かの地へ14
それが最後だったようだ。
眼下ではクロたちが、着剣したライフルを用いて倒れている公社兵にとどめを刺して回っている。
それに倣い、俺も同様に今しがた撃った相手に銃剣を突き立てて、それがただの死体損壊にしかならないことを確かめる。
「よし、全員下に集合してくれ」
それを終えるのと、インカムに角田さんの声が響くのがシンクロする。
言われた通りキャットウォークを一番奥まで進み、突き当りの手前で下に降りると俺たちが現れる前よりも静かになった通りで再び四人が合流した。
「全員無事だな」
確認――より実情に即して言えば「お疲れさん」ぐらいの感覚のそれを告げてから、角田さんが一番奥の扉に向き直る。
左右にスライドするタイプのそれは、今では固く閉ざされているもののその横に設置された電子ロックは解除されている。
――と言っても、電源が来ていないのか、先程の戦闘で壊れたのか、手動開閉用のハンドルを使わなければならないようだが。
と、そこまで確認したところで、俺たちのいずれのものでもない=CPやエドにも該当しない無線の声が耳に飛び込んできた。
「HQよりラット1-6。S-27区画にて複数の銃声と爆発音の通報があった。貴隊のすぐ近くだ。確認に向かえ」
それがすぐ近くに転がっている公社兵の無線から漏れてきている声であるという事は、その後聞こえてきた不審がっているのを隠さない声で確証を持てた。
「……HQよりラットチーム。応答せよ。ラットチーム、現状を報告せよ」
まずい――直感がそう告げる。
恐らくだが、無線の向こうが探しているラットチームは、今そこかしこで転がっている連中だ。
そこに別の声が入り込む。
「こちらゴート6。現在S-14区画からS-27区画に向かって移動中。先程の銃声はこちらでも聞こえた。確認に向かう」
「了解だゴート6。S-27付近でラットチームとの連絡が途絶えた。アンノウンとの遭遇を想定し即応体制に移れ」
全員がちらりと目を合わせる。
とにかく、ゴートチームとやらとご対面する前にここを離れるべきだろう。三十六計逃げるに如かずだ。
今度は俺が先頭に立つ。扉の前で待機し、クロがそれを確認してハンドルを回す。
「……」
水道の蛇口をひねったような音を立てながらのその回転が、本来なら滑るように開くのだろう扉を少しずつ左右に動かしていく。
顔を出せるかどうかというギリギリのところで、俺は進行方向を確認するべくその扉の隙間を覗いた。
「ッ!!」
そしてまさにその瞬間、通路の奥からやってきた公社兵と目が合った。
「コンタクト!!」
俺と奴。叫んだのがどちらなのかは分からない。
もしかしたら同時だったのかもしれないし、或いはどちらも声を上げることは無く、ただ俺の頭が言うべきその言葉を思い浮かべただけだったのかもしれない。
何にせよ、その一言が俺の体を横に跳躍させ、直後に無数の銃弾が扉をスイスチーズのように穴だらけにした。
「ヤバイ!ヤバイって!!」
叫びながらクロがハンドルを全速力で逆回転させ、銃声が止んだところでシロが手動で扉をロックする。
単純な鍵だが、それでもぶち破るまでの時間を稼ぐことはできるだろう。
だが、どうする?
敵は進行方向から来ている。
ほんの一瞬だが、確認できた人数はこの大通りで相手にしたのと同じぐらいは恐らくいた。
先程確認した通り、今閉鎖した扉を開ける以外に俺たちに出来るのは、来た道を戻るか、敵が目の前の扉を破る前にそれとは反対にある扉をぶち破って逃げるか。
前者は階下の商店街から路地に入った時に後ろからしていた敵の気配が更に近づいている可能性は十分にあるし、後者はどこに通じていてどこに敵がいるのかも分からない。
迎撃か、来た道を戻るか、未知のルートか――悩ましく、そしてそうする時間は全くない三択で、角田さんが選んだのは全く関係ない四つ目の選択肢だった。
「こっちだ!」
彼が叫んで登り始めたのは、シロが通ってきた方のキャットウォークの階段。
「カクさん!」
「下がっても敵がいる!今のでここに集まってくるはずだ!」
それは俺も分かっている。
このままここにいても袋のねずみ。だがだからと言って、多少高い所に登っても――そう思ったところで、マキナにインプットされた見取り図がようやく彼の意図するところを悟った。
「ッ!」
他の二人も同様に、彼の後に続く。
先程シロを撃とうとした公社兵を飛び越えて、そいつが飛び出してきた扉へ。俺とクロが扉の左、角田さんとシロが右に控え、俺は奴が飛び出した時に半開きになっていた扉を蹴り開ける。
すぐさまシロが流れ込み、それに角田さんとクロが続く。
「クリア」
「クリア」
「クリア」
後詰を担当した俺にも、その恐らくこの辺りで最も大きいのだろうそのオフィスがもぬけの殻であるという事が分かるのより前に、三人の声がそれを示していた。
オフィスビルの一角と言われても疑わないだろうその部屋には、まさしくそう思わせる原因の、規則的に並んだデスクと、それらによって構成される個人用ブースやOA機器によってある程度移動が制限される状態だ。
そしてその迷路を進む際、俺たちは床に伏せて這うようにした。
飛び込んだ側と反対の壁はガラス張りで、その向こうにはこちらと同じような建物が建っている。
そしてガラス張りのこの部屋は、その建物からはきっと良く見えるだろう。
狙撃、そして建物の周囲に展開しているだろうドローン等を警戒して物陰から物陰へと渡りつつ奥へと進んでいく俺たち。
と言ってもあまり時間はかけられない。爆発音と踏み込んでくる複数の物音が背後で聞こえている。ゴートチームだろう先程ご対面した連中が大通りの扉をぶち破ったものだろう。
その焦りが僅かに出てきた時、最初にたどり着いた角田さんがふっと立ち上がった。
狙撃もドローンも急に忘れてしまったかのようなその動作はしかし、そうしても安全であることを確信してのものであるという事に気が付くのに時間はかからなかった。
「よし、ここだ」
彼はそう言って自らのライフルのストックをガラスに思い切り叩きつけた。
寺の鐘でも撞くかのような動きでもう一度。放射線状に細かな日々が入ったその中心に叩きつけられたそのストックは、耳障りな音と共にしっかりとガラスを貫通する。
一か所割られたガラスは弱い。周囲をガシャガシャ破壊すると、俺たちが到着する頃には人一人がくぐれる穴が開けられていた。
その向こうは当然ながら外。そしてここは二階だ。
飛び降りる?いやそうではない。
そこには彼が立ち上がってガラスを砕いた=それをしても大丈夫と考える理由が用意されていた。
「こっちだ」
再度そう言って、角田さんは自らがぶち開けた穴から外へ、濃いグリーンのシートで周囲から覆われた工事用の足場へと降りて行った。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




