第45話 砂糖と塩2
「……シャロン様のご友人、でしたか。」
騎士は隠そうともせず不快感を露わにし、ゼンの身なりを舐め回すように見た。
「しかし、どこで知り合われたのですか? どう見ても王都の人間ではなさそうですが。」
シャロンは拳を握りしめ苛立ちを募らせる。
「放っておいてよ。私の友達だって言ってるのよ。何か文句でもあるわけ?」
「失礼いたしました。ですがシャロン様、このような素性の知れぬ男とお二人で居られては、勇者としての品位が損なわれます。」
その時、注文していた青魚の塩焼きが香ばしい湯気を立てて運ばれてきた。
ゼンは周囲の張り詰めた空気など意にも介さず静かに両手を合わせた。
「いただきます……。」
騎士は小さく溜息をつき、冷ややかな視線を向けたまま静かに口を開いた。
「失礼ですが、お食事が済みましたらお引き取りください。これ以上シャロン様にご迷惑をお掛けするのは、お控えいただきたい。」
ゼンは目すら合わせず、淡々と答える。
「悪かったな。食ったらすぐに出ていくよ。」
シャロンはたまらず立ち上がりかけた。
「ちょっとゼン! 私と一緒に砂糖と塩を買いに行く約束でしょ! ……フローレンス! 私たちの邪魔をしないで!」
フローレンスと呼ばれた騎士は、立っているだけで周囲を圧迫するような威圧感を放っていた。
黒曜石を思わせる漆黒の肌に、肩で切り揃えられた艶やかな銀髪、すらりと伸びた手足、氷細工のように整った、隙のない美貌。
体のラインに合わせて仕立てられた濃紺の騎士団制服は皺一つなく整えられ、胸元には王国騎士団の紋章が銀糸で刺繍されている。
その立ち姿だけで、この女騎士が長年鍛錬を積み、規律と秩序を何より重んじてきた厳格な人間であることが伝わってきた。
「シャロン様はまだお若い。私は、亡くなられた先代や先々代のような、気品に満ちた勇者になっていただきたいのです。」
シャロンは我慢の限界に達し、激昂した。
「いい加減にしなさいよ! お兄様とお父様は関係ないでしょ!!」
店内にいた人々が勇者の怒声に反応し、ざわめきが広がった。
ゼンは静かにシャロンを制した。
「もういい、シャロン。冷めないうちに食おう。」
フローレンスは冷徹な眼差しをゼンに向けたまま、言い捨てた。
「シャロン様は皆の希望たる勇者です。あなたのような身なりの方と連れ立って歩かれては、王国の威信に関わります。」
それだけを言い残すと、フローレンスは店を後にした。
残された二人は黙り込んだまま食事を済ませ、重い空気のまま店を出た。
「ゼン、聞いて。私はあなたと一緒に市場に行くわ。今日の予定はもう決めてるの。だから……さっきのことは気にしないで。」
「それはいいが、一緒にいて大丈夫なのか?」
「いいって言ってるのよ! さっさと行くわよ! 砂糖と塩がいるんでしょ!」
気まずい雰囲気の漂う中、二人は市場へ向かい、無事に砂糖と塩を購入した。
ゼンはそれらを麻袋に詰め込むと、シャロンに短く別れを告げ、一日半の道のりを再び歩いて帰っていった。
その日の夜、空が割れたかのような大雨が降り始めた。




