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かの地へ13

 先に進み、それに合わせてニュースの声が遠くなっていく。

 突き当りで左に折れると、それまでと同様の細い路地が奥へと伸びていて、玄関なのか裏口なのか分からない扉が左右に点在している。

 クリアリングするにも、扉から少しでも離れようとすればすぐに反対側の壁に背中が当たるぐらいの距離だ。もし通り過ぎる瞬間にその扉から飛び出して来たら、銃を向けるどころか、それが敵かどうか確認する余裕さえないだろう。

 念のためセカンダリーに切り替えておくが、それもどこまで有効かは分からない。何しろ相手がナイフでも持っていれば、出てきた瞬間にズブリとやられる可能性だってあるのだから。


 その細い路地を緊迫に追われるようにして進み、ようやくたどり着いた階段は、先程の突き当りから精々十数mしかないはずだが、体感時間はその距離の倍以上を移動しているようにも思えていた。

 「ここを上に」

 「よく覚えているな」

 学校の階段を彷彿とさせるタイル張りの――古くてかび臭くてボロボロの――その階段をシロが先頭に立って登っていく。

 全員送られてきた見取り図をマキナにインプットしているが、それにしても一瞬の迷いもなくルートを選択できるのは大したものだ。

 その彼女が足を止める。道に迷った訳ではないという事は、階段を上り切った先の路地がより広い、ちょっとした大通りぐらいの幅の道に交わるところでだった。


 「前方に哨兵複数。こちらには気付いていませんが……回避は難しそうですね」

 壁を覆い尽くさんとする無数の配線を避けるようにして身を屈めた彼女の視線は、その大通りに広がっているJ1614型に注がれていた。

 この大通りは建物の中のオフィス街――に相当する場所なのだろうか、広い通路の両側に諸々の事務所や事務用品を扱う店の看板が掲げられていて、吹き抜けになった上の階にはキャットウォークが設けられ、そちらにも同じような看板が、天井やキャットウォークの手すり部分など、取り付けられる所ならどこにでもといった様子で掲げられている。


 そのオフィス街の上下を、一つ一つの事務所の扉を開けて中を覗き込みながら警戒している公社の部隊。

 窓がないからか、それとも他のエリアより重要とされているのか、大規模停電の最中でもこの辺りには照明が灯っており、屋外と変わらない視界を維持している。

 恐らく建物内に用意された予備電源を使用しているのだろう。


 そしてその明かりが、目的地に向かうにはこの道を抜けていく以外に方法がない事を示している。

 俺たちが立っている路地の他には奥に設けられたこの区画とその先を隔てている扉と、それとは反対側のそれだけ。そして残念ながら、目の前に展開している公社部隊は少しずつこちらに近づいてきている。

 「突破か……」

 「ちょっと待ってください」

 覚悟を決めようと口に出した俺の後ろでクロがつま先立ちになって壁を探り始めた。

 振り返ると、指が無数の配線の束のうちの一つを指してその行き先を追っている。

 その指がある場所から戻ってくる。巻き戻すようにして戻ってきた指先が示しているのは、一つの箱。


 「これ……多分この区画のブレーカーですね」

 ここには窓がない。つまり?

 彼女の言葉を聞いた角田さんの判断は早かった。

 「こちらから仕掛けよう。下と上を同時に。暗視を使って照明が落ちるのを合図にして攻撃開始」

 「「「了解」」」

 避けられないのならこちらから仕掛ける方が良い。

 先手を取って敵の数を減らすことが出来ればそれだけ優位に立てるし、何なら反撃を受けずに殲滅することも可能だ。後者に関しては運が良ければ、であるが。


 すぐに配置が決まる。路地に近い方のキャットウォークをシロ、反対側のそれを俺、下の大通りを角田さんとブレーカーを落とした後のクロ。

 「……」

 連中の動きを見る。

 場所が場所だけに遮蔽物になりそうなものは天井から下がっている配管や看板の類の他には大通りの中央に奥へと列を作っている大型プランターだけだ。

 セカンダリーからプライマリーに持ち替え、そうした僅かな障害物で身を隠しつつ少しだけ路地へ出て身を伏せる。


 「レーザーを持っている者も使うなよ。連中には探知される」

 角田さんの念押しがインカムに聞こえる。

 公社兵の被っているヘルメットのバイザーには、俺たちが今装備している暗視装置と同様の機能が盛り込まれており、照明を落としたからと言って銃に使用するような赤外線レーザーサイトを使用すると、暗闇にくっきり浮かび上がった線がこちらの位置を教えてしまうことになる。


