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かの地へ17

 周囲に警戒を張り巡らせスロットコーナーを抜ける。

 入口のギリシャ彫刻の辺りから数段下に下がる形になるこのホールの半分ほどを占めているのがこのスロットコーナーで、数台ごとに一つの纏まりになって島を形成し、その島の間を通り抜けられるようになっている。

 ただのパチンコ屋のそれに似ているが、カジノという場所はそういうものなのか、或いはただ単に広い床面積を利用してか、よりスペースがゆったりと取られているように感じる。

 天井には一定間隔で垂れ下がっているシャンデリアが、それぞれのエリアの境界線になっているようだ。


 スロットエリアの終わりにあるそれの下を通り抜けてポーカーか何かの台が並ぶエリアに入ろうとしたその時、ラウンジの側を見ていた俺の目に、窓の外にはらり落ちてきた二本の線が目についた。

 「ッ!!敵だ!窓から入ってくる!!」

 その二本のワイヤーが目についた瞬間、反射的に口を突いた警告。

 それがただの考え過ぎではないという事を、直後現れた二つの影が証明した。


 「散開!!」

 角田さんが叫び、全員が弾かれたようにそれに従い、そして同時にラウンジのガラスが砕かれて、無数の銃弾がその直前まで俺たちがいた辺りに集中した。

 「くぅっ!!」

 俺は今来た道に尻もちをつくように飛び下がり、一番近くのスロットマシンの陰に飛び込んで回避し、その動作の勢いが移動距離に代わりきったところでスロットマシンから顔を出して確認。

 銃撃で造った細かいひびや穴に体ごと飛び込むことで突入してきた敵部隊は、このホールより一段高くなっているラウンジの、その調度品の類=ソファーやらサイドチェストやらテーブルやらを障害物として利用しながら、こちらに銃撃を加えてくる。


