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かの地へ15

 地上三階の高さの足場。

 グリーンのシートでその外を伺うことはできないが、それでもここが回数相当の高さにあることは鉄パイプと足場材で組み上げられた足の下を見れば十分だ。

 足場は一人がぎりぎり通れるぐらいの幅で、それを組み上げるための鉄パイプが、そのまま手すりとシートの支柱の役割を果たしている。


 「向こうに抜けるぞ」

 角田さんがそのシートの切れ目から、足場の向こう=先程狙撃を警戒した建物を指さす。

 此処と同じ集合住宅のようなコンクリート製のそれには、ここから今いる足場が伸びて行って、同じように組まれた足場に繋がっている。距離も精々20~30m程度で、どうやら工事用の足場としてではなく、その工事が終了した後は両者の連絡橋として使うつもりだったのだろうという事は、こちら側の足場が、オフィスの窓の前からずっと奥=他の部屋か通路に通じているという事と、何より奥の建物と通じているそこだけはしっかりとした橋脚と呼ぶべきものが見えているところからも明らかだった。


 その連絡橋のたもとへ。グリーンのシートもそこで終わっており、そこからは足場一枚を挟んでここより倍以上の広さのあるそれに切り替わる。

 「向こうに人影は確認できません」

 その連絡橋と、奥の建物を確認してクロが告げる。

 そして同時に、俺とシロもシートの切れ目から見える周囲で周囲を警戒。橋の上というのは空中と同じだ。周囲全てから見られていると考えなければならない。それに体感的にはそれなり以上の高さがあるとはいえ、ここはあくまで三階程度の高さであって、今いるこの建物も、目的地とする建物も、そして周囲にある他の建物も、全てより上の階がいくらでも存在する。


 「よし、行きましょう」

 その周囲の警戒を終えてシロが先頭に出る。

 建物にも、その周辺にも今見渡した限り人影も機影も見えない。今のうちだ。


 彼女を先頭に、俺たちは一列になって進む。

 進行方向を、上空を、周囲を、下を、背後を、それぞれ警戒を緩めず、同時に互いの距離を一定に保ったまま移動する。マキナがなければ相当な訓練が必要になる動きだ。

 「……ん」

 だから、という訳でもないのかもしれないが、その異常に気付けたのは僥倖だった。

 金属の足場に靴底の触れる音、それ以外に存在しないはずのその空間に静かな、しかし確かなモーター音が混じったのを聞き取れた。

 ――そしてその音の正体は、すぐに警戒にかかった。


 「ドローンだ!武装している!!」

 恐らくは橋の下、複雑に組まれた橋脚用の足場の隙間から上昇したのだろうそれが俺の視界のど真ん中にふわりと浮かび上がって、俺にそう叫ばせた。

 「走れ!!」

 角田さんの指示が即座に飛ぶ。

 よく見るクワッドローター型のドローン。ただしその四基のローターの下には人間用の汎用機関銃と給弾ベルトがこちらに銃口を向けてマウントされている。

 その銃身の上、恐らくセンサーカメラのものだろうレンズと、その横の、何を意味しているのか分からない赤いランプが見えたのと同時に、俺は指示に従って走り出し、そのすぐ後ろを銃声と跳弾のけたたましい音が追いかけてくる。


