第68話 新・北の魔王3
M2 12.7mm重機関銃——通称「キャリバー」。
現実世界において、開発から100年以上を経た現在でも、幾度の改良を重ねられながら世界中の軍隊で一線級として採用され続けている傑作兵器である。
対物ライフル並みの50口径大型弾丸を毎分四〇〇〜六〇〇発という連射速度で打ち出す、凄まじい破壊力を誇る重火器であった。
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白い水蒸気が風に吹き散らされ、視界が一気に開ける。
その先に現れたのは、城壁に固く据え付けられた武骨な重機関銃の前で、射撃姿勢を取るカレンの姿であった。
カレンは空に浮く竜を見据えたまま、傍らに立つフローレンスと術戦士たちへ向けて告げた。
「大変お待たせいたしました。私は……自分が口にした言葉は守ります。」
空の黒竜は、カレンの前に鎮座する不気味な鉄の塊を見下ろして嘲笑った。
「なんだ、その珍妙な鉄の塊は。そんな玩具ごと、一瞬で灰燼に焼き尽くしてくれるわ!」
カレンは迷いなく両手でグリップを握り締め、押し金を一気に押し込んだ。
——ガガガガガガガガガッ!!
先ほどの89式小銃の銃声などとは比べものにならないほど、大きな銃声が空気を震わせて要塞全体に轟き渡る。
あまりの音圧と破壊的な威圧感に、周囲のフローレンスや守備兵たちは更なる衝撃と動揺を隠せない。
排出された空薬莢と金属製のベルトリンクが、乾いた金属音を立てて城壁の石床へ豪雨のように降り注ぐ。
数発ごとに組み込まれた曳光弾が、幾本もの赤く太い光の線となって朝の空を真っ直ぐ切り裂いていった。
——ガガガガガガガガガッ!!
本能的な死の危険を察知した黒竜は激しく羽ばたきを強め、迫り来る鉛の嵐から逃れようと空中を右へ左へ狂ったように飛び回る。
赤い光の軌跡を描く弾幕が、逃げ惑う竜の巨体を執拗に追う。
——ガガガガガガガガガッ!!
ついには一発の巨弾が、竜の巨大な左翼膜を捉えた。
巨大な弾丸は、竜の誇る強固な膜をいとも容易く貫通して引き裂く。
竜は激痛に耐えかね、悲痛な叫び声を上げた。
「がぁぁぁぁぁっっ……!?」
カレンは竜の進路を先読みし、空を舞う巨体へ照準を合わせ続けた。
死の鉛の嵐が、なおも黒い竜の全身へと留まることなく降り注いだ。
「ぐわぁぁぁぁぁっ……!!」
竜は空を裂く雷鳴のような断末魔を上げた。
12.7mm弾は硬い竜の鱗をも易々と貫き、巨体の反対側へ抜けていった。
両翼、胴体、尻尾、そして頭部。
北の魔王と呼ばれた黒竜は、全身を穴だらけに穿たれた。
金色の双眸は輝きを失い、流れる雲を映したまま吸い込まれるように地に向かい落下していく。
そして、叩きつけられた先は、いまだ紅蓮の炎が猛烈に燃え盛る空堀の中であった。
カレンは重機関銃から手を離し、大勢の守備兵たちとともに城壁の上から炎に呑み込まれていく竜の最後を静かに確認する。
緊張の糸が切れたカレンは一気に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
そして、駆け寄ってきたフローレンスを見上げ、一つ質問を投げかける。
「……怪我人は、いませんか?」
フローレンスは万感の思いを込めた温かな笑みを浮かべて答えた。
「死者は出ませんでした。術戦士に軽い火傷と魔力枯渇者が出ている程度で、幸いにも全員命に別状はありません!」
カレンは安堵の息を漏らし、静かに呟いた。
「……何よりです。」
フローレンスは笑顔を絶やさぬまま、優しくカレンに語りかける。
「カレン殿。私からも一つ、質問をさせていただいてもよろしいですか?」
「先ほど『言ったことは守る』と仰っておられましたが……その『言ったこと』とは何のことでしょうか?」
カレンもまた、どこか気恥ずかしそうに柔らかく微笑んだ。
「戦闘が始まる前……必ず我々が勝つと宣言しました。ですが……本当は不安でずっと胸がドキドキしていましたよ。」
フローレンスは深く胸を打たれ、座り込むカレンへ向けて手を差し伸べた。




