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かの地へ6

 例え最後の部分がなくとも、その叫び声が我々の良く知る避難訓練のそれとは明らかに異なることなど誰の耳にも明らかだった。


 「これより緊急立下げを開始する!送電担当部門は直ちに全システムを停止して退避せよ!」

 すぐに続いたそれが何を意味するのか、早速到着したJ1614型の放った銃弾が説明していた。

 「くぅっ!!」

 上から撃ちおろされるそれが、目の前の巨大なH鋼の柱に当たって弾かれ、それに続いた数発のうち一発が俺の横を通っているパイプに穴をあけた。


 それが何のためのパイプかは分からない。だが、その6.5mmの穴から噴き出してきたガスには決して触れるべきではないという事は2m以上離れているここからでも感じる凄まじい熱気で直感する。

 熱気。ここでそれを生み出す最大のものは何と言っても焼却炉。

 炉が動いていれば=中でゴミを燃やしていれば、当然ながら燃焼ガスが発生する。

 数百度の燃焼ガスとその元となる燃えているゴミ。これらが――ちょうど今のパイプのように――銃撃で損傷した箇所から外に噴き出せばどうなるか。


 一体炉内の温度が安全なレベルまで下がるのにどれぐらいの時間が必要かは分からないが、少しでもリスクを減らす必要があるということだろう。

 そしてその事は、公社兵もやや遅ればせながら理解したようだ。

 勢いよく噴き出すガスが見えたのか、連中の射撃は一度中断された。施設を破壊してはまずいという認識はあるようだ。


 「くそっ!挟まれた!!」

 その時背後でした角田さんの声が、一瞬俺を振り向かせた。

 タービン室の方から飛び出してきた複数の兵士たち。

 その出端を押さえるように、その登場を伝えた本人が銃撃を加えるが、複雑に入り組んだ機材や配管は散開する公社兵に味方した。

 「カクさん!ここを壊すとまずい!!ガスが出る!」

 叫びながら自分の仕事に戻る。連中だって迂闊に撃てなくなったとはいえ諦めた訳ではない。それどころか高低差を利用すれば有利なのは向こうだ。


 「だが数も地の利も向こうだ!」

 それを察したかのように、銃声と跳弾の音に混じって角田さんが叫び返してくる。

 「タンゴダウン」

 そこに更に被せられる声=クロのもの。

 そして三階のキャットウォークから転がり落ちるJ1614型が一体。

 壊すとまずいならピンポイントで――それが可能な腕が前提だが。


 だがその一発が、連中の判断も変えてしまったようだ。


 「うおっ!!」

 多少の損傷を気にしていては損害が増える。連中のCOSか指揮官用AIがそう判断したのか、パイプラインや設備に穴を開けながら抵抗する侵入者を始末にかかってくる。

 咄嗟にH鋼の柱に身を隠すと、その柱の頭より高い場所が鈍い音を立てて後方からの銃弾を跳ね返した。

 「ちぃっ!」

 だがそれで驚いている場合ではない。

 「トーマ!撃ち返せ!!このままじゃ俺たちが死ぬ!」

 その一言が引き金を引く最後の一押しになった。

 暫定――とかつて本人は言っていたが――部隊長の指示だ。そういう理由を与えてくれた。


 「ッ!!」

 銃弾の飛んできた方向を確認。俺たちが歩いてきた方に二体。炉の横の階段を上った二階にも二体。

 そこで頭を引っ込める。直後柱のすぐ横を掠めていく銃弾。

 それの飛んできた方向=正面に対して銃身だけを出して盲撃ちに撃ち返す。

 同時に今度は上から。そこで射撃を中止して移動。銃撃の切れ目を狙って腰を落として柱からすぐ横に広げられた養生シートの上に積み上げられた資材に身を隠し、その間正面の連中の頭を下げさせていてくれたクロの援護に入る。


 位置を変えたことで左斜め上から飛んできていた二階の銃撃を正面上に切り替えることができる。そしてこの位置からなら、上の連中が盾にしていた炉の外壁と、それを支えている鋼鉄製の支柱に射線が切られることは無い。


 角度が適切なら、後は細い手すりさえ避けられれば当たる。


 連中もそれに気づいたか、一体がこちらに向き直り、銃弾を撃ちおろし、それと同時に振り返らずもう一人に片手で触れて後退を指示。

 「……ッ!!」

 立派な判断。だが、こっちの方が僅かに速い。

 こちらに向かった発射された弾丸が俺の前に積み上げられた鉄骨や鋼板と音を立てているその時、ドットサイト内の小さな円とその赤い中心点が奴の胸元に収まる。

 同時にセミオートで二発。ボディーアーマーの上に着弾した一発目の衝撃が、ちょうど二発目が喉を貫くように相手の体勢を崩していた。


 その味方の後ろ、後退しようとしていたまさにその瞬間をクロの一発が撃ち抜く。

 仰向けに倒れ、物陰から奴のもがいている膝から先だけが見えている。


 「よし……」

 だがそれで敵の攻勢が止んだ訳ではない。

 正面の二体は残っている――それどころか、いつの間にか増えた銃口が俺とクロを逃がすまいと辺りに銃弾をばら撒いている。

 「わっ!」

 クロの声。

 撃たれたか――咄嗟にそちらに目をやると、彼女は先程俺が隠れていたのとは別のH鋼の後ろに身を隠していたが、俺と彼女の間には上側が大きく抉れたパイプが一本走っている。

 その抉れた場所からは、穴のサイズに相応しい先程よりも大量のガス。

 噴き出す音さえここまで聞こえてくるような凄まじい勢いのそれは、すぐにガスの向こうの彼女を見る事さえ不可能にした。


 「……ッ!」

 その破壊の張本人だろう正面の連中は更に銃撃を加えつつ、その制圧射撃の中を二名が前進してくる。

 「このっ」

 最低限だけ銃身と顔を上げ、その二人のうち右側を抉れたパイプと似たようなそれに隠れようとしたところで排除。もう一人が隠れたのを見越した時に、連中が身を隠している馬鹿でかい焼却炉に改めて目が行く。

 ――ふと、考える。あれがガスの大元で、あそこから発生したガスがパイプを伝っているのだ。

 そしてアレに当たれば恐らくただでは済まない。と言う事は?


 「……」

 改めて前進した片方が隠れた辺りに目をやる。

 奴が隠れたのは俺と同じような資材置き場。そしてその上にはパイプが何本か。


 「クロ!奥の連中を押さえていてくれ!」

 叫び、答えを聞かずにそのパイプに狙いを定める。

 注文が届いていたのか、その視線を曳光弾が数発横切り、リロードを終えた相手の頭を引っ込めさせる。

 と言っても一瞬だ。すぐに奴らは撃ち返してくる。

 だが、その一瞬が欲しかった。


 「ここかっ!!」

 狙いを定めたパイプに正確に撃ち込んでいく。一発、二発、三発――噴き出したガスの中に四発目が消え、そしてその次の瞬間、ただ漏れていたガスは滝となって直下に噴射した。

 「ッッ!!!」

 他律生体が一体、資材置き場から転がり出した。

 全身を抱きかかえるような姿勢で、狭いグレーチングによる足場の上をゴロゴロと転がって悶絶している。

 声をこらえているのか、そんなものを出す余裕すらないのか。

 或いは、吸い込んだガスによって喉や気道を焼かれたのか。


 突然苦しみ悶え始めた味方の姿に隙を見せた後方の一体がクロに始末された時には、既にガスに焼かれたその個体も最後のあがきを辞めていた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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