かの地へ18
シンデレラが崩れ落ちていく。盾にしていたケプヒェンをその上に重なるように蹴り飛ばし、念押しにそれぞれ二発ずつ撃ち込んでおく。すぐに振り向いて他の敵にも対応しなければならないが、その間に背中をやられたらたまったものではない。
仕留め、武器をライフルに切り替えてからラウンジの方へ。そこで初めて、バイオドールが俺の相手にした三体以外にも存在したことを知った。
「このっ!」
窓から突入した公社部隊からは見えない位置にいるクロの動きを止めるため、ラウンジの近くに陣取って銃撃を加えている三体。ケプヒェンが銃撃を加え、反撃はカグヤが受け止める。そして相手が障害物に隠れたとしてもシンデレラが擲弾筒であぶり出していく。
「……」
ならその連携を断つ。
クロの反撃にカグヤは耐えねばならず、その間にこちらから一発撃ち込んで先手を取れる。
「ちぃっ!!」
だが、流石にそこまで簡単ではない。
体を隠していたスロットマシンが音を立てて砕け、パーツの破片を辺りにまき散らす。ラウンジの連中がこちらに気づき、その事にバイオドールたちも気づく。
角田さんとシロをカウンター内に封じ込めている状況故か、ラウンジ連中とバイオドールたちは前進してくる。
散開している俺とクロを仕留めるために、弾幕で圧倒しながら距離を詰めていく。
「くっ……」
このままではまずい。
三方向からの攻撃で連中の侵攻を止める事が出来ればよいのだが、現状あまりに数的不利が大きい。包囲殲滅する前にこちらが各個撃破されてしまう。
だが、それを理解しながら、俺は崩れかけたスロットマシンに体を委託して射撃する。
ひゅんひゅん音を立てて顔のすぐ横を銃弾が掠めて行く中で、その飛んできた根元に向かってなんとか反撃を加えていく。
数的不利であることは明らか。このままでは殲滅されるのも明らか。だが、それで諦めていれば先延ばしに出来るそれを即時に受け入れることになるのもまた明らか。
「このっ……」
公社兵の一体がドットサイトの光点の前を横切り、反射的に俺の指が動く。
発射したのは二発。命中したのは恐らく一発。足を撃たれたそいつが体勢を崩して転がり、それからすぐに独力で立ち上がる。
命中したのは脚部の液体装甲ブロックだ。衝撃は加えられても、行動不能にさせられるレベルではない。
「うおっ!?」
そしてその二発の間に飛んできたのは2ダースほどの反撃。余りにも分が悪すぎる。
溜まらず頭を下げ、それから腰のグレネードポーチへ。確実にダメージを与えられるのはこれだ。
「……ッ」
ちらりと頭を出して確認。
前進してきた連中は観葉植物やコイン発行機を盾にしてクロに対処しつつ、カグヤを先頭にした数体が俺や角田さん達の方へと前進してくる。
やるのはまず近づく方からか――そう思って、フラググレネードに手をかけた瞬間、向かってくる連中のうち一体か二体が上を見上げた。
「ッッ!!」
そしてその見上げた顔に、支えを失った巨大なシャンデリアが叩きつけられた。
銃声にも爆発音にも全く劣らない、凄まじい音が辺りを満たした。
そしてその鼓膜を切り裂くような破砕音の中でも、インカムに聞こえるクロの声。
「タンゴダウン」
反射的にライフルに持ち替えて、クロを撃っていた公社兵の後頭部に狙って引き金を引く。グレネードは中止。爆発でガラスが吹き飛べばクロにも被害が及ぶ可能性がある。
一発、二発――流石に防弾仕様でも、そう何発も耐えられるものではない。
三発目が当たったのは恐らく首の下、下手したらボディーアーマーの背中側だったかもしれない。
だがそれでも、奴はもんどりをうって倒れ込んだ。
そしてその上を描く一筋のアーチ。認識すると同時にラウンジが爆風に包まれる。
「っし!」
俺がやった訳ではない。
だが、形勢が変わったのは事実だ。
