第82話 Good Dreams
——三年の月日が流れた。
勇者と魔王の激突は、歴史の一頁として静かに閉ざされた。
新たな魔王が生まれることもなくなり、世界は安定を迎えたように見えた。
しかし、魔王の消滅によって野良化した魔物による被害は、未だ各地で続いていた。
そして共通の敵がいなくなったことで、皮肉にも人間同士の亀裂は以前にも増して顕著になっていた。
国家間の利害対立や、民族同士の摩擦。
争いの火種がこの世界から失われることはなかった。
──────
王都から北へ徒歩、一日半の小麦畑では牛が犂を引き、牛方がその横で手綱を操っていた。
畑の隣では、紫色の衣服を纏った男が荷馬車に小麦粉の入った麻袋を積み込んでいた。
その男は、かつて東の魔王と呼ばれたイバイその人である。
畑の主は、ゼンから彼へと引き継がれていた。
彼は、暴力の螺旋から抜け出し、この土地で生活者としての人生を選んだ。
そんなイバイの畑には、時折、カレンの姿があった。
自身の農園作業で多忙な身でありながら、彼女は農業指導を行っていた。
また、彼女は故郷の味をこの地に再現することにも執念を燃やしており、醤油や味噌といった独自の調味料開発にも精力的だった。
そして——王都の賑わう通りの一角に、小さなパン屋があった。
店を開業してから、僅かな期間でその評判は広がり、今や王都でも有数の繁盛店となっていた。
香ばしい小麦の香りが漂う店内には、早朝から焼き上がったばかりのパンが所狭しと並べられている。
「いらっしゃいませ。コーンパンが焼きたてですよ。」
そう言って笑顔を向けるのはシャロンだ。
かつて剣を振るったその手は、今はトングを握り、客との金銭の授受を行っている。
彼女はパンの陳列から接客まで、すっかり店の仕事に馴染んでいた。
そして、厨房の奥でパン生地を力強く捏ねているのはゼンである。
彼は王都の片隅で、自分の居場所を見つけていた。
店先には、木製の小さな看板が掲げられていた。
『ベーカリー小麦堂・王都店』




