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かの地へ7

 これで少しでも状況が好転する――という訳でもない。

 「くぅっ!」

 ガスの陽炎に歪む世界から先程よりも大量の銃弾が降り注ぐ。

 自分たちが盾に取っていたものがなんなのかを初めて理解したのか、そしてその上で獲物を仕留めるためには下がる訳にも、ましてや無防備な前方に飛び出す訳にもいかないという判断が働いたのだろう。

 となれば連中に取れる選択肢は一つ=やられる前にやる。


 「撃ち返せ!」

 叫びながら自らもそれを実践。

 ほとんど体をグレーチングの上に横たえ、銃だけを出しての盲撃ちでの反撃。少しでも頭をあげればどうなるかは、隠れている資材の表面を撫でつけるように飛んでくる銃弾が示している。

だが、そんな反撃で敵を圧することができる訳もない。ただでさえ正面の敵だけでなく、新たに追加された上から撃ちおろしてくる奴も相手にしなければならないのだ。


 「……っと!!」

 それに加えて腹を晒している下側も安全ではないという事を、グレーチングに弾かれた銃弾の音で気づかされる。

 数が多すぎる。

 いや、それだけではない。

 クロの叫び声。

 「バリスティックスーツ!」

 思わず頭を上げてその姿を目に焼き付ける。

 ガスの流入を停止したのか、陽炎が治まったキャットウォークの上を、装甲の塊のようなそれがこちらに向かって歩いてきている――グレネードランチャー付のアサルトライフルを向けて。


 「クソッ!」

 反射的にそいつへ銃撃するが、銃弾は火花以外には何も残さず弾かれていく。

 そして反撃。頭を下げてその場に伏せ、そのまま転がってH鋼の後ろに飛び込む。

 直後に耳障りな金属音。あと少し判断が遅ければ飛んできた鋼材に潰されていただろうという事は、一瞬で吹き飛んだそれまで身を隠していた資材が物語っている。

 「くぅっ!!」

 同じようにクロも柱の後ろへ釘付けにされていた。

 連中はバリスティックスーツをさしずめ歩く戦車のように先頭に立たせ、その後ろから、盾役の隙をカバーするように銃撃を加えてくる。


 更に厄介なことに何とかして反撃をと思っても上からも下からもその攻撃が行われ、一度見つけた安全地帯から少しでも動けばその瞬間体のどこかに穴が開くと思えるほどに濃密な弾幕が展開されてしまっているという事だ。

 「……ッ!!」

 更に更に厄介な事に、上から撃ちおろしてくる中にもまた、バリスティックスーツが一体混じっているという点。


 「伏せて」

 その声は、そうした凄まじい弾幕の中で、一瞬だけ聞こえた。

 そして発せられる軽い砲声。そう砲声だ。

 40mmのグレネードランチャーから射出された榴弾が狙ったようにバリスティックスーツの頭上すれすれを飛び越えて、その背後の天井兼二階の足場に命中。炸裂した爆炎と無数の破片を隠れていた連中の頭上に降り注がせた。


 「ナイスキル!」

 「助かった!」

 クロと俺とが、それぞれその砲手に叫びながら、その一瞬で産まれた弾幕の隙間に顔を出して、二階の相手に反撃を開始。

 こちらもバリスティックスーツは破壊出来ないが、その後ろにいた連中の頭を下げさせることは出来た。

 反撃が来る――そう思わせることが少しでも牽制になるはずだ。希望的観測も込めて。

 そしてその反撃に先程の砲手=シロが加わる。本来の進行方向を一度振り返ると、角田さんはそれを見越してか、片手をこちらにひらひらさせていた――モグラ叩きのように頭を出したり引っ込めたりする前方の敵兵を相手にしながら。


 そしてそちらの方面から転属してきたシロは、素早く適当な物陰に移動しつつ自動装てんの如く腕だけ独立してグレネードランチャーに次弾を送り込んでいる。

 「炉を破壊します!火力を集中して!」

 「なんだって!?」

 「マジで言ってんの!?」

 俺とクロがそれぞれ叫び返すが、その時には既に榴弾の炸裂が炉の銀色の表面を爆炎と煙とで覆い隠している。

 「マジで!」

 その瞬間の叫び返し。ならもう聞き返す必要も、その時間もない。

 「「了解!」」

 バリスティックスーツの頭上のパイプにまず撃ち込む。直接火をつけるぐらいでないとあれの外装を破壊することは出来ないだろうが、それでもダメージがない訳ではない。何より吹き付ける熱風は思わずたじろぐには十分な代物だ。