 「アルファ5配置よし」

 シロの声がインカムに。路地から近い受け持ちの彼女は既にキャットウォークに上がる階段に差し掛かり、そこで身を伏せている。

 「アルファ1配置よし」

 対して反対側のキャットウォークを担当する俺がそこに踏み込むのは照明が落ちてからだ。今大通りを横切れば確実に連中のうちの誰かの目につく。

 「アルファ6よし……やれ」

 パチン、パチンと乾いた音が響く。

 それに連中が気づいたかどうかは分からない。どこかで鳴ったかもしれない物音よりも、一瞬で暗闇に包まれる方がはるかに深刻な事態だ。

 その暗闇の中でも俺たちには慌てて周辺を警戒する公社兵の姿が昼日向のようによく分かる。

 連中とてすぐ同じ条件になるだろうが、それでも先手を打った側の利点は十分だった。


 「攻撃開始」

 同時に銃声が響き、大通りにいた二人が倒れる。

 「!?」

 連中も状況を理解して動き始める。

 ――が、それでは間に合わない。

 更に銃声とマズルフラッシュが暗闇に迸り、キャットウォークから一人が腰ぐらいの高さの手すりを越えて転がり落ちる。

 その間に俺は受け持ちのキャットウォークに到着し、四つ足のように階段に体を近づけて上へ。


 「……ッ!」

 対岸と眼下の味方が何者かにやられている事を悟り、対岸の敵をまず始末することを選択した、まさにその瞬間の公社兵の姿が目の前に見える。

 「っの!!」

 その姿に反射的に二発叩き込む。一発はボディーアーマーに当たったが、もう一発は太ももを撃ち抜いた。

 「ッ!!!?」

 突然の視界外からの攻撃にそいつが尻もちをつき、その瞬間天井の看板を暴発したMk45の6.5mm弾が粉砕する。

 その間に俺も階段を登り切って、今しがた倒した奴の奥、既にこちらの存在に気づいて得物を向けようとしているもう一人に三発。

 先程までの路地と変わらない広さのキャットウォーク上、距離を詰めるように進みながらでも、正面に見えた相手に正面に向けた銃の引き金を引けば、その結果は言わずもがな。


 そしてそれは反対側のキャットウォークでも同様だったようだ。

 それどころか、先に取り掛かっていた分そちらの方が先に同じ現象を起こしていたようだ。

 「!!」

 二人目を倒した時、何とか立ち上がって反撃を試みようとした最初の個体の後ろの扉が開いて三人目――出てくる前に扉の正面方向=反対側のキャットウォークから飛んできた銃弾がその開いた扉に飛び込む。


 「助かった。ナイスキル」

 インカム越しに伝えながら、その手前でとり落したライフルに手を伸ばした一人目に始末をつける。

 と、今度は爆発音。

 反射的に音のした方を振り向くと、大通りに40mmグレネードが撃ち込まれ、正面の二人から逃れて植え込みの後ろに隠れた瞬間の公社兵を吹き飛ばしていた。

 そしてその一発が、下にいた敵の最後の一人を始末していたらしい。

 クロと角田さんが前進するのが見え、俺とシロもお互いを見つけた。


 「!?」

 その瞬間に対応できたのはたまたまと言っていいだろう。丁度俺がシロの方を見た瞬間、その視界の端に彼女側のキャットウォークの一番奥、突き当りの位置する場所の扉が開いたのが見えたのは。


 「ちぃっ!!」

 「くっ!!」

 俺の反応の意味を理解し、すぐ後にシロが振り返る。

 一、二、三、四――俺の指が引き金上を往復。


 「ありがとう。助かりました」

 シロが構えを解き、こちらにサムアップして示す。

 ついさっきの借りを早速返すことが出来たようだ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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