第76話 イバイ・サラザール1
カレンは二人を高機動車の中へと促した。
「確かにここでは、関係ない人を巻き込んでしまいます。戻って、街道で迎撃しましょう。」
ゼンとシャロンは後部座席へ、カレンは運転席へ滑り込んだ。
エンジンを再始動させ、先ほど通った道を逆走する。
揺れる車内にて、カレンはバックミラー越しにゼンへ固い眼差しを向けた。
「ゼン……良いですか。今回、優先する目的は、シャロンと『管理者』を邂逅させることです。相手が素直に話し合いに応じてくれればそれで良しなのですが……。」
ゼンはバックミラー越しに視線を合わせ、静かに言葉を返した。
「……応じなかったら?」
「無理やりにでも応じさせます。群がる敵の兵隊は私が引き受けます。ゼンはシャロンと一緒に『管理者』のところまで突っ切ってください。」
「……。」
シャロンは、深く息を吐き出した。
その瞳には決意が漲り、心には固い楔が打ち込まれた。
「二人とも、ここまで付き合ってくれて本当にありがとう。私はこの戦いの連鎖を、終わらせたいの。」
カレンは進行方向を凝視したまま答えた。
「はい……私に出来ることは、全部やります。」
ゼンは無言のまま、幌の透明フィルム越しに広がる真っ暗な夜を見つめていた。
農村を抜け、開けた街道へ出る。
カレンはエンジンを停止させ、三人は敵の到来を待ち受けた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
間もなくして無数の足音が聞こえてきた。
今夜は、月も星も眩いほどに輝いていた。
太陽の光とは違う冷たく静かな光が、地平線の向こうから迫る不気味な人影の群れを照らし出す。
無数の影はまっすぐ、三人を目指して近づいてくる。
多数の尖兵、紫の装束のイバイ、そして背に白い翼を広げた三人の異形。
その姿が視認できる距離に入った瞬間——。
開口一番、ゼンが腹の底から景気よく怒声を張り上げた。
「止まれよ! コラァッ! 『管理者』とかいう奴に話があるんだよ! この野郎!!」
紫色の装束を身に纏った男が、尖兵の群れを割って悠々と前に出てきた。
「細川禅! 俺も、あんたに話があって来たぜ!」
ゼンはさらに怒気を強めて言い返した。
「俺はなぁ、お前に話すことなんて一つも無ぇんだ! そっちの羽の生えた奴らに用が有んだよ! お前はそこをどけよ!」
イバイは大袈裟に両手を広げて見せた。
「寂しいこと言うねぇ。あんたとまた戦えるって、あの『管理者』ってのに誘ってもらって来たんだけどな。」
後方にいたカレンとシャロンが反応した。
「やはり……あれが『管理者』でしたね。」
「ええ……でも、たくさんの兵隊とイバイ……なんとかして近づかないと……。」
その言葉が途切れた直後——。
白翼の三人のうち、二人が突如として闇の向こうへ飛び去っていく。
ゼンはその場に立ち尽くし、空に向かって叫んだ。
「おい! 勝手に行くな! 待てよ!」
カレンは小銃を構え、ゼンに向かって大声で言った。
「ゼンッ!! さっき車の中で言ったことを忘れましたか! あなたはシャロンを連れて、あいつらを追いかけて!」
ゼンもさらに声を張り上げて返す。
「いくらカレンでも、イバイとこれ全部の相手は無理だっ!」
「私がなんとかしますから、四の五の言わずに早く行って!」
イバイが高らかに笑い声を響かせた。
「ハーッハッハッハ!」
次の瞬間——。
イバイはゼンたちに背を向け、地面を蹴った。
紫色の星が、月を背にして高々と夜空へ踊り上がる。
「オラァッ!!」
激烈な回し蹴りが、浮遊していた白翼の一人の頭部を横殴りに捉えた。
「行けよ! 細川禅! 俺との勝負は今度でいい!」
その言葉を皮切りに、カレンも尖兵に向けて射撃を開始した。
バン! バン! という乾いた銃声が何度も響き渡り、静かだった夜の街道は、銃撃と打撃音がこだまする戦場へと変貌を遂げた。
カレンはその激しい喧騒に負けじと、小さな身体からいっそう大きな声を出した。
「車を使って!! あなた、運転できるでしょッ!!」




