第77話 イバイ・サラザール2
ゼンは急いで高機動車の運転席へ、シャロンも慌ただしく助手席に乗り込んだ。
ゼンは軽自動車しか運転した経験が無い。
「……でかいな。」
視界の高さとシートの広さに圧倒されつつ、ゼンはシートベルトを掴もうとするが、自衛隊車両独特の二点式シートベルトのため、左肩上へと伸ばした手は空を切った。
「ゼン、大丈夫なの!?」
腰の下敷きになっていたシートベルトをようやく探し出し、カチッと音を立てて固定した。
「大丈夫……多分。」
キーを回してエンジン音を響かせ、シフトレバーをドライブレンジへと切り替える。
「追うぞ。」
ゴォォォォォォォ!
ディーゼルエンジンが夜の空気を低く震わせ、高機動車は猛然と発進した。
ゼンとシャロンは車を疾走させ、夜空へと消えた白翼を追いかけていく。
そして、その場に残り一人で殿を務めるカレンは、尖兵の群れを小銃射撃で仕留めていく。
一方、イバイは白翼に対峙し、両拳を上段に構えた。そして激戦の最中でありながら、カレンに向かって声をかけた。
「おいあんたの農園、なんだよあれは!? めちゃくちゃ凄ぇじゃねぇか! 今度、俺にもやり方教えてくれよ!」
カレンは敵を射撃しながら、イバイと目線すら合わせずに言った。
「馴れ馴れしく話しかけないで! 新規就農のご相談なら市役所へどうぞ!!」
その時、先ほどイバイに蹴り飛ばされた白翼が何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がってきた。
その手を開き、頭上へとかざすと、空間が歪み無数の鋭利な剣が空中に現出する。
「……イレギュラーを確認。直ちに排除する。」
機械のように冷酷な声がそう言い放つと同時に、無数の剣の雨がイバイに向けて降り注いだ。
イバイはその攻撃を旋回するように走り、間一髪で回避していく。
「マジかよ! こんな攻撃聞いてないぜ!」
必死に大地を蹴って逃げ回るが、雨あられと注ぐ剣の猛攻は止まらない。このままではいずれ体力を削られ、無数の剣にその肉体を貫かれるだろう。
——まさに、その時であった。
カレンは、白翼に向けて銃弾を発砲した。
——バンッ!
89式小銃の銃身内を通り、腔線によって螺旋回転を得た弾丸が音よりも速く飛翔し、白翼の頭部を一直線に捉えた。
頭部に直撃した弾丸は、そのまま頭蓋を穿ち、脳を貫通する——はずであった。
しかし——。
ガキンッ!!
鈍い金属同士が激突したような音が響き渡り、白翼の顎がわずかに上へと跳ね上がった。
それだけだった。
しかし、銃弾によって頭部を弾かれたほんの一瞬だけ、降り注ぐ剣の雨が途切れた。
イバイは、その一瞬を見逃さない。
「もらったぁッ!!」
力強く地面を蹴り抜く。
〈blow〉によって極限まで高められた脚力が、イバイの身体を弾丸のごとく加速させた。
一瞬にして間合いを食い潰し、白翼の懐へと鋭く肉薄する。
「シッ!」
イバイは右ストレートを打つ。無駄を極限まで削ぎ落とし、最短軌道を通って寸分たがわず急所を撃ち抜く必倒の右拳。
ガキンッ!
しかし、それほどの激打をもってしても、敵の顎を軽く浮かせただけに止まった。
白翼が即座に手を前へと突き出すと、イバイとの間に三角形の結晶で構成された防御壁が展開された。
イバイはその反動で後方へ弾き飛ばされてしまう。
「なんだよそれ! 今のがダメなら、もう俺にはやる事がねぇぞ!」
「ボサッとするなっ!」
カレンは叫ぶとともに、小銃の切替レバーを「レ(連発)」の位置へと切り替えた。
——ダダダダダダダダダッ!
連続した銃声が夜の街道に鳴り響き、高密度な弾幕によって三角形の防御壁が少しずつ砕けて欠けていく。
カレンは射撃を継続しながら、再度イバイに向かって叫んだ。
「こいつはあの防御壁を展開している間は、攻撃ができません! 手を緩めずに攻め続けて!」
別の尖兵が横からカレンに向かって迫ってくる。カレンは対処のために銃口の向きを白翼から外した。
イバイは再び白翼の懐へ。
一発目の拳。
ガンッ!!
まだ防御壁が残っている。
二発目。
ガンッ!!
三発目。
バキンッ!!
三発目の拳が突き刺さった瞬間、三角形を組み合わせた防御壁に亀裂が走り、木端微塵に砕け散った。
「お前は、あんまり楽しくなかったぜ。」
「じゃあな。」
——ゴッ!!
イバイの右ストレートが、ついに白翼の顔面を真正面から捉えた。




