は次にやってきた言葉にすぐにかき消された。

 「了解したアルファ6。だが悪い知らせだ。君たちの後方と、進行方向からそれぞれ軽歩兵が複数接近している。そのままそこにいれば挟撃される。すぐに移動しろ」


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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