 すぐ後ろ、それこそ背中の皮膚の先にはもう銃弾が飛んできているような気がして必死に足を動かす。

 先頭のシロが進行方向にフルオートで銃撃を行っているのに気づき、その瞬間にはそれをした張本人は、銃撃でボロボロになったガラスを全身で突き破って中へと突入していた。


 「ぐうっ!!」

 彼女に続いて角田さんとクロが同時に跳び込み、そのすぐ後に俺が続く。

 窓の下1mぐらいの所にある床に着地し、それと同時に殺しきれなかった勢いで床に転がる。でんぐり返しだが、勢いとその役割としては前回り受け身。

 ガラスの上を転がる恐怖が、その実践に遅れて頭をよぎるが、機関銃のそれに比べれば微々たるものだ。幸い実際には傷を負っていない。


 飛び込んですぐ、俺たちはすぐ近くの物陰=扉のない個室へと飛び込み息を殺す。

 そのすぐ後ろに静かなローター音。それもすぐに遠ざかり聞こえなくなった。

 「……」

 音が聞こえなくなってから心の中で5秒カウントして顔を覗かせる。

 ドローンは既に見えなくなっているが、攻撃の手を止めても諦めた訳ではないようだ。あいつが人間の操縦で動いているのか、AIによって制御されているのかは不明だが、先程までいたオフィスの陰からもう一基、大型の武装ドローンが飛んできて連絡橋の上空に陣取った辺り、いつ侵入者を見つけてもそれらの武装を躊躇せず使用してくるだろう。


 「集まってきやがった……」

 「しばらく外に出ない方が良いですね……」

 同じものを入り口を挟んで反対側から見ていたクロが感想を述べる。俺も同意見だった。流石にもう一度機銃掃射を背中に感じるのは御免だ。

 そしてその奥で、角田さんが周囲を確認。

 「で、ここは……」

 彼が漏らした言葉に改めて飛び込んだ部屋の中を改める。

 いや、ここは部屋ではない。先程のオフィス街同様、建物の中に設けられた何らかのエリアの一部のようだ。

 元々周囲と隔てていたのだろう壁は大胆にぶち抜かれ、同じようになった他の部屋と繋がっている。いくつかベッド――と言うべきかは分からない、多少大きくしたストレッチャーのような寝台――がその空間の隅に置かれ、病院のようなカーテンでその周りを覆っている。


 「これ……病院……?」

 それを見たシロが発した声には明らかに戸惑いが混じっていた。

 無理もない。病院にしては他に設備らしい設備もなく、部屋の片隅にもう一基置かれた同様のもの以外に何も見られないのは不自然だ。

 そして何より壁が、むき出しのコンクリートというのもよく分からない。


 「……いや、まあ」

 そしてその正体を、角田さんが気づいたようだ――彼の手の先にあった代物で。

 「ああ……」

 ちらりとそれを見る。

 シロとクロの存在に気づいて彼の掌がそれを覆い隠す瞬間――その大きな掌でも尚も収まらない大きさ、というか長さのそれが何なのか理解する。

 そして何故、この部屋にカーテン付きベッドが置かれているのかも。


 ――だが、流石に二人の前でそれを口にするのは憚られた。

 妙な話だが、かつて金沢分隊長が戦死したと伝えられた時にシロ以外の三人で笑いあった馬鹿話の中にはかなりドギツイ下ネタも含まれていたはずなのに、今この状況でここが何なのかを口にするのは避けるべきだと考えている。

 ――多分、あの時みたいにそうやって受け入れなければならない現実が存在しないからだろうか。


 「この辺はさっきとは違う。恐らく歓楽街か何かだったんだろう」

 まあ、とにかく。

 角田さんもそう言ってオブラートに包んだ表現でぼかしながら立ち上がる。掌で覆っていたそれ=俺にも彼にもぶら下がっている代物を模した物体をどこかに蹴って。

 それから壁を抜いた穴へ。そして俺と角田さんは、俺たちの配慮は必要なかったような気持になった。


 「あ……」

 そこはより本格的な部屋だった。

 ちらりと見たクロと頬は心なしか赤くなっている。

 「……異常なし」

 感情を殺したクロの声。

 辛うじて平静を保っている彼女と共に受付と思われる部屋を見つけて、俺たちはそこへ滑り込んだ。


 「外には……誰もいませんね」

 外界に通じる扉を僅かに開いてシロが外の様子を告げる。

 彼女はいたって平静を維持していた。

 「流石に今は営業していないみたいですけど、似たような店が並んでいます」

 報告してくれるシロ。

 どうやら歓楽街という角田さんの見立ては当たっていたようだ。

 ――外にそういう通りがあったはずだが、まあ需要があればどこにでもできるものだろう。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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