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こじらせティーンは服に着られて  作者: 沼米 さくら


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#4-3 五日目・更衣室にて


 更衣室。

「……すごかったね、魔法少女」

 れんの呆けたような言葉に、僕はコクリと頷くことしかできなかった。

「まだ、心臓がバクバクしてる」

「どうなることかと思ったけど……でも、みんな満足してたしよかったじゃん」

「……むぅ」

 こっちは人生観のようなものが変えられてしまうような体験だったというのに。呑気なもんだ。

 まだ落ち着かない胸を、深呼吸してなだめようとする。


「あ、見てみて。さっきのやつ動画上げられてる。あやばいやばいもう万バズしてる!」

「早くない? ……てかマジ?」

「マジ! ほら!」

 鼻息荒く見せてきたスマホの画面には

『【神対応】魔法少女さん、男の娘コスプレイヤーを救ってしまうwww』

 などという文章とともに約三分の動画。さっきの一部始終。口論が始まって、説教されて、泣きながら性別明かして、抱きしめられながら拍手されて。

 それを見た僕は、顔を赤くした。

「消して!」

「投稿した人わかんないよ」

「消すように言って!」

「さっき言ったけど無視された。というかこういうのってよしんば消されたとしても保存した誰かが転載するから」

「邪悪だ……やっぱツイッターは邪悪だ……」

「無断転載のインプレゾンビに言えば?」

「邪悪だ!」

 目がグルグルする。ちらっと見えたリプライに「てかレイヤーのほうもめちゃかわじゃん」「え、結婚しよ? 俺も男だけど」「実質セックスだろこれ」「本当に素晴らしいです。レズビアンセックスは世界を救います」とか書いてあったのが、なお脳内の混沌を加速させる。ほぼ全部褒め言葉じゃんかよ。非常にやかましいけど。

 大きく息を吸って、それから大きく吐き……笑いが溢れた。

「でも……邪悪でも、なんか嬉しいや」


「どうする、いお兄。お色直しして出直す?」

「いや、いいや。疲れちゃった。……着替えて帰ろうか」

 言いながら、僕はヘッドドレスを外す。

「そっか。……あとはもう見るだけにしよっか」

「早く帰りたいんだけどー」

「私はもうちょっとみたいんだけど! そのくらいならいいでしょー?」

「……まあ、見るだけならね」

「やったー!」

 れんも、ここ数日で本当に明るくなった気がする。軽く伸びをして、彼女は服を脱ぎだす。

「……あ、その……ここにいても大丈夫かな。一応女子更衣室だけど」

「さっさと着替えちゃおう! 人がいないうちに!」

「そうだね!」

 言いながら僕はジャンパースカートを脱いだ。

「これすごく重かった……」

「まあまあ窮屈だしねー。……って、あれ?」

 れんは僕を見て、目を軽くぱちくりさせた。


「姿、変わってなくない?」


「……ま、まあまだスカート脱いだだけだし?」

「だ、だよねー……まさかそんなこと……」

 ひとつ、またひとつ、裸に近づいていく。けど、ブラウスのボタンを外す手も、ストッキングから解き放たれた足も、変化することなく細くしなやかなままで。

「……えと、いお兄。さっきまで裸の時の姿は男だった、はずだよね?」

「うん。家を出るのに着替えた時は……というかこっちで着替えるときも一瞬男になってたはず……でも」


 鏡に写っていたのは、全裸体の少女。

 栗色のサラサラとしたロングヘアに、クリっとした目。均整の取れた細く柔らかくしなやかな肢体。無駄な毛は一切なく——その乳房は、大きくはないにしてもしっかりと形が分かる程度には膨らんでいて。

「……もしかして、さっきのコスプレの姿が定着しちゃったとか?」

 頬を赤く染めた彼女は——僕は、れんの意見に「そんなことある……?」と溢した。

 ここまでのことですら冷静に考えてみればありえないことだったのだ。こうなってもおかしいことではない。けど。


「これから、どう生きれば良いの……?」

 日常生活の不安がどっと押し寄せてきて、涙目になった。

「ひとまず学校には男子高校生のコスプレで通うとか?」

「できるかなぁ……」

「大丈夫。フォローはする」

「……おねがいしまぁす」

 弱々しい声を出した僕に、れんはふふっと笑って。


「いっそ目指しちゃう? 有名なコスプレイヤー」

「……いいかも。それで、インフルエンサーとかになっちゃって」

「モデルさんに抜擢されちゃったり?」

「あはは……夢が広がるね」

 半ば現実逃避な事を言いつつ、僕は肩甲骨を回した。


「とりあえず服着よう? 風邪引いちゃうし」

「そうだね。ブラつけるの手伝って、れん」

「はいはい。……次はなに着よっか。いおりん」

「あれとかどう? 地雷系とか」

「いいじゃん!」


 心は澄み切った、もう迷わない、これから幸せな毎日が続いていく……そんな単純なもんじゃない。これからも曇ることはたくさんあるし、いっぱい迷うし、辛い日だってたくさんある。

 けど……僕は、可愛い。可愛く在っていい。そう、認めることができたから。

 だから、笑っていられる。そう信じられた。


 ——帰ったら、あの女児アニメをもう一度見てみようかな。

 不意に考えたそんなことに、僕は小さく笑みをこぼした。


「なに笑ってるのー?」

「なんでもない!」



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