 実際、僅かに前方のバリスティックスーツは足を止め、二、三歩たたらを踏んで後退している。その間もう一体、上から撃ってくる方は元気に攻撃を加えてくるが、そいつの持っているのはただのMk-45の分隊支援火器仕様で、直線的に弾を発射するしかない。

 つまり、跳弾さえ当たらなければグレネードランチャーのような曲射はしてこないという事。


 「くっ!」

 その直感に発生した漏れが目の前に転がり込んでくる。

 破砕手榴弾が、金属の階段を低くバウンドして俺の前へ。

 「馬鹿野郎!!」

 何で自分でもそれが出来たのか、それをして大丈夫と判断したのかは分からない。

 相手のスパイクを拾いに行くバレー選手のように、俺はその手榴弾に向かって飛び込み、手で正面のバリスティックスーツに向かって弾き飛ばしていた。


 炸裂音、そして鈍い痛み。

 金属だらけの場所だ。どこをぶつけても痛いに決まっている。

 「ぐっ……」

 いや、ぶつけただけの痛みではない。

 一瞬遅れて熱と、それから理解。

 状況:銃弾が右肩を貫通している。


 「あっ!!」

 動かそうとして声を上げる。

 痛覚制御が効き始める前の、生の痛みが俺を悶絶させた。

 そしてその一瞬に見えた、銃口を地面と垂直にしてこちらを狙っている灰コンベア室のに入り込んだ公社兵たち。

 「この……っ!クソッ!!」

 呻きながら、体を動かして次の攻撃を受けないように体を転がす。

 同時に手はポンプへと伸び……ああそうだ。取り出すための腕を撃たれたんだ。


 「ぐっ……」

 左手でポンプをまさぐる。その間も銃弾は四方から飛んでくる。

 その俺の首の後ろにあるドラッグハンドルを掴んだのがシロであると、気づいた時には彼女が俺を後方に引きずりながら片手で銃弾をばら撒いていた。

 「もう大丈夫!あと少しで終わりに出来る!」

 それを追うようにクロも後退。シロの弾幕が切れる瞬間をカバーするように弾を吐き出し続けている。


 そしてその間に、シロのポンプが俺の体に突き立てられた。

 「ありがとう。助かった」

 痛みが引き、体を起こして射撃を再開。

 銃撃を受けてからの僅かな間に、随分陽炎が広がっている。

 そしてその歪みの向こうに見えているのは、陽炎がなくともはっきりそうだと分かっただろう、傾斜を始めた巨大な銀の塔。

 あと少し――そのシロの言葉の意味を理解し、俺もその最後の一押しに参加。

 銃声と爆発音、そして金属の擦れるような音や、金属同士がぶつかる音、そして一斗缶を激しく叩くような音。


 「崩れる!!」

 「今だ!走れ!!」

 いつの間にかこっちに加わった角田さんの叫びが合図となった。

 沢山の公社兵を振り落としながら、二階のキャットウォークが崩れていく。

 穴の開いた炉から噴き出した超高温の中身がバリスティックスーツを包み吹き飛ばしていく。

 そしてそうした光景すらも一瞬で飲み込んで、巨大な銀の塔が、周囲の全てと共に崩落を開始した。


 「離れろ!!」

 全員が走る。

 まだ前方には生き残っている敵もいたが、そんな場合ではない。

 銃弾は外れるかもしれないが、重力は100%回避できない。今いる足場が破壊されればそのままこの崩落の中に消えていくだけだ。


 凄まじい音と、焼かれていると錯覚するほどの熱。

 恐らく本当に焼かれるぎりぎりの距離で逃げているのだろう。そう思うと、足は決して止まらない。

 辺りの照明が一度完全に消えても、その闇の中を走り続けた――どうやってそのまま暗視装置を起動させたのかは自分でも思い出せない。まあ上手くいったし転ばなかったのでよしとしよう。


 前方を塞いでいたはずの他律生体と共に、俺たちは走っていた。

 連中も俺たちも、ただ巻き込まれない事が最優先だった。

 

 「開けろ!急げ!!」

 叫びながら、タービン室と書かれた扉に体ごと突っ込んで中へ。

 俺たち四人以外の連中がどうなったのかは、誰にも分からなかった。


(つづく)

投稿大変遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで。

続きは明日に

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