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【完結】畑の魔王と光の勇者 ~世界征服よりパンを焼きたい魔王、異世界の魔王にマウントパンチを叩き込む~  作者: 週一週二
序章

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第3話 世界の終わり3

「北の山……そんなこと、私が知らないわけないでしょ! 今の私に、そんな風に指示を出すような真似しないでっ……っ!」

 

 激しい怒りと、それ以上に深い寂寥感(せきりょうかん)にシャロンは顔を歪ませた。


 しかし、目の前の魔王は彼女の感情の激動などどこ吹く風で、変わらないトーンで言葉を重ねる。


「手を貸してほしいならそう言え。」


「な……っ!? ま、また……っ!?」


「何を……何を言っているのよ……! あなた、そんな……そんな、魔王の分際で、勇者である私にそんな……っ!」


 魔王は至極淡々と事実確認をするように言った。


「一人で北の魔王を倒しに行くのか。俺と一緒に行くのか。今、決めるなら協力しよう。」


「……っ! な、何よ……その、まるで……っ!」

 

 顔を真っ赤にしたまま、シャロンは激しく狼狽する。


「そんな風に、選択肢を私に突きつけるなんて……! あなたは、本当に……最低の魔王よっ!」


 魔王との共闘。それは彼女が信じてきた『聖なる勇者と邪悪な魔王』という境界を、自ら踏み越える選択だった。

 

 シャロンはぎゅっと目をつむり、意を決して目を見開いた。


「……決めたわ!」


「手を貸して!」


「あなたと同行して、あなたが本当に悪意の無い魔王なのかどうか、この目で確かめてあげるわ! でも絶対に勘違いしないで! あなたを信じたわけじゃないわ! もし途中で少しでも悪と判断したら、その場で容赦なく斬り捨てるから!」


「わかった。しょうがない。協力しよう。北の魔王配下の魔物は俺の畑を荒らした事がある。お前に加勢する道理はある。」


 あまりにも魔王らしくない、個人的な理由だった。


「……畑を、荒らされた……?」


 予想外すぎる理由に、シャロンは呆然として言葉を失い、碧眼を何度かパチパチと瞬かせた。


 構えていた白銀の剣をそっと下ろし、ふっと身体の力を抜く。


 あきれ果てたようなため息とともに、彼女の唇から自然と小さな笑みがこぼれ落ちた。


「……でも、いいわ。あなたがそう言うなら、その条件を受け入れる。魔王の配下が誰かの暮らしや平和を脅かしているのなら……それは、勇者である私が戦うべき、正当な理由になるわ!」


 それを聞くと、魔王は特に感動する様子もなく、淡々とシャロンに背を向けた。



「まずパンを食べよう。」



「えっ……パンを、食べる……?」


 思いがけない言葉に、シャロンは碧眼を丸くして呆然と立ち尽くした。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! なんでこんな緊迫した状況で、そんな……そんな、お昼ご飯の準備みたいなことを平然と言うのよ!?」


 魔王はシャロンの追及をあっさりと聞き流し、大量のパンを運んできた。


「この辺の魔物も人間も、みんな静かに暮らしている。俺がしばらく留守にするから。留守中の分として近所にパンを配っておく。」


 魔王が自ら焼き上げたパンの香ばしい小麦の匂いが、室内を優しく満たしていく。それは、彼が『恐怖の魔王』などではなく、この土地にしっかりと根を張って生きている一人の『人間』であることを、鮮明に突きつけていた。


「……魔物にも、パンを配るの……? そんな事、魔王がする仕事じゃないわ……。」


 パンを抱える魔王の姿を、シャロンは信じられないものを見るような目で見つめる。


 部屋いっぱいに広がる香ばしい匂いに、思わず喉が小さく鳴ってしまいそうになるのを必死に堪えた。


「……あなたみたいな魔王なんて、歴史のどこを探したって聞いたことが無いわよ。」


「……余った分は、旅の弁当にする。」


「えっ、ええっ!? お、お弁当……!? 討伐の旅の途中で食べるための、お弁当ってこと……!?」


 生活感と庶民感に満ち溢れた提案に、シャロンは頬を林檎のように真っ赤に染めて激しく動揺した。


「そんなの……まるで、これから遠足の準備をするみたいじゃない……っ!」


 勇者と魔王の共闘という、世界の歴史を揺るがすような一大事。それにもかかわらず、目の前の男が用意しようとしているのは、明日のための質素で、けれど温かい食事だった。


 魔王は至極当たり前の疑問を口にする。


「食べないのか? お前は栄養を摂らなくても活動できるのか?」


「た、食べるわよ……!」


 シャロンは恥ずかしさを誤魔化すように、差し出された焼き立てのバゲットを震える手で受け取った。そのまま思い切り一口噛み締める。


 パリッとした香ばしい皮の歯ごたえと、ふんわりとした生地から溢れ出る小麦本来の優しい甘みが、瞬く間に口いっぱいに広がった。


「……何これ、すごく……美味しいわ。」


 旅の緊張と疲労で張り詰めていた心が、温かな味と共に解けていくのを感じていた。


 魔王はシャロンがパンを食べ終えたのを確認すると、静かに腰を上げる。


 そして長いバゲットを何本も背嚢に挿し込むと、玄関の扉を開けた。


「魔物たちの分のパンは、表の籠に置いておく。俺たちはバゲットを持っていく。」


 黄金色の小麦畑の向こうには、北の山々が連なっている。


「行こう。」

 序盤のテンポを見直し、第2・3話、第4・5話をそれぞれ統合しました。


 そのため全体の話数が以前より少なくなっていますが、物語の内容に大きな変更はありません。

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