勢いを吹き返した敵=俺たちの真ん中で立ち尽くしている公社兵とケプヒェンやシンデレラに銃弾を集中。
「タンゴダウン」
ようやく、俺たちは難を逃れた。
立ち上がっている敵がいなくなってそう判断した時、俺の口から漏れたのは無意識の深いため息だった。
「……何とかなったな」
静かになったホールで、俺たちは久しぶりにお互いの顔を見た。どうやら全員無事だ。
「落ちたシャンデリア前に集合」
角田さんの声に体を起こし、指示に従う。
その間、他の三人もそうしているように、着剣して付近の死体が本当に死体であるのかを確認。
幸い間違いは一体もなかった。
「損害は」
集合した俺たちに尋ねた角田さんとシロは何もなし。あれだけ火力を集中されてよく無事なものだ。
「負傷し、ポンプを一本使用。現在は全快」
俺は正直に申告した。ポンプも弾も、今後は必要に応じて連中から分捕る事になるかもしれない。
「こちらも一本使用しました。現在は全快」
クロも同じ状況だったようだ。
一発被弾した上で――或いはその前かもしれないが――体をさらけ出して狙撃できるのだから大したものだ。特にあの一瞬、自分が狙われている状況でシャンデリアを落として敵を潰すなどと。
「……ん」
そんな事を考えながら、改めてそのシャンデリアの“戦果”を確認する。見えている足は四本。いずれも公社兵のもの。
今は砕け散って、辺りの床をキラキラ光らせているが、落下した時には全て一つになっていたのだ。その重量の塊と、それに纏わりついているガラスが降り注いだとしたら。多少のヘルメットやボディーアーマーなど役に立つまい。
恐らく重量が衝撃となって頭蓋骨を粉砕し、無数の細かいガラス片がアーマーの隙間から素肌を切り刻んでいる。
――視界の隅に動く者を認めたのは、まさにそんな足を見た瞬間だった。
「ッ!!」
まるでゾンビだった――容姿も動き方も。
飛び散ったガラス片によるものだろう、頭から血を流し、何らかのパーツだろう金属片がめり込んだ足を引きずりながら、それでも妙なスピードでこちらに向かってくるそいつに銃を向ける。
「この……ッ」
――が、間に合わない。
かつてこいつらと戦った記憶が、そして何よりボロボロになったセーラー服の下に見えている腹巻のようなものが、直感的にそれを告げている。
最後の生き残り=カグヤが、盾も拳銃も持たず、足を負傷したが故の奇妙なフォームでこちらに突進してくる。
手にはあらゆる武器の代わりにスイッチのようなもの。
「クソッ!!!」
抱き着こうとするそいつを、渾身の力で蹴り返す。
ここで殺すのはまずい。かつて奴が、正確にはその同型機が何をしたのか、そして手の中のスイッチと腹に巻き付けられた爆薬が何を意味するのか、それは誰の目にも明らかだった。
「離れろ!!」
叫び、実践しながら俺は銃を再度向ける。
奴は踏ん張りも聞かずにすっ飛んで仰向けに倒れ、それでもまだ立ち上がろうとしている。どうしても俺たちを巻き込むつもりだ。
「っの野郎!!」
その姿が、どうしてか非常に腹立たしくて、俺は叫びながら奴の頭に狙いを定めた。
立ち上がりかけた奴が、再度大きく後ろに飛ぶ。
ラウンジの階段の上に持たれるようにして仰向けに倒れ込む。
そしてその瞬間、奴の右手が痙攣するように動いていた。
「なっ――」
「退避!!」
角田さんの叫び声。直後の閃光。
爆音は聞こえなかった。その瞬間、叩きつけられる衝撃で、俺は一瞬だが意識を失っていた。
「う……」
その事に気づき、体の触れている硬いものが床であると理解するまで少し時間を要した。
「ぐうぅ!!?」
そして爆発で砕かれたシャンデリアのガラスが無数の刃となって、プレートキャリアで覆われていない部位を切り刻んでいたことも。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




