第81話 オレたち
シャロンは剣を腰の鞘へと納め、荒い息を整えながら独り言を呟いた。
「……終わった。」
身体中に残る戦いの昂ぶりが、ゆっくりと引いていく。
意識を現実に引き戻し、仲間たちと合流するために街道を歩き始めた。
夜をゆく。
周囲の木々の影が揺れている。
最初は足元を確認するようにゆっくりと歩を進めていたが、数歩進んだところで足取りは次第に速くなった。
やがて、我慢できなくなったかのように駆け出した。
風を切って走る。月明かりに照らされた向こう側に、先ほどまで彼らが乗っていた高機動車のシルエットが浮かび上がってくる。
しかし、その手前——。
路面の上に、黒い塊が横たわっているのが見えた。
シャロンは背筋に冷たいものが走るような、嫌な予感に襲われた。
走る速度をさらに上げ、肺を焼きながらその塊へと一気に駆け寄る。
近づくにつれ、その黒い塊が紛れもなく人の姿をしていることに気づき、胸の奥が悲鳴を上げた。
「……ゼン……っ!?」
背中に剣が突き刺さったまま、ゼンが動かぬ姿で地面に倒れていた。
戦いの衝撃で切り裂かれた服は血に濡れ、むせ返るような血の臭いが生々しく漂っている。
「ゼン! ……ゼンッ!!」
シャロンは震える手で、ゼンの身体を抱き起こした。
呼吸はかすかに続いている。しかし、呼びかけに応える言葉は返ってこない。
「帰るわよ……! 二人で帰るって言ったじゃない……!!」
涙で視界が歪む中、なんとかして彼を高機動車まで運び、後部座席へとうつ伏せに寝かせた。
「…………。」
そして、見様見真似で運転席に座り必死にエンジンをかけようと試みるが何も起こらない。
目につくスイッチを片っ端から触ってみるが、運転の仕方は全くわからない。
夜の静寂の中、助けを求める声を上げても、応える者などどこにもいなかった。
想う人が目の前で命を削っているというのに、自分には何もできない。
その無力感に押しつぶされそうになり、シャロンは後部座席のゼンの側でただうなだれ、涙を止めることもできずにいた。
「……嫌だ……。」
震える手で、ゼンの手を強く握りしめる。
父も、兄も、こうして自分の手の届かないところへ行ってしまった。
戦いは終わったはずだった。
ようやく、終わらせることができた。
「……死なないでよ……。」
「……お願いだから……。」
返事はない。
時が止まったと錯覚するほどに、静寂は長く続いた。
―――――
街道の奥から、甲高いエンジン音が聞こえてきた。
やがて一筋のヘッドライトが闇の向こうに現れ、こちらへ急速に近づいてくる。
現れたのは、カレンとイバイだった。偵察用オートバイを二人乗りで駆り、シャロンとゼンを捜索していたのだった。
高機動車の後部ドアが勢いよく開かれ、カレンが飛び込んでくる。
「ゼン! シャロン! 無事ですか!? ……状況は!?」
「カレン! ゼンが……ゼンがっ!」
カレンは迷いなくゼンに近づき、その状態を冷静に観察した。
「なるほど……。ひどい出血です。」
カレンは傷口に触れ、少しだけ表情を和らげた。
「……息はあります。傷口も、もう塞がり始めていますね。」
カレンは背中に突き刺さった剣を確認する。
「これが残っていると、完全には塞がりませんね。」
「えっ、ちょっと待って——」
「……ゼンなら、抜いても問題ないでしょう。」
カレンは剣の柄を掴んだ。
——ズッ!
一気に引き抜く。
「まぁ、ゼンなら大丈夫でしょう。」
シャロンはまだ目に涙を溢れさせながら、カレンに問いかけた。
「だ、大丈夫って……剣が刺さっていたのよ!?」
すると、横から見ていたイバイが呆れたように口を挟んだ。
「俺と同じ能力の持ち主だろ。息さえあればそのうち治るぜ。」
「帰りましょうか。」
カレンが運転席へと乗り込む。
シャロンは、眠るように横たわるゼンの隣にそっと座った。
四人を乗せた車は、夜の街道を緩やかに走り出した。




