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かの地へ16

 クリアリングを終え、その歓楽街へと繰り出していく。

 その土地柄に反してけばけばしいネオン看板も今では光が消え、当然ながら人通りも全くなく、なんとなく奇妙な印象を受ける。

 そこで間違いなく人が生活していて、それぞれの店が営業していただろうに、今はまるで町の模型というか、映画のセットの中のような、作り物臭ささえ感じてしまう。


 「CPよりアルファ6」

 だからだろうか、全員のインカムに聞こえたその声は妙に浮いて聞こえた。

 そしてその声に角田さんが警戒を維持しながら答える。

 「こちらアルファ6」

 「そちらの信号を確認した。建物の周辺に敵性ドローンが複数展開しているが何かあったのか」

 やはり衛星ハッキングだろうか、建物の周囲の状況も分かっているようだが、肝心の理由までは見ていないらしい。

 「移動中に敵性ドローンに発見され、建物に逃げ込んだものの追跡は諦めていないようです」

 「了解した。対策を検討する」

 今はなんとかなっているが、流石にこのままという訳にもいかないだろう。

 あのドローンが他の部隊に俺たちの居場所を伝えている可能性は高いし、なにより仮にここを切り抜けても、駐屯地までは地上を移動する時間がない訳ではない。そして建物の出口を塞がれてしまえば、嫌でも連中の包囲網に突っ込んでいくことになる。


 今は何とかしのいでいるが、根本的な解決が必要なのは明らかだった。


 「CPよりアルファチーム。その建物の屋上に守備隊の設置したジャミング装置がある。元々は三大国軍の攻撃に備えたものだったが、設定を変更すれば連中の無人兵器にも効果を及ぼす」

 デバイスに送られてくる画像:今いる建物の衛星写真。その屋上の一角がズームアップされ、屋上に増築された建屋の屋根にそびえ立つ鉄塔が赤く縁どられる。


 「アルファ6了解。つまりこれをいじればドローンを無効化できる?」

 「そういう事だ。建屋内の管制パネルに到着したらデバイスで映像を送ってくれ。こちらから指示を出す。問題は……建屋に入るには屋上に出るしかないという事だ」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。ドローンの攻撃を避けるためにドローンの攻撃に晒されなければならない。


 「一番近い屋上へのアクセスから建屋まで20mだ。こいつはぶっつけ本番でやるような内容ではないが――」

 「それは今更です。アルファチームはこれよりジャミング起動に向かいます」

 その回答は、俺たち全員の総意だった。

 どうせこのままここで閉じ籠っていてもいずれ発見されて包囲されるのは目に見えている。

 それなら、少しでも生存の可能性の高い方へ賭けるしかないだろう。ジャミングの設定は向こうで指示してくれるのだから、体さえたどり着けば面倒なところで頭を悩ませることはないだけで十分だ。


 「了解した。そちらから一番近いルートでは窓際を移動することになり、ドローンに披見する恐れがある。よって建物内、その近くのカジノを通過するルートを送る。健闘を祈る」

 通信終了と共に受信した見取り図の内容を、マキナに瞬時に叩き込んでいく。

 「驚いたな。カジノまであんのかよ……」

 「結構広いですね。家の近所のパチンコ屋より大きい」

 同じものを受け取った角田さんとクロがそれぞれの感想を漏らす。

 確かに、カジノと銘打つだけあって下手なパチンコ屋よりも大型の店舗だろう。

 それこそ下手すれば、建造物内であるはずのそこの中にもう一棟アパートでも建てられそうなぐらいの広さはある。


 この歓楽街の中心に位置するそれに向かって、俺たちは路地だか通路だか分からない通りを突き進んでいく。

 「ここか……」

 それは突然現れた。

 建物の中だという事を忘れさせるような、それこそ映画のセットのような世界がそこに広がっていた。

 レッドカーペットが敷かれた、扇形に広がった階段。

 恐らく階を一つ上がるぐらいのそれを登った先に、劇場のそれを彷彿とさせる厳めしい観音開き。

 恐らく中に押し開けるタイプのものだろうそれの前で左右に広がると、シロが爆発物探知機能をオンにしたデバイスを扉に近づけ、そのニスで艶やかに光っている木目調の扉の表面を撫でるように探査。


 結果、一切のアラームも鳴らずに探査を終えた彼女が、今度は自身のライフルに持ち替えてそっと肩で押し込んで侵入経路を作る。

 その背中を追って俺も中へ。

 「おお……」

 思わず声が漏れる。

 これが観光地なら、間違いなくお勧めのポイントになっているだろう。

 入ってすぐのエントランスホールと呼ぶべきだろう場所には、そこだけ美術館になったかのような大きなギリシャ彫刻が並べられていて、大理石のそれらが衝立のように奥を隠している。


 その石の衝立を交わして奥へ。

 スフィンクスよろしく鎮座する大理石のライオン二頭の頭の向こうに、映画ぐらいでしか見た事のないカジノが広がっていた。

 手前側には日本のパチンコ屋のそれのようなスロットマシンが数機ごとに島をなして無数に並べられ、その奥にあるのはルーレットだろうか、そしてその周りに……良く知らない何らかのゲームに使う同じく広い台。


 「凄いな……」

 当然ながら今は人っ子一人おらず、その上照明も全て落とされているとあって、静まり返っている上に薄暗い。

 光をもたらしているのは入り口から見て右手側の一角。案内を見るにラウンジらしいそこの、一面ガラス張りの開放的な空間だけだ。


 一面ガラス張り=外からも良く見える。

 その事実に思わず強張るが、幸いそこから見える景色にドローンの類は存在しなかった。

 「この奥を抜けてあの扉から裏方へ周り、そこから内部の階段を通って屋上に向かう」

 角田さんが入り口とは反対側の――室内のくせに随分遠い――扉を指さして次の目的地を指示した。


 それに従い、誰もいないカジノの中へ俺たちは進み出る。

 人生初のカジノが、フォーメーションを組み銃を構えてになるとは、決して予想できなかった。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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