 連中の装備=いくつもの液体装甲封入ブロックを鱗のように貼り付けたボディーアーマーにフルフェイスのヘルメット。

 そうした、ソファーやテーブルでの即席バリケードなど必要なさそうな重武装の兵士たちが、最初の二人の後から何人も入り込んできて、ラウンジを即席の陣地に仕上げている。


 「クソッ!!」

 隠れているスロットマシンの頭の辺りが音を立ててパーツを吹き飛ばされ、こっちに狙いがつけられているのに気づいた。

 毒づきながら撃ち返すが、あの装甲にどこまで効果があるのかは分からない。

 他の三人も撃ち返しているが、効果のほどは同じだ。着弾した瞬間だけ頭を下げさせるぐらいで、とても数が減っているようには見えない。


 何か手はないか――頭では考えるが、銃弾が通るまで撃つ以外には何も思いつかない。

 手榴弾は――いや、だめだ。ここからでは距離がありすぎる。

 「シロは……」

 そこで彼女と角田さんの隠れた、ラウンジとは反対側の壁沿いに設けられているカウンターに目を向けるが、そこも絶望的だった。

 連中の正面にあるという点からか、常に銃撃に晒されているそこは、穴が開きすぎて崩れ落ちないのが不思議な有様だった。

 二人も時折反撃を行っているものの、銃身だけ出しての盲撃ちがやっとで、グレネードランチャーの狙いを定めているような余裕は全くなさそうだ。


 「フラッシュバン!!」

 それを確認した瞬間、俺とは反対側=カジノの奥側に飛んでいたクロが叫び、その意味を理解するより速く視界が光に、耳が炸裂音に潰される。

 「!!?」

 連中が投げたのだ。クロがどうしてそれを察知したのかは分からないが。


 「ぐっ!!?」

 そしてその光と音で一瞬フリーズした俺の左肩に熱い激痛が駆け抜け、思わずその場に座り込んだ。

 「うぐっ……う……」

 反射的に抑えた右手に湿った生温い感触。

 更なる被弾を警戒してスロットマシンの幅ギリギリに丸まって傷を確認。

 「抜けた……か……」

 BMSが即座に診断を行い、弾が体内に残っていないことを悟る。

 不幸中の幸いという奴だ。もし残っていたら、とりあえず今はポンプを打った後で改めてリムーバーを使い、弾をほじくり出さなければならない。


 被弾していない右腕でポーチからポンプを一つ引き抜く――途中でその動作を中断。

 「ちぃっ!!」

 痛みをこらえ、這うようにして体を動かし、公社部隊からもう一つ離れた、壁側の島の後ろへ飛び込んで転がる。

 直後そこに撃ち込まれる銃弾。ラウンジからは見えないはずの、俺がそれまで隠れていた床にいくつも穴が開く。


 「バイオドールか……!」

 撃たれた方向=入り口側の階段上で陣取っているのは盾を持った少女。

 その盾の横にある切り欠きから向けられた拳銃が、俺を狙っていたのだろう。

 そしてその後ろ、グレーのカーディガンと紺色のスカートの、赤いロングヘアの少女が、学生鞄から取り出されたMP7を構えながら盾の少女と共に前進してくる。

 硫黄島名物バイオドール部隊。

 バイオドール=少女型他律生体はこの島では性的サービスを提供する大事な労働力だが、それと同時にこうした暗殺部隊の構成員でもあった。


 カグヤ=盾を持った、黒い三つ編みにセーラー服の個体の片方が前進。彼女に防御を任せてその背後にMP7を持った赤毛=ケプヒェンが続く。

 同じものを見つけたのだろうクロの声がインカムに響き、同時にカグヤの盾が銃弾を弾く。


 「入り口側から敵の増援!バイオドール複数!」

 その声に反応した訳ではないのだろうが、盾の後ろでケプヒェンが、クロの方に向かって4.6mm弾をばら撒く。

 ――いや、ばら撒くと呼ぶには銃声が続かない。

 フルオートで数発発射しては修正して更に数発。相手がどこにいるのか分かっていて、確実に当てるためにやる撃ち方。

 「く……」

 マキナの痛覚コントロールが効いてきて、左腕の痛みが薄れる。

 大急ぎでポンプを打つと、俺は奴らが前進するのを待つ――空のポンプからナイフに持ち替えつつ。

 幸い、連中は俺が負傷していることを知っていたし、クロの攻撃を盾に受けてより脅威度が高い敵がいる事を悟った。

 連中のCOSはどうやら、その場合より脅威の高い敵を優先するように設定されているようだ。


 「アルファ2。マシンガンの奴をこちらでやる」

 その隙を逃す手はない。床を転がって奴の真横から飛び出せる位置に移動しつつ伝え、直後にクロが返答。

 「了解。盾は任せて」

 ちらりと彼女の方を見る。銃撃の中で、そっとプレートキャリアの腹を撫でる動作が見え、直後自信を狙って飛んでくるものを一切忘れたかのようにすっと銃を構えた。

 「恐ろしいな……」

 果たしてケプヒェンがそれに気づき、自身らを狙う相手に応戦しようとした瞬間、盾から僅かに露出したカグヤの頭が大きくのけ反った。


 「しっ!」

 それを合図に飛び掛かる。と言っても先程までより小さい目の前のスロットマシンの大きさとラウンジ側からも撃たれているという状況から立ち上がって飛び掛かるには少し恐ろしい。

 故に体勢を低く、低空タックルのように突進する。一瞬反応が遅れたケプヒェンの懐――というか足元に転がり込み、飛び起きるようにして逆手に持ったナイフで股間を切り上げた。

 同時に奴らの後方、入り口の方から突っこんでくる影がもう一つ。確認せずともやることは決まっている。

 大腿動脈を寸断され、一瞬動きを止めて体が浮き上がるぐらいの勢いで床に血を噴射しているケプヒェンに起き上がりつつ密着し、銃を持っていた方の腕を極めて盾にすること。


 その肉盾を、体格差を利用して力づくで旋回。突入してきた銀のショートヘアの個体=シンデレラが振り下ろさんとしているマチェットに叩きつける。

 「ッ!!」

 もし他律生体に感情があるのなら、その時の奴は何を感じていたのだろう。

 隙を突いて突進した自らの攻撃が失敗した驚きか、その攻撃で――放っておいてももう助からないだろうが――味方に刃を突き立ててしまったショックか。

 どちらでもいい。重要ではない。


 「しゃっ!」

 狙った通りに斬撃を止め、肉体に食い込んだことで攻撃が止まったシンデレラ=目の前で無防備に突っ立ている敵に、右のレッグホルスターからセカンダリを抜くと、外れるはずのない距離から立て続けに四発叩き込む。

 「……ッ!!」

 自分を狙う銃口に、マチェットを捨てて飛び下がろうとしたその標的を、四発の銃弾はあっさり追いついて貫いた。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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