第4話 北の山1
魔王の家を出て農道を歩くこと小一時間。二人は周囲を立ち並ぶ巨木に囲まれた、北の山の登山口へと辿り着いた。
大樹の影が不気味に長く伸び、足元からはひんやりとした冷気が立ち上っている。周囲の空気は露骨に重く、どこかドロリとした淀んだ魔力が漂っていた。
「ここからは北の魔王配下の魔物が居るようだ。いつ戦闘になるかわからん。」
「……わかってるわ。ここから先が、決して平穏な道じゃないってことくらい……。」
シャロンは険しく聳え立つ山の斜面を見上げ、表情を引き締めて深く頷いた。
「北の魔王の配下……どんな凶暴な魔物が待ち構えていようと、勇者である私が退けてみせるわ!」
しかし、魔王は登山口の奥を真っ直ぐに見つめたまま、ポツリと呟いた。
「……俺は戦うのが嫌いだ。」
少し間を置き、至極当然のことのように言葉を続ける。
「敵が出てきたら、なるべくそっちで解決してくれ。」
「は……っ!? な、何を……何を言っているのよ……っ!?」
身勝手で、それでいて呆れるほど平然とした魔王の言葉に、シャロンは顔を真っ赤にして激しく動揺した。
「戦いを好まない……!? そんなの、魔王としての誇りや威厳はないの!? 私に……私一人に全部押し付けるつもりなの……っ!?」
魔王は特に反論もせず、ただ静かに深緑の山を見つめているだけだった。
シャロンは聖剣の柄を固く握りしめ、唇を噛み締めながら魔王を真っ向から睨みつける。
「……っ。……わかったわよ! あなたがどうしても戦いたくないって言うなら、私が全部、私一人で片付けてあげるわよ! あなたは後ろで大人しく……その、パンでもかじっていればいいわ!!」
「そうか。」
一言呟くと、魔王はそのままマイペースに山道へ足を踏み入れた。
「ちょ、ちょっと! 一人でそんな急に歩き出さないでよ……っ!」
シャロンは慌てて小走りでその背中を追いかける。
麓から立ち上る薄暗い瘴気が、二人の進路を阻むようにうねっていた。静寂に包まれた森の奥からは、こちらの様子を伺うような低い不気味な唸り声が時折木霊してくる。
二人はそのまま険しい山道をひたすら登り続け、やがて麓を抜けて中腹の鬱蒼とした森林地帯へと差し掛かった。標高が上がるにつれ、周囲の空気は一層冷たく、重苦しく変化していく。
そして、森はあまりにも静かだった。
不気味なほどに、静まり返っていた。
立ち込める白い霧の向こう側で、凶暴な光を宿した複数の赤い目が、ゆっくりと蠢いた。
「……この辺りから、一気に空気が変わったわね……。」
霧の中に潜む密やかな殺気を察知し、シャロンは鋭い金属音とともに白銀の聖剣を抜き放つ。全身の筋肉を瞬時に戦闘モードへと切り替え、いつでも踏み込めるよう、鋭い眼光を深い霧の闇へと向けた。
「……来るわよ、敵よ! ……構えて!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「面白そう」「続きを読んでみたい」と思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
ここから北の魔王編が始まります。
RPGで素手で戦うキャラクターが、機械系の敵や硬い鎧を身につけたモンスターとどう戦っているのか、昔からよく想像していました。
北の魔王編では、自分なりにその戦いを描いています。
ぜひ、北の魔王との決着まで見届けていただけると嬉しいです。
今後とも、よろしくお願いいたします。




