第50話 暴かれた世界2
南の魔王は椅子に座り直すと、カレンの質問に答えた。
「私は気が遠くなるほど永い時を、この地で世に干渉せず、『魔王』として生きてきた。」
感情の起伏すら窺えない声が、狭い部屋の空気を重く沈殿させていく。
「永い時を生きていると、ごく稀にだが……この世界の神にも等しい存在と対話し、接触する機会がある。」
カレンは警戒を解かぬまま、硬い声で問い返した。
「神、ですか……?」
「その神のような存在は、自らのことを『管理者』と名乗っていた。」
「その者との対話を通じて、私は世界で起きていることも、過去に埋もれた出来事も、そしてこの世界の成り立ちすらも知ることができた。」
どこか悠遠で遠回しな語り口に対し、カレンの瞳に苛立ちの色が浮かんだ。
「……もう少し簡潔にお願いできますか? 結論を後回しにする冗長な説明は不愉快です。」
相手を射抜くような視線を向けたまま言葉を継いだ。
「つまり要約すれば、その『管理者』と名乗る人物から教わったから知っている……ということですね?」
南の魔王は急かすカレンの態度にも動じることなく、落ち着いた声で応じた。
「そう焦るな、西の魔王。他に何か聞きたい事はあるかね?」
迷わず次の質問を投げかける。
「魔王が討たれ続けた場合、世界の均衡はどうなるのですか?」
「空位となった魔王の座は、遅かれ早かれ新たな魔王によって埋められる仕組みになっている。」
「……自然に? 新たな魔王が生まれると?」
「強い力の魔物がその座に就くこともあれば、稀に……貴公らのように外部から呼ばれる者が据えられることもある。」
「私たちが、こちら側の人間ではないという事も知っていますか?」
「もちろん、知っている。東、西、そして中央の三人は、あちら側の世界から来た人間だ。」
カレンは一歩踏み出し、核心に触れる。
「なぜ、私たちはこの世界に引きずり込まれたのですか? それと……元の世界へ帰る方法はないのですか?」
「貴公らは、この世界に来た時に特別な力を得ただろう。あちら側の人間はこの世界ではあり得ない強大な力を持つ。」
南の魔王は静かに首を振った。
「こちらの世界で均衡を保てるほどの強大な魔王が不在となった時、ごく稀にあちら側の人間がその穴埋めとして引き寄せられる。」
「そして『魔王』の座へと据えられるのだよ。」
「では……その管理者は、どうして私たちを選んだのですか?」
「選んだのではない。恐ろしいことに、その管理者ですら、向こうの世界から誰が引き寄せられて来るのかまではわからないそうだ。」
二人の問答を黙って聞いていたゼンが、耐えかねたように横から口を挟んだ。
「おい! 帰れる方法は!? あっちの世界へ帰れた奴はいるのか!?」
南の魔王は、どこか哀れむように視線を落として答える。
「帰れる方法はおそらく存在しない。私の永い記憶の限りでも、元の世界へ帰還できた者は一人として存在しない。」
「そうか……。」
ゼンは力なく吐き捨てると、テーブルの木目を見つめ、言葉を続けた。
「……それなら、それでもいい。どこに住んでも同じだ……。」
カレンもまた、冷ややかな眼差しで言葉を添えた。
「今は大雨からの復興の真っ最中です。多くの負傷者や避難民もいます。」
そして、威圧感を込めて言った。
「王都やその周辺を戦場にするのは、お互いにとって望まない結果になりそうですね。」
「……なるほど。お互い望まぬ結果、か。」
南の魔王は深く納得したように小さく頷いた。
「では、こうしよう。三日後、日の出の刻。王都の南に広がる荒野に勇者シャロンと騎士団に来てもらい、私と決闘をする。」
「これならば文句はあるまい。貴公ら二人が介入する道理も無いはずだ。」
ゼンは忌々しそうに横を向き、吐き捨てるように言った。
「勇者とか魔王とか俺には元々関係ない。……勝手にしろ。」
カレンは最後の質問を投げかけた。
「最後にいいですか? あなたは人間に特別な感情はなさそうですが、どうしてそこまで戦いに拘るのですか?」
「それが魔物の性であり、課せられた役割だからだ。」
「全く理解ができません。」
「理解など出来ようはずもない。……私が死んだとしても、その役割は果たされる。」




