第46話 激しい雨1
大雨は一日中降り続いた。
天を突くような雷鳴とともに、暴風が叩きつけるように吹き荒れる。
まさに未曾有の天災だった。
濁流と化した川は至る所で氾濫を起こし、家屋は次々と浸水していく。
丹精込めて育てられた作物は容赦なくなぎ倒され、主要な街道は崩落した土砂や流木、瓦礫によって完全に分断された。
各地で人的被害が相次ぎ、多くの集落が孤立した。
夜になっても雨勢は衰えず、世界がそのまま水没してしまうかのような錯覚さえ覚えるほどだった。
人々は家屋の崩落や浸水の恐怖に怯えながら、ただじっと耐えて朝を待つしかなかった。
ゼンの畑は幸いにも休閑期に入っていたため、農作物そのものへの決定的な被害は免れることができた。
翌日。
昨夜までの狂乱が嘘のような、透き通るような晴天だった。
ゼンはまず、いつものようにパンを焼くことにした。
石窯に薪をくべ、火を起こそうとする。
しかし、激しい雨で湿りきった薪は、容易には火を受け入れなかった。
何度も火種を吹き育て、苦労しながらなんとか着火に成功する。
煙突からは、湿気を含んだ白い煙が立ち上っていった。
あらかじめ発酵を済ませておいた生地を、熱を帯びた窯の中へと手際よく滑り込ませる。
しばらく経つと、香ばしく暖かなパンの焼き上がる匂いが辺りに漂い始めた。
ゼンは焼き上がったパンをかごに詰め込み、家を出た。
近隣の家々を訪ね歩き、パンを配っていく。
ただパンを配るだけではない。行く先々で道に倒れた巨木を押しどけ、近所の住民と協力しながら街道を塞ぐ土砂をシャベルで掻き出した。
作業を終え、泥だらけになって帰ってきた時には、すでに空が茜色に染まる夕方になっていた。
家に入ろうとした時。
遠くから、エンジンの轟音が聞こえてきた。
音は次第に大きくなり、地面を揺らしながらこちらへ近づいてくる。
泥を全身に浴びた73式大型トラック――通称「3トン半」が、ゼンの畑の前で停車した。
運転席の窓から顔を出したのは、もちろんカレンだった。
トラックから下車した彼女は、急ぎ足でゼンのもとへやって来る。
「ゼン……こんばんは。お願いがあります。」
「カレンか。よく来れたな。」
「大変でしたよ。」
「でも、私はドーザーや油圧ショベルを扱えますから。他の人よりはまだ動けます。」
一呼吸置いて、カレンは言った。
「それより、あなたの畑を貸して下さい。」
ふと見れば、3トン半の幌に覆われた荷台には、不安そうな表情を浮かべた十数人の人々が身を寄せ合っていた。
「孤立した集落から救助してきた方たちです。畑に天幕を張ってしばらく夜営させていただけませんか?」
「お願いします。」
「私の農園は、作物が倒れたままだったり、ハウスも倒壊していたりして、天幕を張れる状態ではありません。」
カレンは深々と頭を下げる。
「そんなにしなくても良い。好きに使ってくれ。」
畑に目をやり、ゼンは言った。
「そうは言っても、畑は雨で泥だらけだ。今日は荷台で休んでもらうしかないな。」
「ありがとうございます。ゼン。」
「……シャロンは無事かな?」
「そうですね。シャロンの安否も気になりますね。この雨だと王都の被害も甚大だと思いますし。」
少し考えた後、カレンは言った。
「明日、見に行ってみますか。」




