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かの地へ8

 タービン室にはいくつかだけ照明が灯っていた。

 電気を生み出すはずのタービン=この部屋に二基並んだ、家一軒入りそうなケースの中に収められているそれは、その動力源となるものがたった今崩壊したこともあって沈黙しているが、それでも照明がついているのは非常用発電機に加えて併設された第二エネルギーセンター=地熱発電所から電力を融通されているからだろう。

 恐らく重要度の高い所に優先して、そうでない箇所は最低限の復旧に留めている。

 ――つまり、ここはそれほど人が訪れないという事。


 「急ぎましょう……」

 クロが走り抜けた扉の向こうを振り返ってからそう告げる。

 その声の何倍も大きく施設中に鳴り響いているだろうアラートや、被害状況を告げる館内放送にも、彼女の声はかき消されない。

 凄まじいガスと粉塵で何も見えないかつての炉室には、生存者がいるのかどうかすら分からない。

 ただ、仮に俺たちの後を追いかけようとしても間に合わなかっただろうという事は、扉の少しだけ奥、コンクリートの床が途切れて巨大な吹き抜けになっていた場所のグレーチングが全てただの残骸となって崩落し、その姿すら霧のような世界に包まれて見えなくなっていることで誰にでも明らかだった。


 間一髪命拾いしたことを噛み締めながら、タービン室内のクリアリングを実施。

 先程までの戦闘で撃たれ、ここまで這ってきたのだろう公社兵の死体が一つある以外は何もない。

 「……アルファ6よりCP」

 「こちらCP」

 角田さんのインカムへの声だけが俺たちの耳に届く。

 「焼却場内で公社部隊と交戦。こちらは全員健在。その戦闘で焼却炉を破壊しました。島内及び施設内の送電に影響が出る恐れがあります」

 恐らく地熱発電だけでは島内全域は賄いきれないだろう。

 公社守備隊の駐屯地には自前の発電能力は備えられているだろうが、他のエリアは恐らく混乱が巻き起こっているはずだ。


 「CP了解した。現在島内の状況を確認中だ。分かり次第連絡する。アルファチームはそのまま任務を継続せよ。CPアウト」

 さて、背後は断たれた。

 後は前に進むしかない。

 幸い、進むべき階段は既に見えているし、今度は背後から襲われる心配もない。タービン室の入口は炉室を通る一か所しかないのだから。


 階段を降りて再度地下へ。階段を降りた先にはお目当ての変電室の扉と、そこから右に伸びている一本道の廊下。

 突き当りの扉はぴたりと閉じられて、ロックされているという事をその外にあるコンソールが示していて、その光だけが真っ暗な廊下に光っていた。流石にセキュリティ関係の電気は優先して供給されるようだ。

 先程の放送では送電担当の部門はシステムを停止して撤退しろとの指示が出ていた。恐らくあの扉の向こうに担当部門の人間が逃げ込んだのだろう。


 まあいい。こちらの用があるのは変電室だ。

 「ロックされているな……」

 そちらもまた締め出されてしまっていたことはすぐに分かった。

 だが、それならやりようもあるというもの。角田さんが島に潜入した時に使ったプラズマカッターを再度取り出して、暗闇に煌々と浮かび上がったその光で扉に円を描く。

 「よし、これでいい」

 円を描き終え、その内側を部屋に向かって蹴り込むと、溶断された分厚い金属の板がゆっくりと部屋の中に倒れていく。


 「危ないッ!!」

 俺は叫びながら角田さんに突進して突き飛ばした。

 二人同時にその場に倒れ、それと同時に穴から狂ったように銃弾が飛び出してくる。

 その穴を覗き込んでいたのはたまたまだった。

 本当に、幸運に救われると言うのはあるものだ。


 俺たちが倒れた勢いを活かして床を転がり、起き上がるまでに残った二人が対応している。

 「フラグアウト!」

 弾幕の切れ目にクロが叫んで室内にフラググレネードを投げ込むと、その炸裂を合図にシロが室内にワンマガジン分の弾をばら撒いていく。

 「リロード!」

 コールしながらはけたシロとすれ違い、後ろ蹴りで扉を開けて、クロと角田さんがなだれ込むのを後方からバックアップ。


 「クリア」

 「クリア」

 二人の声に合わせて、リロードを終えたシロも中へ。

 他律生体が一体。勇敢な作業員が二名。それぞれ体を穿たれて転がっている。

 一体、この作業員たちに何があったのか、何故こいつらだけ残っていたのかは分からない。

 ただとにかく、どういう理由か変電室に残っていたこの作業員たちは、恐らく守備隊の他律生体の死骸から回収したのだろうライフルを仕事道具の代わりに持っていた。


 「……」

 まだ若い二人の亡骸に蹴りを入れて、死んでいることを確認する。

 仕事熱心過ぎるのも考え物だ。一瞬生じた胸糞悪さをそんな言葉でかき消す。


 「CPよりアルファチーム」

 丁度その時、インカムに声が入り込んだ。

 「先程受信した北共軍のファイルだが、複合が完了した」

 随分早いが、流石はエドと言ったところか。

 「連中、どうやら硫黄島に大量破壊兵器が存在するという情報を得ていたようだ。上陸するはずだった攻略部隊に先立って島に潜入し、その大量破壊兵器を発見、無力化し回収する……それが任務だったようだが、失敗に終わった事は結末を見れば明らかだろう。捕虜から情報を吐かせる前に殺したところを見ると、恐らくその情報が真実かどうか掴む事さえできない内に捕らえられたものと思われる」

 大量破壊兵器。それが公社が意図的にリークしていたSLBMの事なのか、或いはシュティレンの事なのかで話は変わってくる。


 もし前者なら俺たちの行動に変わりはないだろう。

 どうせ連中にとってそんなものただ見せているだけの、いわばこの状況を作るためだけの小道具に過ぎない。

 ジークフリートと他律生体の暴走によって機能停止状態にある三大国であっても、高々数発の戦術核で全ての国を降伏させることなど不可能だ。そんな事は公社だって分かっているはずだ。


 だが後者なら厄介だ。

 もしそれもブラフでないとするならば、公社は硫黄島にもシュティレンを配備しているという事になる。


 つまり、そうつまりは、最悪の場合この島を爆破する可能性があるという事だ。


 一体何のために?それは分からないが、もし侵攻部隊を島内におびき寄せて島諸共……という考えでないのだとすれば困る。

 その可能性は侵攻部隊壊滅によって低下したが、そうでない場合何を理由に使うか予想が出来ない。


 「連中の配備理由は不明だが、島内に大量破壊兵器が存在する可能性について留意してほしい。と言って、今は情報が不足している。今後何か分かり次第伝える」

 どうやら今のところは、最悪の事態にならないよう祈りながら行動するより他は無さそうだ。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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